パンダ

「絵日記がGWの宿題なんだ? ‌家にいても書くことが何もないか……」

父は、学校からのプリントを眉をひそめて眺めている。


詩織しおりはどこか行きたいところはある?」

「私、動物園行きたいー!!」



 私の学校では毎週『先生からのお便り』というお知らせのプリントが配られる。

 今週の『先生からのお便り』では、GWの過ごし方に関するお知らせがのだ。



 ――GWは子供にとって長い休み期間です。

 また、ご家族の方もお休みが多いのでは無いでしょうか?

 こんな時は、お子様と過ごす時間を少しでも長くとってあげてください。

 つきましては、GWの宿題として絵日記を出します。

 お子様と楽しい思い出を作ってください。――



「先に宣言してくれたら予定も立てやすくてありがたい。あの先生親切だなー」

 父が仕事から帰ってきてすぐ見せたこともあり、まじめな顔でプリントを読み上げていた。


「動物園だと、せっかくだから大きい動物園に行こうか!」

「うん!」




 ……ふふふ。

 この『先生からのお便り』は、実は偽物。

 私が作ったのだ。

 小学生だって、パソコン使えるんだぞ!

 これで、GW遊びに連れて行ってもらえる!

 動物園に行きたかったんだ。


 GW楽しみだなー。



 ◇


 GW初日。

 私とパパは、JR上野駅へと着いた。

 長い電車の旅。

 電車を降りると、ホームが何個も何個も並んでいた。

 隣のホームにも、その隣にも人がいっぱいいる。



「バパ、駅広い……。人いっぱい……」

詩織しおりは、この駅初めてだっけ?」


 ホームごとに、全部電車の色が違くって。

 緑、水色、オレンジ、青……。

 すぐに電車も来る……。

 都会だ……。



 ホームからエスカレーターで上がると、デパートみたいにお店がいっぱいあった。

 動物園に来たはずなのに……。

 ここは、都会だ……。



「パパ……。動物園って都会にあるんだね……。こんなお店いっぱいのところに……」

「ここは駅中だから、改札出たら緑が広がってるよ」


 改札を出て、上野動物園への向かう。

 そこまで行くにも道幅が広い。

 美術館?もある。


 やっぱり都会だ。


 動物園の入り口あたりからは、雰囲気が変わってきた。

 段々と建物がなくなって、自然が溢れていた。


「そうだ、せっかくならパンダでも見るか」

「見たい!」


 動物園に入園してすぐのところに、パンダを見る列というのがあった。

 そこにパパと並んで待った。


 パンダ。初めて見る。

 自然と顔がにやけてしまう。


 列が進んでいくと、ちらちらとパンダが見えてきた。


「パパ!! パンダ!!」

「やっと見えたね! ご飯食べてるところか、可愛いなー」


 パンダはのんびりと寝転がっていた。

 手には笹の葉っぱをもって、マイペースに食べている。


 そんな姿に、私はびっくりした。

 こんな都会にいるのに。

 その中で、こんなに人が並んで見ているのに。

 人の目を気にしないのんびりとした姿。。


 私はとってもカッコよく見えた。


「パパ。パンダカッコいい」

「カッコいい? 可愛いの間違えじゃないか?」


 父は不思議そうにしている。


「私、パンダみたいになる!」


 人の目を気にせず。悠々自適に。

 私は、パンダが好きになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る