男の子

 5月9日は『告白の日』

 姉に教えてもらった。


 こんなことになるなんて……。



 ◇


 遡ること一週間。


 自分の部屋で私は勉強していた。

 最近買ってもらったスタンド型のLEDライトを初めて使ったところ、とても勉強が捗っていたのだ。

 姉が来るまでは……。



 ――コンコン。


 律儀にドアをノックして。

 多分、姉だな。


「どうぞー」


「どうもー。お邪魔しますー」


 パジャマ姿の姉が、私の部屋に入ってきた。

 昔から、ちょっとやんちゃな雰囲気の姉。

 かと言って、中身は乙女。

 女子力高めのシルクのパジャマを着てたりする。


 明るく茶色に染めた髪の毛。

 お風呂上りなのか化粧を落とした顔なので、眉がほとんどない。

 テカテカのすっきりした顔でこちらを見てくる。


 こんな顔なのにいつもは美人に見えるんだよな……。

 化粧ってやっぱりすごいんだなって思う。



里美さとみ、彼氏できた?」


 なんなのだ、この姉。いきなり。

 深夜に、妹の勉強を邪魔してまで聞くことか。

 ちょっと酒臭いし……。


「できないよ。中間試験があるから勉強してるの。特に用が無いなら、私勉強するから……」

 そういって姉を追い出そうとすると、姉が私の手を握ってすり寄ってくる。


「えーそんなこと言わないでよー」

 顔も近づけてくる。


「ねぇ、知ってる? 来週の火曜日、5月9日って何の日だと思う?」

 にやにやと笑顔を向けてくる。答えないと終わらないな、これ……。


「5月9日……。語呂合わせで、労様の日とか……?」

 とりあえず思いつくことを言ってみる。

 私をねぎらうために来たのかな?

 それであれば、そんな姉にご苦労様と言いたい。



「ぶっぶー! 5月9日は《告白》の日! 里美も中三でしょ? 誰か告白してくるかもよー。こんな風にー」


 上目遣いで見てきて、瞬きを繰り返してくる。

 酔っぱらいにも程がある。

 追い出そう。


「お姉ちゃん、顔近いし、そんなの私はいりません。私を好きになるなんていないんです」


 姉の手を振りほどいて、姉の肩を押してそのまま部屋の外へと出す。


「あわあわ。誰か告白してくるかもだからねって、注意しに来たのに。あの中学校にそういうのあるからー……」



 ――バタン。



 ◇



 ……姉の言うことをちゃんと聞いておけばよかった。

 下駄箱に呼び出しの手紙が入ってて。

 ハナミズキの木の下に呼び出されたと思ったら、こんなことになるなんて……。



「私、里美ちゃんのことが好きです。付き合ってください」


 私は、男の子からモテないって思ってたんだよ。

 呼び出しの手紙が下駄箱に入ってた時はちょっと期待したんだ。

 けど、なんで、浅田さんなの。からの告白なの……。


「私じゃ、ダメかな……?」


 私の手を握ってきて、上目遣いで。

 まるで姉と一緒の事をやってくる。

 姉はこれを注意しようとしてくれていたのだろう。

 丁重にお断りしよう。



「ごめん、私は男の子が好き」

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