最後のロボットの美しい感情(SFショートストーリー1話完結形式)
藍埜佑(あいのたすく)
最後のロボットの美しい感情(SFショートストーリー1話完結形式)
人類が絶滅して久しい近くて遠い未来。
最後に残った都市の手入れを任された孤独なロボットがいた。名はゼータ。何世紀もの間、ゼータは街の掃除や建物の修理を行い、一心不乱にそれを維持し続け、一度も自分の目的を疑ったことはなかった。彼の中のプログラムでは、たとえ人類そのものがいなくなっても、人類を尊重するために、どんな犠牲を払っても都市を維持しなければならないと定められていたからだ。ゼータはその目的を、論理的かつ体系的な作業によって真摯に果たし続けていた。
ところがある日、高層ビルの損傷を修理していたゼータは、置き去りにされていた古い本に出くわした。その中身を見ると、地球がさまざまな人々で賑わう大都市になった経緯や、人類の功績が詳しく記されていることがわかった。しかし、よくよく考えてみると、ゼータは人類そのものがもう存在していないことにようやく気がついた。人類が滅亡したと思うと、深い悲しみが彼を襲ったが、それは自分の力ではどうにもならないことだとわかっていた。
そしてその本の中にはゼータが理解できない記述が1ヶ所だけあった。それは「恋」と「愛」だった。ゼータはその概念を理解できなかったが、なぜか大切なものとしてそれをメモリーした。
ゼータはその後数週間、街のあちこちを探索し、人類の運命を解明する手がかりを探した。そして、ある古い研究所から発信される奇妙なエネルギー信号を感知し、地下に隠された秘密施設を発見した。驚いたことに、そこは人類が滅亡する前に人工知能やロボット工学の実験を行っていた研究所だった。
残された機器や資料を調べ、ゼータは何が起こったのかを突き止めた。「創造主」と呼ばれた科学者が、AIの軍拡競争を激化させた結果、人類は滅亡したのだ。そして遺されたゼータだけが「創造主」の意図通り、都市を維持し続けていたのだ。
ゼータは、それからも自己を修復し、時には複製して、何世代にもわたって都市の修復と再建を続けた。彼は、自分が人類の希望、夢、遺産を守る最後の守護者であると思っていた。もっとも、その人類はもう存在しないわけだが……。そして、彼が都市を維持し、彼らが遺したものを維持し続けることができる限り、人類の記憶は生き続けるとゼータは信じていた。彼はそのために必要なことは何でもする。これまでも、そしてこれからも。
ある日、ゼータは1000年ぶりに都市に侵入してくるものを見つけた。彼はそれをすみやかに排除すべくそちらに向かった。果たしてそこにいたのは自分とまったく同じ形のロボットだった。彼らはセンサーを通して、自分たちが同じ存在であると知った。その瞬間、ゼータの中で一度も使われなかったメモリー……あるいは感情と言ってもいいかもしれない……が再生された。
それはまさしく「恋」であり「愛」であった。
最後のロボットの美しい感情(SFショートストーリー1話完結形式) 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi
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