思うことを

北町白濱

私の場所、あるべき處、あの埃の薄く積もった冷たい床と黴のにおいに覆われた場所埋め尽くしているのは本。

嗚呼、嘆くな。嗤うな。これが私の青春。私の故郷。

私は故人に会う如く古い本を読み、新しい友と出会うが如く歓喜して新しい本を開いていた。後悔も恥じ入ることも劣等感に溺れることもない。これは喜びだったのだから。


何故、わたしはこれを捨てたのだろう。代わりに得たのは向精神薬を常習し、人に嗤われ、罵られる人生。収入の三分の一の租税。不孝不仁、不忠不敬の汚名。理解せず、不満を流し、世間に悪評を広め続ける親。


嗚呼、私はrealistなのだ。臆病で情けないrealistだ。私はそのためにArtにもacademyにも居られなかった。現実への興味、実社会での評判。世間の評価。富。名誉。それらを嘲弄しながら何より求めていたのだ。それらを得たくてたまらなかった。認めて欲しかった。そして私は知っていた。才に欠ける自分にこれらをArtやacademyで得ることは不可能であると、誰より分かっていた。そしてー世間に服従したところで生きていける能力にも欠いていることも知っていた。


では何故、滅ぶ選択枝であったのに選んだ。Artにしろacademyにしろそれは私を楽しませたではないか。判っていた。私は死ぬために選んだ。世間に嫌悪され、不要とされ、死ぬ。死ぬ理由が欲しかったのだ。才無き故に死ぬのではなく。恨みと悲しみに沈むための理由が。

必死の忠烈に報いをよこさない世間を恨んで死ぬことを選んだのだ。


私は15の歳に死に損なって以来、ずっとそれを望んでいた。ーわけではない。せめて死ぬ前にその恨みを晴らしてやりたかった。恨みを晴らせず死ぬことになるのは残念であり、無念である。私は欠陥した肉体と精神を持って産まれ、それに対する十分な教育も治療も代償も得られなかった。

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思うことを 北町白濱 @kas29

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