放送室

「本日のリクエストは、お昼にはぴったりの曲ですね。リスナーの方には食いしん坊さんがいらっしゃるのかな?」


 曲の紹介をしながら、厚いガラス越しに見える紗季さきへ目線で合図を送る。

 紗季は私からの合図を受け取って、放送機材をいじり始めた。


 新しめの高校なので、部屋も綺麗で機材も新品だ。

 紗季に誘われるように放送委員になったけど、紗季はただ機械をいじりたかっただけだなっていつも思う。

 紗季が機械をいじるとき、いつも目を輝かせている。


 ヘッドホン越しにイントロが流れ始めたのが確認できたので、タイミングを合わせてタイトルを読み上げる。

「それではお聞き下さい。団子坂46で『美味しかった』」


 マイクのスイッチを切って、腕を伸ばす。

「ふぅー。ひと段落ー」


 紗季はこちらを見て、ウインクしてる。

 分厚い眼鏡をかけて、片目は前髪で完全に隠れてて。

 表情から見るにウインク何だろうけど、あれをわかるのは私くらいだろう。

 紗季は、テレビ局かラジオ局にでも就職したいのかな。


 私はヘッドホンを取り、マイクスタンドへかける。

 パーソナリティーが喋る部屋と機材がある部屋とは分かれている。

 私は重い防音扉を開けて、紗季のいる機材部屋へと移動する。


「今日もこれで終わりだね」

「そね! お疲れアオっち!」


 高校に入ってから知り合ったのに、初めからこんな接し方。

 はっきり言って変な子。

 それでも私の唯一の友達。



「……アオっち、これ終わったらさ」

「なに? いつにもまして神妙な声出して……」


 急に黙る。

 こんな姿をして紗季はマシンガントークをかましてくるのに。


 紗季は黙って立ち上がって、私に詰め寄ってくる。


 ……何だろう。

 私なんかしちゃったかな……。

 さっきまで笑顔だったのに……。


 近くで見ると、実は紗季って美人なんだよな。

 顔の大部分を隠して。


 それにしても近いな……。

 美人顔が間近に……。

 ……私は耐えられないよ。


「……顔近いよ、紗季……」


 もっも紗季の顔が迫ってくる。

 そんな、放送室で二人きりだからって……。

 いつもなに考えてるのかわからないけど……。

 これって、キスでもされるの……?


 反射的に目をつぶってしまった。

 なんだろう、紗季のことなら何でも受け入れてしまう。


 近づいてきた紗季は私の顔の横へと来たようだ。

 これだけ近いと、熱で場所がわかる。

 紗季は、耳元でそっと囁いた。


「昼ごはんは、お団子にしよう」

「……はい」


「じゃ、曲終わるからアオっち戻って?」

「……はい」


 重いドアを開けて、また防音されたアナウンス室へと戻る。


 はぁ……。

 放送室は、ドキドキがいっぱいだ……。


 私は紗季といる放送室が好きだ。

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