楽興の時を追え

@o_ka5573

第1話

静かな暗闇に満ちた、狭い空間に、1人の少女が立っている。

少女は無表情で、ただ一箇所、暗闇に一筋の光を差し込んでいる隙間に向き合い、佇んでいた。

少女は、その隙間に黒々とした大きな箱を見ていた。箱と自分以外は、何もない。孤独な道を、ただ光が冷たく照らしている…。と。

コツ、と硬く小さな足音が響き、続いて微かな衣擦れの音が少女の隣に並んだ。その後ろに、さらに別の衣擦れの音が続いていく。

「……いよいよだね」

そっと声をかけられ、少女はゆっくりと横を見、そして振り返った。

温かく、それでいてしゃんと背筋の伸びるような、確かな信頼が、そこに広がっていた。

表情を和らげ、少女はそれに応えるように頷く。少女が一歩身を引くと、衣擦れの音と足音は、光が漏れ出す隙間へと消えていった。

再び視線を前へ戻した少女に、もう黒い箱は見えなかった。代わりに見えたのは、扇を広げるように美しく整然と並ぶ、仲間たちの姿だった。


私は、もう、大丈夫。


すっ、と短く息を吸い込む。

少女は自信に満ちた微笑を浮かべ、仲間たちが待つ温かな光の中へと、足を踏み入れていった。

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