-VOICE- 彼方に届く桜色の歌声

 やあやあ皆さん、こんにちは。いや、おはよう、またはこんばんは……かな?

 とりま、あたし風花桜歌の物語はさっき終わったんだけど、ここで番外編!!

 へへ、読者の皆さん、ここで話が終わると思った?ざんね〜ん、まだまだちょっと、ちょこっとだけ続きまーす。

 というわけで、番外編!!あたしが彼に、未来の旦那様、彼方くんに初めて声を聴いてもらった、いや、聴かれた……かな?拝聴していただいたある日の事です。

 それでは~、どうぞ!!


 もぐもぐもぐもぐ。もぐもぐもぐもぐもぐもぐ。

 今、僕の隣では可愛らしい女の子が黙々とサンドイッチを食べている。

 はむはむとほっぺた一杯に詰め込んでもなお、口に押し込んでいる彼女、風花桜歌はどこかハムスターのようである。

 僕らは食堂の一角の席に向かい合って座り、各々が用意した昼食にありついている。

 僕はとうに頼んだ定食を食べ終え、片付けているのだが、桜歌さんは自前の弁当に合わせて食堂で買ったサンドイッチも食しているので時間がかかっているのだ。……かなりの大食いだな。

(太らないのかな……?)

 痩せの大食いというやつだろうか。一心不乱にむしゃむしゃ食らいつくこのハムスターに少しいたずらしてみたくなって、サンドイッチからハムだけ抜き取った。……抜き取った……ら、まさかこうなるとは。


 うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい。……うまい!!

 あっしは必死に餌に食らいつく獣でやんす。

 久々に食が美味しく感じるようになって、最近はついついママうえから賜ったお小遣いをおにぎりやサンドイッチに使ってしまう。

 なんて罪深い女なんだ、あっしは。

 なんてのはどうでもいいとして、食事が楽しめるようになったのは本当だ。彼方くんと付き合って一年、あたし自身が明るくなったからだろうか。

 くふふ〜、サンドイッチがこんなにうまかっちゃんだったなんて、人生最大の盲点だったわ〜。

 ああ〜、うんめぇ〜……!!めぇ~めぇ~メエ〜、羊になっちゃうわ〜ん。

 と、そんな至福の時間に魔の手が。

 実際に手が伸びてきて、あたしのレタスハムサンドイッチのハムがするりと逃亡する。

 ……え?…………え?ちょ、ええええーーー!!?

 あたしのハムちゃんが、歯形の付いたかじりかけのハムちゃんが彼方くんの口に向かっていくぅ〜。そしてそのまま〜?

 はぶしっ。

 風花桜歌のマーキング済みハム、死亡。推定時刻、十二時三十分。

 あたしは、壮絶な喪失感とともに失意の中、ぼんやり涙を浮かべ、残りのレタスくんとパティちゃんを食べた。

 なむなむ〜、ポクポクちーん。


 時は過ぎて放課後、あたしは彼方くんを家に呼んだ。

 来てもらうのは初めてだから凄いドキドキするけど、大丈夫かな。一応お母さんにはLINEしといたけど、なんかやらかさなけりゃいいけど。

「あら〜、いらっしゃーい!おうちゃんの彼ピッピさんでしょ?さあ上がって上がって」

 ……彼ピッピ?

「ど、どうも」

「話に聞いてる通り、可愛い顔した子だね〜!!これはお母さん興奮して襲っちゃうかもー!」

「……はえ!?」

 あたしはさらっと近付くと横腹に一発、拳を打ち込み、お母さんの耳元に顔を寄せ、「余計な事言うな」と耳打ちした。

 振り返り、彼方くんには満面の笑顔を撒き散らした。何事もなかったように。

 にこーっ。にこにこ。

 一応ウィンクも。きゃぴっ。

「はは、賑やかだね、桜歌さんち」

 こくりこくり。頷いとく。とりま

 そして何故か隣のママうえも頷く。とりま?こくりこくりと。


 あたしはとりあえず彼方くんを部屋に呼び込むと、オレンジジュースを提供する。

 ごくごくっ。

 ただ部屋に彼方くんのジュースを飲む音が聞こえる。

 カタリと飲み干したコップをテーブルに置くと、彼方くんは正座するあたしに身体をよいせよいせと寄せてくる。

 ドキドキ、ごくり。

 な、なんでこんなに近くに……?

「ねえ、桜歌さん。桜歌さんのお母さんが話に聞いてた通りって言ってたけどさ、やっぱり家だと喋れるの?」

 ………………。あたしは目を伏せ、頭を横に向けた。

 なぜか、問い詰められているように感じて、罪悪感を感じる。

「……ねえ?どう?」

 彼方くんがあたしの顎に手を添える。そっと、優しく、それをこちらに向けた。

 彼方くんが覆い被さるように鎖骨を見せ、たらんと制服のネクタイを垂らす。

 ずるい。そんなのずるいよぉ。

「いいね、そんな顔も可愛いと思うよ」

 彼を睨め付けるように見上げるあたしは、下唇を噛んだ。

「僕みたいに可愛い子が好き、なんだよね」

 唇が近づく、彼の。

「僕、ううん、アタシとキスするよりも声聴かれるの恥ずかしい?」

 彼が卑しくも美しい微笑を湛える。

「(……こくん)」

 あたしの返事を見て、彼方くんの目が三日月形に笑う。

「……そっか~。じゃあ、試そ」

 ……えっ。やめてよ。きゅ、急にそんな。

 ファーストキスはもっとドラマチックなの期待してたのに、こんな。……こんな。

 彼の唇が近付いてくる。優しい表情を顔に貼り、肩を掴まれた。

「ひっ、ひぐぅ」

 咄嗟に目をつぶる。

「……可愛い」

 ちゅ。

 暗い闇の中で唇に柔らかな感触がして、すぐに濡れたものが差し込まれた。

「んん!!んんっく、はふ」

 まさかディープな方までされると思わなかった。否、誰が思うか。

 あたしはぞくぞくする感覚に襲われる度にはしたない声をだして、時々瞼を開くと彼方くんの閉じた瞼の睫毛が側にあった。

 ……なっがいなぁ。女の子みたい。

 時々、雄の顔をした彼方くんと目があってお互い顔を真っ赤にした。


「急にごめんね、つい嬉しくて気持ちが抑えられなくなっちゃった」

 ………………。

「(ぷいぷい)」

 首を振るあたしは思う。……ひどいよ。

「今度はちゃんと聞かせてくれる?君の、声」

 ああ、ひっどいなー。ほんと、彼方くんは。

 あんなに恥ずかしい事した後なのに。まだドキドキしてるのに。まだまーだ要求するなんて、欲張り。

 ……ふんだ。

「(こくり)」

 いいよ、あなたになら。今まで追いかけてきた、初恋の君なら。

「か……なた、くん」

 あたしは震える唇にひきつくほっぺたを必死に上げて、不器用な笑顔を作った。

「初恋、は……君、です」

 そうだよ。君の事、ずっとずっと、

「ずっと好きでした」

 そしてこれからも。


 これが初めての、正真正銘最初の会話!!

 どうだった?ドキドキした?そこの読者のちみ!

 あたしはもうドっキドキだった。心臓に悪いよ〜。ほんと死ぬ。てか死ね。

 おっと、これは暴言暴言。慎みます、オホン。

 今まで読んでくれてありがとう。あたしはこのなんでもない物語が一人でも多く知ってくれたのが嬉しいよ!

 そして、認知度の低い緘黙症が早く日本に、若者に浸透してくれるといいなぁ!

 これからもあたしみたいな喋れない人、彼方くんみたいな自分の性に迷う人が一人でもいなくなりますように。

 それぇ〜じゃあ、まーたね〜!

 終・わ・り、ちゃんちゃん。

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届け、あたしの聲。feat空に舞う幸せな風花。 蒼井瑠水 @luminaaoi

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