第9話 でっちあげ
「正樹から奪ったのね。そのスマホ」
「これを持ってる経緯じゃなくて、これの中身だよ。問題は」
「中身?」
「このスマホには正樹が死ぬ前の映像が入ってる。見るか?」
隼人はスマートフォンを涼の前にかざして、動画を再生する。
バンッ
銃弾が放たれる音がする。それが正樹の背中越しに心臓を撃ち抜く。
「へへっ。やってやったで。どうや? 勝った瞬間から殺される気分は」
「てめぇ……」
そこから映像が途切れている。
「高遠が背中から心臓を撃ったのが分かるだろ。犯人はあいつだよ」
「でもこんな映像フェイクかもしれない」
と涼は否定する。
隼人は焦った。
ハゲ親父の伝手を頼って作ったディープフェイク映像だ。けど、そんなのはどうだっていい。
「ならこの痕を見てみろ」
と言って隼人はスマートフォンに着いた弾痕を見せる。
「背中から心臓を貫いて、スマートフォンを破壊した。だから映像が途中で切れてるんだ」
「じゃあ本当はあいつがやったの?」
「そういうことだ」
と隼人は頷く。
しかし、実際はその弾痕も後から作ったものなのだ。
つまり彼は偽物の証拠で涼を説得したのだった。
「どっちが本当のことを言ってるか確かめてみようぜ」
「そうね」
涼はそう言った後、炎の壁を上回る質量の氷を一瞬で発生させて炎を消した。
「高遠。戦いを中断して」
と涼は言う。
「なんや。今いいところやねん。ケリが着いたらすぐに話するわ」
「あなたがそうやって拒否するっていうなら、雷神の側に着くわよ」
と涼が言う。
それを聞いた高遠は慌てて、氷の壁を飛び越えて涼と隼人の下へとやってきた。
「なに考えているねん」
「よぉ高遠。美香ちゃんゲットだぜ、する前によぉ。はっきりさせておかなきゃいけねぇことができたんだよ」
「はっきりさせることってなんやねん」
「お前が正樹を殺したってこと」
「お前のやったことを俺に擦り付けようって言うんかい。おどれらが勝手に揉めたんやろうが」
「俺は事実を言っただけだぜ」
「雷神隼人。さっきの動画を見せて」
「へいへい」
隼人は涼に指示された通りにスマートフォンに録画されていた動画を見せる。
そこには高遠が銃を正樹の背中へと撃つ所が映し出されていた。
「そんな馬鹿な。これはでっち上げや。お前、騙されとるで」
高遠はこの映像がでっち上げられていたことに気付いた。それもそのはずだ。彼の
熱光線で正樹の心臓を貫いて殺したのだから。
「じゃあ俺がどうやって殺したか証明してみろよ」
「知らんわ。わいはその時にいたわけじゃないし」
「じゃあこのスマホに着いた弾痕はなんだよ」
と隼人は正樹のスマートフォンを突き出して見せた。
「なっ、なんやそれ。弾痕なんてつくわけないやろ」
「なんでそんなことが言えるんだよ」
と隼人が言った時、高遠の顔が青ざめていく。
「いや。わいは銃なんてもっとらんし」
「それより自分の能力を使って殺した方が効率もいいしな」
「そうや。わいはなんでわざわざ銃で殺さなきゃいけないねん。涼、雷神隼人をはよ殺せ」
高遠はこれ以上話が長引くことになるのは困ると思い、涼に殺すように命じる。
「じゃあこれはどうだ?」
と言って隼人はもう一つの音声を流す。
それは高遠と正樹の会話だ。
高遠が正樹に誘拐を持ち掛けていること、そしてその計画について話し合っている所も録音されているのだ。
「美香ちゃんを受け取るのに、お前は現場の近くにある廃墟にいなきゃいけなかったんだよ」
と隼人が言う。
「いたで。でもわいは銃なんか持ってへん」
「そりゃそうだ。お前は熱光線で心臓を撃ちぬいて殺したんだからな」
と隼人が言う。
「違うって。お前が殺したんやろう。なぁ、雷神隼人」
「話をまとめるぜ。お前は正樹が死んだ現場にいたし、正樹を殺すところも撮影されてる。でもお前はそれを必死に隠そうとしている。俺とお前、どっちが怪しいかなんて火を見るよりも明らかじゃねぇか」
「いや。わいが銃を持ってないことはどうなるねん」
「そんなのどこにでも隠せるだろ。溶かして捨ててしまってるかもしれねぇしな」
高遠はこの時思った。自分の能力が災いしてとんでもない窮地に追いかけられていると。
いや違うと、彼は思考を訂正した。涼を味方にするために、俺の話のつじつまが合わなくなるように証拠をでっち上げて進めたんだと。
「証拠品もお前の炎で溶かして隠蔽。涼ちゃん。悪者は誰か決まったか?」
「高遠を殺す」
涼が隼人側へと寝返る。
「一対三で優位築いたつもりか?」
「袋叩きにしてぶっ潰す」
隼人は上手くいったと思った。これ以上ないほどにだ。
時は遡る。
「じゃあ美香ちゃんの親父にエッチな店紹介してもらおう」
と言って隼人は電話し始める。
「えっ? 本当に行くつもりですか?」
美香が引いているのを無視して隼人は電話をするのであった。
「おお出たか。ハゲ親父。いい店紹介しろや」
と言って通話を切るのであった。
「えっ。本当に行くんですか?」
「ムラムラしちゃ寝られないだろ。寝られなかったら負けるだろ? だからヤリに行くんだよ」
隼人に呆れた美香はこれ以上引き留めるのが面倒になったようであった。
実際、隼人は風俗に行くわけではない。
”いい店紹介しろや”は、盗聴されている可能性を考慮して決めた隆二と会うための暗号であった。盗聴されていることを予想してそれを作ったわけだが、その予想が当たったのだった。
隼人は隆二と待ち合わせしたバーへと向かった。
「よぉハゲ親父」
「いきなり呼び出してどうしたんだ?」
隆二は隼人がいきなり呼び出した理由を分かっていないようだった。
そんな彼に対して隼人はグラスの下に置いたコースターを取り、
『監視されている可能性がある。迂闊に喋るな』
と。
隆二もこくりと頷く。
二人は世間話をしながら、スマートフォンのテキスト保存アプリを使いながら会話していくことにした。
「ハゲ親父。いい店ないか? この俺の燃え盛る情熱を覚まさせてくれる店をよぉ
(高遠はおそらく正樹の実の妹の涼を利用しようとするだろう)」
「うんなの、ねぇよ。馬鹿(その根拠は?)」
「じゃあおたくの嬢ちゃんに唾をベロベロつけちまってもいいんか? 俺は擦れてる商売女より、そういう女の方が好きだぞ(それしかないからだ。俺にヘイトを持たせるように仕向けて戦わせればいい。正樹と血が近い奴だ。能力レートAAはある。あいつが利用したいと考えていてもおかしくねぇ)」
「お前は一生A〇と独り相撲してろ(実際は高遠が正樹のことを殺したんだよな)」
「おいおい。お前、俺があの子の護衛をしてやってるんだぞ。いいだろ、そのくらい(そう。だけどあいつが殺されたところが映ってるわけでもねぇ。だから納得するような証拠を作らなきゃいけねぇ)」
「へん。だから? あいつのために命を懸けるのは当たり前だろうが。あの子が死んだらお前の目的も達成できなくなるだろうが(でっち上げるはいいにしても、どうするつもりだ?)」
「まぁ難しいことは考えるな。俺と美香ちゃんは結ばれる。あんたは草葉の陰からそれを見守ってればいい(あんたの金を使って寄越して人材を寄越してくれ。詳細は今書く)」
隆二はそれを見て、
「せめて俺を殺すのは止めてくれよ(分かった。なるべく早くやる)」
と隆二は突っ込みながら、隼人の作戦を了承した。
隼人は高遠と汗水が盗聴と盗撮をしているのを知っていたため、彼が頼んだ部屋のカメラにディープフェイク映像と偽造音声が流れるように仕込んでいたのだった。
このことにより、盗聴と盗撮をしている二人を騙すことに成功し、今回の作戦の準備をすることに成功したのだった。
内臓が泰山美香の場所を入手しているのに百億の金を出して泰山美香を求めているのに探している理由は二つある。一つ目は場所情報が信用できないから。二つ目はその場所に向かうより手っ取り早い方法があるからである。
その方法とは泰山組の事務所を奇襲して、組長の泰山隆二を人質にすることであった。
泰山組の事務所に向かっている道中、一人の男が立ちはだかった。
身長が二メートルを超えている筋骨隆々の男である。彼は鷹のような目で内臓を睨めつけている。
「そこをどいてくれませんかね。剛田さん」
「どかねぇと言ったら?」
「あなたに提示されている条件より良い条件であなたのことを雇うというのはどうです?」
「お前みたいな外道が約束を守るとは思えない」
「あなたとの約束は必ず守ります。もしこちらについていただけるならあなたの望む報酬を与えましょう」
と内臓が言った。
「飢餓を、戦争を無くしてくれ。虐待を無くしてくれ。世界中の子供たちを笑顔にしてくれ。世界中の子供たちに夢と希望を与えてくれ。高度な教育、安心安全に過ごせる住居もだ。俺が望むのは子供達が笑顔で生きられる世界だ。お前にできるか?」
「額は?」
「言っただろ? 子供をいっぱい助けられるくらいの金だ」
「なるほど。私の持ち金ではあなたの願いを叶えられそうにありませんね」
「交渉は決裂。お前は俺に懲罰されて劣悪な妄想症が報われないことを自覚しながら死ね」
「私もあなたに命をもって懲罰を与えたくなりましたよ」
内臓は剛田の態度に心底腹を立てていた。それに簡単に逃がしてくれるような甘い手合いでもないと感じていた。
「交渉は決裂した。決着は死をもってなされる」
剛田は構えた。
内臓も臨戦態勢を整えた。
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