人間図鑑
鳩原
人間図鑑
僕には特殊能力がある。といっても、念力やら身体強化やらの類いではない。ざっくり言えば「人の性格が分かる力」というところだろうか。例えば、僕の前の席で授業を受けている彼女。君たちにはその頭上に何も見えないと思うけれど、僕には黒枠に白で明朝体の文字列が見える。全部で三行。上から順にその性格が濃いらしい。彼女の場合は、「マイペース」「大人しい」「臆病」。念を押しておくが、これは僕の意見ではなく、能力が見せる事実だ。悪口を言っているわけではない。こいつのお陰で小さい頃は苦労したが、今は落ち着いているし、なんなら役に立つ。なかなか便利な代物だ。
いきなりだけど、私には超能力がある。といっても相手の頭の中を覗いたり…なんてことは出来ないけど。一言でいうと、「自分の人間関係を辞書に記録する力」かな。ある日、学校から帰ると自分の部屋の勉強机の上に黒い皮張りで豪華そうな本が置いてあって。気になるからページを開いたら表紙裏にこんなことが書いてあったの。「この本は貴方の知人について、基本情報と貴方の知っていることが書かれています。情報は貴方が知った瞬間に更新されていきます。なお、基本情報は貴方の知らないことでも最低限書かれています。」最初は嘘だと思ったんだけど、本当に私の知ってる人だけが書かれていて、親友と小さい頃にした約束の秘密とかもあったから、段々信じていっちゃった。あと、基本情報は身長とか体重とかね。まあ知らなくても別にって感じ。でも、たまに久しぶりに会う友達とかを調べて思い出せるから、結構便利。
前言った僕の前の席の女子のことなんだが、もしかしたら嫌われているかもしれない。グループ活動等をする時、そして特に僕と話す時だけ彼女の「マイペース」が後ろに引っ込み、「臆病」が一行目に上がってくる。何かしただろうか。
え、暇なときに例の辞書めくってたら大変なことを見つけてしまったんだが。何か後ろの席の男子の基本情報欄に「超能力持ち」って。大丈夫かな、しゃべる時私顔強ばってる気がする。
「あの、大丈夫ですか?」
「わっ、はっ、はい!」
例の男子と会話中だったー、私たまに考え込んじゃうんだよね、よく友達からマイペースって言われる。
「えと、僕、何か嫌なことしました?最近ちょっと僕と話す時だけ臆病になって…見えるというか」
「すいません!そんなことないです!」
「それなら良いんですけど…なんか直して欲しいこととかあったら言ってくださいね」
「あ、じゃあ聞きたいことがあるんですけど」
「超能力とか持ってます?」
「……」
「すっ、すいませんノリで変なこと聞いちゃって!」
「あー、白状するとありますけどもしかして貴方も?」
何言ってんだ、僕!思わず答えちゃったけど怪しすぎだろ!
「こちらこそ変なこと聞いてすいませ」
「わ、私もあります!超能力!」
「……すいません、放課後ゆっくり話しませんか」
「…それが良いと思います」
「なるほど。能力の辞書で僕のことを知ったと」
「そういうことです。しかしまさか、貴方と話す時だけ臆病になってたなんて。すいません」
「いやいや、全然大丈夫です。普通怖いですよね。身長何センチ、体重何キロ、超能力持ち、って書いてあったら」
「ふふっ、正直そうですね」
そうして知り合ってから数ヵ月後。
「……ねぇ、せっかく面白い力を持った人間が同じ学校にいることですし、何かやりませんか?」
「というと?」
「例えば、僕たちですごい詳しい卒アルを作るとか」
「??すいません、ちょっと…」
「分かりにくかったですね。えーと、僕が同級生の性格を見て、分析して、それを貴方に伝えて、記録するんです。前もって読んでおけばきっと同窓会の時とか役に立つし、会話が弾みそうじゃないですか」
「今から同窓会のこと考えてるんですか笑」
「えー、面白そうじゃないですか、やりましょうよ」
「まあ、暇ですし、やってみますか」
「…というのが現代の社会、即ち個体情報開放型社会の基盤と言われている。この後同じような能力を持った人たちが世界中で生まれて、段々その人たちが中心となって社会を作っていったんだ。。ここ中間テストに出るぞ、マーカー引いとけ。じゃあ、今日の授業はここまで」
「中間もうすぐかー、めんどい」
「でもさ、それ終わったら文化祭じゃん」
「めっちゃ楽しみ!あー、でも、実行委員にはなりたくねえな」
「『素直』のやつに押し付ければ?」
「ひど、流石『狡猾』!」
「うるせえよ、『お調子者』が!」
人間図鑑 鳩原 @hi-jack
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