輪廻転生物
月見トモ
輪廻転生物
木々の葉っぱが青く色付き始めた少し涼しい五月の昼。小さな公園に五、六人の子供たちが今日もきゃっきゃと無邪気にはしゃいでいる。
「あ、蟻だ!!」
「こっち来た、それ!!」
「きゃははははは!! もっかい!」
公園に集まった子供たちの集団は、砂場で山を作り、砂を集めて泥団子を作り、そのうち虫を捕まえては踏み潰し、体を分解した。
僕は目の前にあるベンチでじっとその様子を見てその光景に恐怖した。
「……あぁ、なんて、なんて事を」
僕は誰にも聞こえない程の小さな掠れ声で静かに呟いた。
誰もが一度は虫を殺す。いつかの僕も蟻の巣に水を入れたり、ゴキブリや蜘蛛を平気で潰した。大人になってからは多少の罪悪感はあったものの、虫よりも家畜の命に目を向けて旗を上げる人がいる事を知り、虫の命について考える事すら無かった。
しかし、それを後悔する日が来ることを僕は知っている。
「うわっ、こっち来た」
「
ひとりのやんちゃな子供が、少し大きな石を持ち上げ、それを地面に叩きつけた。するとドスっと鈍い音が響き、そして子供達は虫を胡麻すりの様に擦った。
「あ、死んじゃった……かも」
僕は再び恐怖したものの、この子供達には命を奪う意識はないのだと分かっていたから、何も言えなかった。この国には虫を殺してはいけないというルールも法律も無い。だから誰も咎めない。
「こらー、
子供の輪から外れた大人もそうだ。
命は大切だと分かっていても、虫や生物に対する罪悪感を覚えず、可愛げのあるのものしか尊ぶことが出来ないのが子供であり、大人であり、人間であり、そして僕だった。
だから僕は、そんな事をした"前世"の僕を恨んでいる。
数多の虫達の命を奪った前世の僕。あなたのお陰で、僕は今日も住処を水没させられ、仲間を踏み潰され、美味しくない仲間の遺体を貪り、そして。
「あ、蟻さんみーっけ」
僕も殺されてゆきます。
輪廻転生物(終)
輪廻転生物 月見トモ @to_mo_00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます