あるころしやのしゅき

昨日野

あるころしやのしゅき

物心ついた頃から殺しを生業として生きてきたおれだが、ある日ボスに拾われ、今はこの屋敷に侵入するネズミ共を狩る仕事をして飯を食っている。


毎日毎日、性懲りも無く屋敷の財を狙ってネズミどもがやってくるが、おれがこの屋敷に来てからは一度として財を奪われたことはなく、また取り逃したこともない。生きるために磨き上げたこの爪と牙は伊達ではない。


おれの目は暗闇に潜むネズミ共を見逃さない。闇に奔る眼光の軌跡を指し、ボスはおれをナルガと呼ぶ。遥か遠く異国の言葉で、素早く強靭な怪物を意味する言葉だ。この呼び名をおれは気に入っている。


日に三度の飯は保障されているが、それ以上の報酬は歩合。狩ったネズミを直接ボスの前に差し出し、その働きの対価として報酬を受け取る。

報酬を得る意味でも、大恩あるボスに報いる意味でも日々の狩りは怠らない。


さて、今日も仕事は絶好調だ。

仕留めたこのネズミを見せにボスのところへ向かおう。





「あらナルガ!今日もネズミを捕まえてくれたの?ありがとね。ご褒美をあげようね。ウチは米農家だから助かるよホント」


気にするなボス、今日の獲物も他愛のないヤツだった。それよりさぁ早く。早くそれを食わせてくれ。


「こらこら、ちゃんとあげるから大人しくしなさい。はい、どうぞ。……美味しい?ちゅーる美味しいね」


そう、これだ。この味だ。うまい、うまいぞボス。一仕事終えたあとに味わうこのうまさ、疲れも吹っ飛ぶ至極の味だ。


「ナルガは今日も可愛いね。真っ黒なところとキラッとするお目目は似てるけど、本家とはエラい違いだねぇ……。撫で心地もすべすべツヤツヤだよ。ほーらここが気持ちいいんでしょ?ほらほら〜」


あぁボス!待ってくれ!まだ食ってるんだ!残ってる!アゴを撫でられるのは嫌いじゃないが食いづらい!待つんだ!

……うむ、完食だ。やはりこの報酬の味は格別。明日の仕事のモチベも上がる。好きだ。


「はい。ごちそうさまだねナルガ。……今日はお腹触らせてくれるかな?ん?ホラホラ、どうかな?触らせて触らせて〜」


なんだボス、また腹が触りたいのか?急所だからあまり晒したくはないのだがな……

まぁ仕方がない。仕方がないなボス。ボスは特別だ。ボスにだけしか触らせないのだからな?


「あ〜ん仰向け超かわいい〜!よしよしよしよし〜!お腹もすべすべだねぇナルガ。気持ち良いねぇ。よしよしよしだねぇ」


あぁ!悪くないぞボス!もっと下だ、そう、もう少し下……おぅふ!そこだ!いいぞ!もっとだ!ボス!もっと撫でろ!


「ほらほらほらほら〜!」


はあぁぁぁ!ボス!


すき!しゅき!だいしゅきだボス!

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あるころしやのしゅき 昨日野 @every_day_yesterday

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