笹舟の大冒険

 何でか、私の体が小さくなっちゃったみたい。


 気づいたら、大きな笹の葉っぱの船の上に乗ってるの。

 なかなか沈まないことにびっくりです。

 ダイエットしてたから、効果出たかな?



 それにしても笹の葉って撥水力の塊っていうけど、本当だね!

 なんでなんだろうなー……。

 って、ダメだダメだ!

 いつもの癖で、調べようとしちゃダメだ。

 笹の葉っぱが破けたり、この葉っぱから落ちたら一大事だよ。

 一応私は泳げるけど、水の中には何があるかわからない。


 この川は見たことないけど、流れはそこまで早くなくて。

 私が載っている葉っぱ以外にも、緑色の葉っぱがちらほら落ちてて。

 川の傍には新緑が芽吹いてて。

 初夏って感じ。

 気持いなー。


 ……くつろいでる場合じゃない。

 今は、生命の危機にさらされていることは確かなのよね。


 ところどころ岩に当たったりして。

 スピードが殺されるからいいけど、揺れがひどい。


「わーーっと」


 危ない危ない。

 葉っぱから落ちるところだった。


 どうなっているんだろう。


 ……。


 あれ。


 水の流れる、大きな音が聞こえる。


 流れが少し早くなってきてない?


 石も無くて止まれるところも無い。


 まずくないかな。

 私くらいの小ささからしたら、いわゆる『滝』だよね。


 ああ、終わった。

 私は何か悪いことしたのかな。

 一寸法師さんだったらどうしたのかな。


 ああ。

 スプラッシュマウンテンくらいだったら、私にも耐えれるけど。


 せめて、安全ベルトが欲しい。

 どうしようもない。

 落ちるときは、目をつぶっちゃいがちなんだよな。

 せめて、死ぬ前に最後の絶景でも見よう……。


 私・イズ・フォーエバー。


 ……PCの中の黒歴史的な文章は、見つからないフォルダに入れてるし。

 日記帳には鍵かけてるし。


 あとは、あとは。

 大丈夫。

 私は、きっと天国へ行ける。

 悪いことしてたら、今のうちに懺悔しなきゃかな。

 妹のプリンは、私のお小遣いから出してるから、少しだけ食べても悪くないはず。



 ああ。もう滝が目の前。

 死んじゃったら、誰か私のこと探してくれるかな。



 ◇



 はっ!!!


 夢か!!!



「お姉ちゃんおはようー!」

 妹が、私の体の上に乗ってくる。


「どう? 良い夢見れた?」

「いや、すごく悪い夢を見たの。夢でよかった……」


「水の流れる音が睡眠には良いらしいって言ってたのになぁ。私はやめておこうっと」

「……なるほど。それのせいだったのか……」


 ……怖い夢だったけど、冒険って楽しくて好き。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る