砂場デート

 トンネルを抜けると、そこには優希ゆうき君の手があった。

 じゃりじゃりと砂がついた指先に少し触れた。


「やっとつながったみたいだね!」


 中学生が遊ぶにしては小さな公園。

 そこの砂場で二人で山を作って、山の中にトンネルを作っていた。


 中学生にもなって何やってるんだって、私だって思うよ。

 けど、優希君がやるって言いだして聞かないから……。

 せっかく部活が休みなんだから、もうちょっと楽しいデートがしたかったな……。


「どう? ちゃんとつながったかな?」


 優希君は砂場に膝までついて、夢中になっている。

 制服は砂まみれ。

 一生懸命山に手を入れて、山が崩れないように慎重に穴を掘っていた。


「美緒のところまで繋がっても終わりじゃないからね! 今からが本番! バケツに水入れてこよう」

「……はぁ。いつまでやるのこれ?」


 さすがに中学生にもなって、デートが公園の砂場なんて嫌すぎる。

 私は男を見る目が無かったのかな……。

 優希君が、こんな子供っぽいなんて思わなかったよ。


「そっか、こういうのは男の俺がやるよ! 待ってて!」


 ……そういうのじゃないんだよ。


 優希君は両手を広げて『待ってて』ってジェスチャーをすると、砂場に置いてあったバケツをもって水道まで走っていった。


 見た目はカッコいいんだよなー。

 優希君が水を汲んでいるところを眺める。

 手足は長くて、身長も175cmって言ってたし。

 細身で身長高くて好きなんだけどな……。


 バケツを持っている腕には、筋肉の筋も見える。

 ……良い。


「よし! 川を作ろう!」

「わかったよ。出来上がるまでやるよ……」


 砂場に戻ってきた優希君はトンネルの手前のところから、バケツの水を注ぎだした。

 少しずつ慎重に水を流していく。

 水が少量注がれないため、水は砂場に吸収されていく。


「あれ? 全然川にならないな?」

「優希君、もうちょっと勢いよく流さないと……」


「こう?」

 少し勢いがましたが、それでも水は流れなかった。



「優希君、私がやるよ」

「マジで? 気を付けてよ?」


 何を気を付けるのか……。

 しゃがんだ姿勢から立ち上がる。

 ずっとしゃがんでいたせいで、足が痛い。

 砂場で遊ぶんなんて、やっぱり中学生のすることじゃないよ。


 優希君の方へと一歩踏み出そうとするが、足が言うことを効かなかった。

 せっかく作った山を蹴飛ばしそないように、足を横に避けると体制が崩れてしまう。


「わーーっ……」




ぽふ。



「危ないよ? 気を付けてっていったじゃん。ね?」


 優希君の笑顔が近い。

 転びそうになった拍子に優希君の胸に飛び込む形になってしまった。

 優希君は、しっかり私を受け止めてくれた。


 優希君の顔、近くで見るともっとカッコよく見える。

 瞳に吸い込まれそう。


 このまま、近づけばキスも……。


 5秒ほど見つめあったのか、優希君はにこっと笑った。


「『もっと勢いよく』だったらよかったのにね」


 ……意味深な事を言われた気がした。

 恥ずかしくって、私は一歩後ずさってしまった。

 優希君は爽やかな笑顔で私を待っている。



 ……砂場デートっていうのも、好きかもしれない。

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