第4話 来訪者 変態
泰山組事務所。昼下がりの頃。
先日正樹の電話で会話した少女城山涼が泰山組の事務所を訪ねてきた。
彼女は正樹と同じシルバーの髪をしていた。発育がよくくびれている。
隼人はじろりと涼のことを見た。
「正樹が電話に出ません。どういうことか説明してください」
彼女は隼人の視線など気にせず、問いただすように言った。
「ふぅーん。あんたが正樹の言っていた妹か」
「妹? どういうことです?」
「本人が話していたからな。妹のことを頼むって。こんな美人な妹ならシスコンもこじらせるだろうよ」
と隼人は返した。
「うっ、嘘だ。そんなの」
涼は露骨にうろたえていた。
「正樹が入門する時に調べたが、君が正樹の妹だというのは事実だ」
隆二が隼人の言葉を認めるように言う。
「なんで正樹は私にそのことを話さなかったの?」
「あいつは君のことが本当に好きだったんだ。妹とかではなく一人の女性として」
「私だって正樹のこと好きだったのに」
「あいつは君に血縁関係のあることと、ヤクザであることを打ち明けられなかった。恋が成就することすらも諦めていたんだろうな」
隆二は正樹の境遇に同情していた。
「もっ、もしかして正樹が死んだってのも本当?」
「ああ。本当だ」
隼人が涼の質問に答える。
「なんで死んだの?」
隼人は少し沈黙した後に、
「正樹のことを思うなら何も聞かねぇほうがいい。あんたはなにもかも忘れて普通に生きることだ」
と言った。彼は自分の妹が死んだ時のことを思い出したのだった。
「じゃあこれだけ答えて。事故? それとも殺されたの?」
隼人はまた黙り込む。
「答えてやれ。これ以上は見るにたえん」
隆二が言うように促す。
「殺された」
隼人が言う。
「誰に?」
「言ったらお前はそいつを探すだろ」
隼人は涼に復讐をさせたくないと思っていた。
「言え。教えろ」
涼は隼人に掴みかかる。
隼人はそれを乱暴に振り払う。
「お前はこの痛みの何十倍もの苦痛を味わうことになる。馬鹿なことを考えるのはやめろ」
「ふざけんなっ。こっちは大事な人をいきなり奪われてんだよ。諦めれるわけないだろうが」
「警告はしたぜ」
「あんたをぶん殴ってぇ……」
涼がやけくそになって拳を振り回そうとした時に、隼人は先手を取って殴りつける。
涼は大きく吹き飛ばされて、壁に体を打ち付けてしまう。
「元気そうじゃねぇか」
隼人は立ち上がろうとしている涼を見て感心した。
一般人ならしばらく動けなくなる上に病院行きぐらいの力で殴っていたからだ。
しかしそれと同時に彼女にも能力がある可能性があると予測を立てる。
能力者は一般人より圧倒的に耐久力が高くなるからだ。それに正樹と遺伝子が近いなら能力を持っている可能性も十分ある。この二つを踏まえれば能力を持っている確率の方が高い。
「ぜっ、絶対に許さない」
涼は隼人に立ち向かおうとするも、途中で力尽きてしまう。
「あんたには酷なことだが、復讐の道を進むよりいいだろ」
涼に言うように独り言を言った。
この後隼人は、涼が目を覚ますまで待った。
「正樹は同僚なんでしょ? 協力してくれないんですか?」
隼人に敵わないと理解した彼女は協力を懇願する。
「やりたきゃ一人でやれ」
と言って彼は突き放す。
涼は肩を落として帰っていった。
自室にいた美香が二階から降りてきた。
「あの子は正樹さんの妹さんですか」
「らしいな」
「そうですか……」
美香は悔しさと悲しさの混じった顔をしていた。
「俺には関係ないことだ」
「あなたには情がないんですか」
「あいつは嫌いじゃない。でもそれよりすることがある」
「復讐、ですか」
「ああ」
「隼人さん……」
「なにか言いたいことでもあるのか?」
と隼人は問う。
「私、オークショニアが嫌いです」
「同感だな」
「人を付け狙って殺して内臓売って私腹を肥やして……あんな犯罪者集団大嫌いです。でも……」
「なんだ?」
「力がありません」
「お前は餌だ。敵を殺したいなら猛毒の餌になればいいだろ」
隼人は美香に道を示すように真剣に言った。
隼人の答えを聞いた美香の眼差しは覚悟した者のそれに変わった。
「戦い方を教えてください。隼人さん」
涼が帰ってから一時間後。
「ハゲ親父。あんた、ヴァージニアって知ってるか? オークショニアの下部組織みたいなもんらしいんだが」
「知ってるもなにも裏社会じゃ有名だよ。まぁ単純に言えばあれだな。裏社会の有力者や、大海組を支える百人のパトロンに女をあてがう超高級売春店兼マッチングサイト、みたいなもんだな」
「良い仕事だ。おこぼれにもあずかれるかもしれねぇ」
「本当にきもいんだけど」
美香は隼人を軽蔑した。
「こほん。というのは冗談だ。そのスケベ組織のオーナーがオークショニアでオークショニストをやっているそうだ。そっから内臓の情報を手に入れたいと思ってる」
「こっちから打って出るつもりか? リスクが高くないか?」
「待ってても余計な奴が寄ってくるだけだろ。内臓をぶっ殺せば雑魚避けにはなるだろ」
「正樹がいなくなって戦力が弱った状態で受け身のスタンスでいるのは危険……か」
「そうそう。オークショニアの奴らはコバエと違ってキンチョー〇振りかけても出て行かねぇだろ」
「どうだ。俺の天才的な計画は」
と隼人はどや顔するが、
「今思いついて適当に言っただけでしょ」
と美香は突っ込みを入れる。
「暴力馬鹿からまともな理屈が出ただけも御の字としとこう。美香」
隼人は色々と思うところがあったがそれを飲み込んだ。
「ハゲ親父。あんた、子飼いの情報屋がいるんだろ? 正樹が言ってたぞ」
「ああ。あいつならヴァージニアのターゲットを知ってるだろうな」
と隆二は答えた。
「それならそいつに会わせてくれ」
隆二はスマートフォンを胸ポケットから取り出して、
「俺だ。俺の手下をお前の所に向かわせる。依頼の詳細はそいつに聞け」
と情報屋に電話し始める。
「特徴? ボサボサ髪の細マッチョだ。それと暴力馬鹿だから気を付けろよ」
「おいハゲ親父。余計な一言だぞ。この野郎」
隆二は無視して電話を続ける。
「金は後で振り込む」
と言って通話を打ち切る。
「ハゲ親父。てめぇ……」
「事実を言っただけだろ。さっさと行け」
と言い、隆二は場所を指定したメモを隼人に渡した。
「帰ってきたら覚えていやがれ」
隼人は捨て台詞を吐いた後、情報屋の下へと向かった。
某所地下室。
ここは非常に冷たい。冷蔵庫と言っても過言ではないくらいだ。オークショニアのオークショリスト内臓十蔵はこの部屋で寒さに耐えながらも、少女に鞭を振るっていた。
「さぁ山根理恵さん。私の不浄を清めなさい」
内臓は問いかけるように言う。
「ふっ、不浄ですか?」
内臓に振られた少女は動揺していた。髪はべたべたな上に張りもなく、身体はやせ細っている。一目で衰弱していると理解できた。
「そうです。不浄です。不浄の意味は分かりますね」
少女はこくりと頷いた。
「なら早くしなさい。これができなければあなたは明日を生きることができませんよ。私が欲しいのは従順な奴隷のような処女の脳みそなのです。さぁ私にあなたの脳が私の理想の
と内臓は行動に移さない少女に腹を立てていた。
「わっ、分かりました。内臓様の不浄。喜んで清めさせていただきます」
と言うと少女は内臓の一物を口に含むために、コートの下に潜り込み股間部をいじり出す。
「あなたはなにをしているのです?」
「ふっ、不浄を……」
「貴様……貴様は他の人間に命じられたらすぐに男のナニをしゃぶるというのか?」
少女の行動に腹を立てた内臓は彼女を思い切り蹴飛ばした。
「もっ、申し訳ございません。しかし私はどうすればよかったのでしょうか?」
「それを考えられんか? けしからん」
「おっ、お許しを。内臓様の満足できる答えを必ず出して見せます。どうかお許しを」
少女は内臓に許しを乞うため土下座した。
「いい。いいですね。私はあなたに価値を見出しました。従順でいじらしく、愛らしい少女は宝です」
「あっ、ありがとうございます」
「もしあなたの容姿が美しければあなたを愛したかもしれません。しかしあなたは美しくない。あなたの容姿はCCC。評価できる脳みそはBAA。考える能力がないからです。しかしよい。AAAの脳を持つ人間など存在しないことに気付きました。考えることのできない愚かさは教育で補えばいい、と思いましてね」
「どっ、どうかお許しを。こっ、殺さないで」
「殺さなければストックを保存することはできない」
内臓は少女の首をへし折り、頭皮を抉って脳みそを取り出した。コートを脱ぐと同時に異様に膨れ上がった背中が露出した。その背中には四百人の処女の少女から厳選されたパーツが保管されていた。今殺した少女の脳みそも保管された。
「後は不死の臓器だけだ。そうすれば私の理想の少女は完成する」
内臓は機嫌をよくしていた。
しかしこれはオークショニアと、その上流組織である大海組を裏切るのと同義であった。
隆二が指定した場所は駅近くの喫茶店であった。目立たないように入口近くの席に座り、情報屋がやってくるのを待っていた。
「どうもこんにちは。あなたが泰山組の使いですか?」
座って待っていた隼人にパーカーを着た小太りの中年が話しかけてくる。
「あんたが例の?」
「はい」
「ヴァージニアのターゲットについて教えろ」
隼人は世間話をするつもりはなく、早く本題に入ろうとしている。
「ヴァージニア、ですか」
「あんたが知らないって言うなら他の人間にあたる。どうする?」
「まぁ大海組を敵に回したくありませんからねぇ」
「それじゃ話は終わりだ」
「いや待ってくれ。なにも俺はやらないって言ってるわけじゃない」
中年の情報屋は慌てて隼人を止める。
「なら情報提供ができるってことか?」
「泰山の親父には世話になってるし頑張らせてもらうよ」
と言った。
「そりゃいい心がけだ」
「じゃあこっちからも質問させてくれ。金はどのくらいになる?」
「金……」
考えてもいないことを聞かれて思わず押し黙ったが、メモに金額のことが書かれていた。最大でも三十万円程度と。
隼人はそれをそのまま伝える。
「一時間だ。詳しいことは電話で伝える」
と言って会話を終える。
隼人は事務所に戻り、調査が終わるのを待つことにした。
一時間後。
隼人は電話で聞いた情報をもとにターゲットのいる場所へと向かう。ターゲットは今田雅美という有名女優の娘である今咲紫苑である。彼女の処女を奪う権利をかけた売春オークションが七日後に行われるのだ。
隼人は今咲紫苑の家で彼女を呼び出した。
今咲紫苑は金髪に紫の瞳のカラーコンタクトに露出の多い派手な恰好をしている少女だった。
「あんたが今咲紫苑か」
「えっ? あんた誰?」
「俺は泰山組っていう零細ヤクザだ。あんた、自分の処女を競売にかけられそうになってるんだろ?」
「えっ? なんでそのことを知ってるわけ?」
「助けてやる。だが協力しろ?」
「協力?」
今咲紫苑は隼人の突然の提案に戸惑っているようであった。
「そうだ。俺はお前が逃亡できる手伝いをしてやる。そしてお前は俺に頼まれたことをやれ」
と言う。
「わっ、わかった」
「ヴァージニアの奴らの迎えに来る時間を指定して俺達に教えろ。二つ目はヴァージニアのオーナーの汗水九が来るように仕向けろ」
と隼人は今咲紫苑に伝える。
「分かった。伝えるよ」
「これが俺の電話だ」
と言って隼人は正樹のスマートフォンの番号を伝える。
「その。助けてくれてありがとう」
「礼を言うのは成功してからだ」
「うん」
隼人は手ごたえを感じながら事務所に戻っていった。
「どうでしたか?」
「ターゲットに接触することに成功した。汗水の奴と戦うのは七日後だ」
「私も行かせてください」
「素人のお前が本気で戦えるのか?」
「隼人さん。これから七日間お願いします」
「俺のしごきは厳しいぞ」
美香は隼人の言葉に怯む素振りを見せず、逆に彼を見つめ返したのだった。
隼人は美香の威勢の良さに胸を打たれるような気分であった。
不死の臓器の争奪戦が起きてしまった原因はそもそも自分達だ。
「ミーちゃん。調べはついたかい?」
ガマガエルみたいな顔面に水色の肌をした小柄の冴えない男は、暗い表情で問いかける。
「はい。例のパトロンの死亡原因はテクノ〇レイク。つまり腹上死です」
「じゃああの悪夢みたいな話は本当ってこと?」
「そうですね。処〇調教が趣味の変態が凄テクギャルのテクニックに翻弄されて死んでしまったということです」
「経緯がどうであれ私達が関わった結果、百人のパトロンの一人は死んでしまったということですよね」
とガマガエル顔の男は溜息をついていた。
「オークショニアと大海組、そしてその系列の組は彼らの機嫌を取るために彼らが欲しがっている不死の臓器を欲しがってるということですね」
小麦色の肌に羊の巻角を持った美女が冷静な口調で告げる。
「内臓君が本格的に参戦する前に取るしかないか」
「乱戦になることは避けたいですね」
「そうだね。色々な意味で避けたいところだね」
「きゅうくんなら必ずできますから」
一週間後。取引直前に紫苑の家に向かう。するとそこには汗水九と思われる水色の肌をしたガマガエル面の顔の男と羊の巻角をした小麦色の肌をした美女、ハーピーのような羽を生やしたグリーンの髪のスレンダーな美女、ナイスバディに爬虫類の鱗が所々に見られる赤髪の少女がいた。
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