今日も、おやすみ
@nitoran
第1話 幸福な夢
気づいたらベッドの中にいた。
さらさらとふわふわの間、まどろみの中にいるような
ふと、隣に誰かいることに気がついた。
その人物はこちらを見ている。
「起きた?」
この人物を私は知っている。
よく観ているフィギュアスケートの選手だ。
なぜ彼が隣にいるのかという疑問は浮かばなかった。
隣に彼がいる、という事は至極当然のことであった。
「ファンの子にイメージ的に痩せていて欲しいって言われるんだよね。」
わたしが返事をしていないにも関わらず、
彼はひとつも困っていないかのような軽い口調で言った。
「フィギュアスケートの話をしてもいい?」
私は彼が快く思っていないとは分かりながらも了承をとっておこう尋ねた。
「…いいよ」
やはり良くは思っていないようだ。
しかし私は続ける。
「最初見てた時はね、細いなぁって思ったのね。
で、やっぱり最後の方は体力が続かなくてスピードも遅くなっちゃって…」
「でも最近は鍛えているでしょ?最後までスピードに乗って力強い演技で…
かっこいいな、って思うよ」
どことなく恥ずかしくて背を向けて言った。
なので彼の表情は見えない。
しばらく間があった。
私の後ろから優しく鎖骨に触れる手があった。
「なに、なに、なに???」
驚きながら、私は振り向いた。
そこには慈愛に満ちた、というのが相応しいであろう彼の微笑みがあった。
大切でたまらないと瞳が言っている。
はっと息を呑んだ。
あまりの愛おしさに時間が止まったかのように思えた。
すると彼の顔が近づいてくる。
そうするのが自然だと分かりきったように目を閉じた。
あたたかくやわらかいものが唇に触れた。
彼の優しさが私の中に注がれているようだった。
何とも言えない幸福感を体全体で噛みしめていると
今度は唇全体がやわらかく包まれていった。
しばらく堪能していると
やわらかいものは離れていった。
そっと目を開ける。
そこに彼はいなかった。
目が覚めたのである。
あの慈愛に満ちた、という言葉がぴったりと当てはまる笑顔と
唇のあたたかさは忘れられない。忘れたくはない。
だからこうして書き記したのであった。
今日も、おやすみ @nitoran
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