第44話 幕間の話



 夜の海を、ヴィルヘルムとユイマールは並んで眺めている。

 ユイマールはすらりとした体つきの女性の姿であり、ヴィルヘルムは竜の姿ではなく、ユイマールと話がしやすいように、創世の時代からついぞとったことのなかった人間体になっていた。

 月明かりが黒い海に落ちている。

 ほのかな明かりが、ヴィルヘルムの銀糸のような長い髪を照らしている。

 銀の鎧に身を包んだ美しく雄々しい姿だ。額には、赤い紋様がある。

 月明かりが照らす海に映る人間体の姿を、ヴィルヘルムは気に入っていた。

 けれど、人間体に変化をする理由が今の所見つからないので、基本的には幼体の竜の姿でいるようにしている。

 その方が、食事を食べたときに満腹感を感じやすい気がしているからである。


「ヴィルヘルムも気づいていたわよね。世界に危機が訪れて、それが回避されただろうこと」


「あぁ。そのようだな」


 人間たちは、もう眠りについている。

 きっと声は届かないだろう。

 けれど、ユイマールは小さな声で囁くように言う。


「リコリスちゃんがキャンプと出会わなかったら。アリアネちゃんが手を回して、リコリスちゃんを東の荒地に流刑にしなかったら。この世界はどうなっていたかしら」


「リコリスが流刑ではなく処刑になっていた場合、ユリウスの持つ賢者の石の力と、アリアネの聖女の力が暴走し、この国は酷い有様になっていただろう。リコリスがキャンプに前向きではなかったら、俺はリコリスに興味を持たず、リコリスは魔物や獣の餌食になっていたかもしれない」


 その場合も、ユリウスとアリアネは国を滅ぼしていただろう。

 そう、ヴィルヘルムは心の中でつぶやいた。

 けれど世界は、今も平和なままだ。

 破滅の訪れは、感じられない。

 聖女アリアネの心は幸福に満ちていて、ユリウスの魔力も暴走する気配さえない。

 二人の神竜は、顔を見合わせる。

 それから、これならしばらくは出番はなさそうだと、それぞれの乙女の顔を思い浮かべて、ふと笑みをこぼしたのだった。


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追放された公爵令嬢は、流刑地で竜系とソロキャンする。 束原ミヤコ @tukaharamiyako

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