第4話 未散/烬

 絡み付くような視線から逃れた先で、未散は顔をしかめる。ひとりの時間を心細く思ったことは幾度となくあるが、今この時だけは僅かに心安らいだ。

 気分が悪いのは、奇異の目──大方、女の身でありながら男物の着物を身に付け、いかにも偉そうに振る舞っていることへの反感から来るものだろう──で見られたことだけが理由ではない。今しがた足を踏み入れた先が、お世辞にも逃げ場とは言い難い状況だったからだ。


(これは酷いな……)


 人食い虫が出た後の屋敷は、大抵だ。死臭が染み付き、どす黒く変色した血液と、僅かな肉片も残さずに食い尽くされた人の骨が散乱している。こうした現場を見るのは初めてではないが、やはり慣れるものではない。

 どういった仕組みかは不明だが、人食い虫が出るのは夜間だ。日光が苦手なのかもしれない。何にせよ調査の邪魔をされないのなら、未散としては数少ない救いと言えた。

 息を吐き出し、手は触れずに現場を検分する。状況自体は、これまで見てきたものと変わらない──今回に関しては、何人かの生存者がいるという点が幸いだ。協力してくれるかは不確定だが、家人が全滅しているよりは良いだろうと自分に言い聞かせる。


「噂通りの悪食と見た」


 背後から声がかかる。抑揚に欠けた平坦な声音は、紛れもなく直刃のものだ。

 振り返ると、そこにいたのは直刃だけではなかった。あやめはともかく、何故か先程応対した娘──万由まで付いてきている。屋敷の惨状が堪えるのか、直刃の背後に隠れるようにして控えていた。何かと盾にされやすい式神だ。


「死骸はないのか。今や虫らしき影は見えないが」

「奴らが活動するのは基本的に夜間だ。性質なのか、それとも別の理由があるのかは不明だが、人食い虫が日中に出たという記録は今のところない。死骸は……あったら、持ち帰りたいところだ」


 犠牲者のほとんどが死亡しているということもあり、人食い虫の死骸は未だ入手できずにいる。気持ち悪いと思う気持ちはないでもないが、近江の民のためとあらば四の五の言ってはいられない。これまでの現場でも血眼になって探しているが、未散はその手がかりを掴めずにいた。

 力不足と詰られても致し方ない。ぐっと唇を噛んでいると、そういえば、とあやめが口を開いた。


「死骸でしたら、お嬢様の部屋にあるかもしれません。何匹か潰した記憶がありますもの」

「それは真か⁉️」


 つい大きな声を出してしまい、未散ははっと口元を押さえる。あやめと万由は意外そうな顔をして、直刃は無表情のままこちらに視線を注いでいた。知らず、頬が熱くなる。


「……こほん、とにかく証拠が集まるならそれに越したことはない。案内を頼む」


 如何なる相手であろうとも、舐められる訳にはいかない。未散はすぐに表情を引き締め、声を低めてあやめに促す。

 つい数時前には凄まじい殺気を向けてきたあやめではあるが、今や敵意の欠片もない。ほんの少し唇の端を上げてうなずき、一同の前を行く。

 笑われたのは気に食わないが、大人しくなってくれたのなら結構なことだ。未散はどうにか顔色が戻ることを祈りながら、先を歩くあやめの背中を追う。

 改めて、惨憺たる有り様だと未散は歩みながら思う。生きたまま虫に食い殺され、骨しか残されなかった人々。彼らが一体何をしたというのだろう。過ちを犯さない人間などいないが、ここまでの仕打ちを受ける道理はないはずだ。

 じくじくと胸が痛む。必ずや真実を突き止めなければと、結んだ決意に力がこもる。彼らの無念を晴らしてやらなければ、波分家の名代など務まらない。


「──しかしながら、お前たちは幸運だったのだな。人食い虫の被害を受けて尚生存するとは、稀有なものだ」


 感傷に浸っている暇はないらしい。思索の内にいるのも束の間、万由に対して無神経極まりない発言をかます者がいる──紛うことなく直刃だ。

 死者が出ているのに、幸運とは何事か。未散は直ぐ様視線を移し、配慮に欠ける式神を睨み付ける。


「直刃、何ということを言うのだ。死者が出ている時点で、幸いなどあったものか」

「……? 生存者から聞き取りが能えば、調査も捗る。お前にとっても利点のはずだが……」

「そういうことを言いたいのではない! 片古家の方々のお気持ちを推し量れと言っているのだ」

「ま、まあまあ、落ち着いてくださいませ。わたしは気分を害してなどいませんから」


 気色ばむ未散と首をかしげる直刃の間に、困った顔をした少女──万由が割って入る。

 年若い少女に介入されては、未散も矛を収める他ない。それに──直刃に同調するつもりは一切ないが──人食い虫の被害を被って無事に生存した経緯も知りたいところだ。これまで生存者が皆無だった訳ではないが、人食い虫に体を食い荒らされた彼らは長く持たない。大抵が人食い虫の存在を語る程度の余裕しか持ち合わせていないこともあり、人食い虫の気質性質まで解明が及ばないのが現状だった。

 口をつぐみ、未散はちらと万由を見る。屋敷の惨状に心を痛めているのかその表情は沈痛だが、努めて気丈に振る舞っている──ように、見える。万由自身が心情を語ることはないのだろうが、その姿は何ともいじらしい。


「わたしも、生き残った者があったことを不思議に思っていたところです。聞いたところによりますと、人食い虫に襲われた家の方々はほとんど助かっていないとか。小さな幸運が積み重なって、このような結果となったのでしょう」


 困ったように眉尻を下げながら、万由は落ち着いた声色で語る。端正な顔立ちの端々に滲む疲れを、未散は無言で感じ取った。


「わたしは昨夜、自室で香を焚いておりました。人食い虫は日光を嫌うと聞きますが、もしかしたら火も苦手なのかもしれません。生き残った者たちは、厨や浴室など、火の気がある場所にいたようです。わたしは使用人に呼ばれて、やっと騒ぎに気付いて……一歩遅ければ、わたしも人食い虫の餌食になっていたことでしょう」


 昨晩のことを思い出してか、万由は体を震わせる。年端もいかない少女が目の当たりにするには、凄惨過ぎる光景だったことだろう。

 しかし、弱点を掴めたのは大きな収穫だ。人食い虫が火の気を嫌うなら、これ程好都合なことはない。どの程度かは不明だが、火ならば未散の得意分野だ。これでやられるばかりではなくなった。

 何としてでも、事態を収束させなければ。拳を握り込み、未散は細く息を吐き出す。

 まなうらに浮かぶのは、血に塗れた室内。かつて微笑み、語らっていた同胞は骨しか残さず食い尽くされている。彼らを餌にした虫が、憎くて、憎くて、憎くて、憎くて憎い憎い憎い憎い憎い──。


「──着きました。こちらです」


 あやめの声で、はたと我に返る。

 そうだ、ここは片古家で、彼女に案内を任せたのは他ならぬ自分自身だ。物思いに耽っている場合ではない。


「あれがお前の主か」


 頭を振って雑念を追い払っていると、直刃が何気ない調子で問いかけるのが聞こえた。嫌な予感がして、未散は弾かれるように顔を上げる。

 すっかり変色した布団の上に、白骨と化した屍が転がっている。周囲の血痕からして、人食い虫に食われたのだろう。未散は反射的に手を合わせた──そうする癖が染み付いているのだ。

 何度か呼吸してから、あやめはうなずいた。もともと青白い顔が、さらに色をなくしている。


珠芽たまめさん──ああ、やはり……駄目だったのですね」


 黙り込むあやめの後ろで、万由が口元に手を当てる。珠芽というのが、あやめの主の名なのだろう。

 ここであやめに話しかけるのは忍びない。未散は居ずまいを正し、万由に向き直る。


「……こちらの方は、どういった間柄で?」

「……ご当主様の、娘にあたる方です。わたしの知る限りでは、体が弱いとのことで……臥せっていることが多いと聞きました。うつる病にかかっていた訳ではないそうですが、ご当主様の意向でこちらの離れに……ああ、嘆かわしいことです。こんなことになるなんて……」


 万由が顔を伏せる。その様子があまりにも哀れに見えて、未散は彼女の目にこれ以上珠芽の屍が映らないよう僅かに立ち位置を変えた。

 この場に長居するのは、万由にとって酷だ。早いところ人食い虫の死骸を回収し、後処理を済ませて立ち去るに越したことはない──そう考えていた矢先に、視界の端で動く影がある。未散の横を、直刃が通り抜けたのだ。


「これが人食い虫の死骸で合っているか」


 彼が見下ろした先には、たしかに血痕とは異なるしみがある。一瞬躊躇したものの、未散は意を決してそれを覗き込む。

 潰れているため原型を明確に残してはいないが、芋虫──蝶の幼虫に似た形をしていたのだろう。もともとは緑色だったのか、乾燥して黒みを帯びた緑の体液らしきものが畳に染み込んでいる。よく観察してみると、周辺にも同様の死骸──もといしみがこびりついていた。目につく人食い虫を、片っ端から叩き潰したのだろう。それでも珠芽は救えなかった──あやめの無念を思うと、胸が締め付けられる思いだ。


「ええ……間違いありません。この虫どもがお嬢様を──あら?」


 当時の光景が思い浮かんだのだろうか、眉根を寄せながらあやめは肯定し──何かに気付いたのか、はたと顔を上げる。つられて未散も彼女の視線の先へと顔を向けた。

 襖を挟んだ廊下で、一列に並ぶ人影がある。すぐに反応したのは万由で、困り顔がさらに深まった。


「皆さん、心配なお気持ちはわかるけれど、今は外で待っていてください。使者の方々の邪魔になってはいけませんから……」


 彼らが外で待っているはずの使用人だということは、万由の口振りから察せられた。主家の娘が気がかりで、あるいは余所者を信じきれずに付いてきてしまったのか──そんな憶測を巡らせている暇はなかった。


「──下がれ」


 万由の前に黒い影──言うまでもなく全身黒づくめの直刃である──が躍り出る。廊下に立ち尽くす使用人たちが動き出すのは、その直後だった。

 彼らは虚ろな表情のまま、然れど異様な程俊敏な動きで腕を振りかぶる。その手には凶器──包丁、斧、あるいは鉈など、刀剣や飛び道具とは異なる日常的な用具──が握られていた。

 きゃあっ、と万由が悲鳴を上げる。未散は咄嗟に彼女を引き寄せた。

 使用人の凶刃が直刃へと迫る──が、それよりも速く、直刃の得物たる長巻が抜かれ、最も肉薄していた敵の首をねた。血飛沫が跳ね、直刃の銀色の髪を赤く染め上げる。

 万由を庇いながら、未散の目は飛んでいった首に釘付けだった。単に衝撃を受けたからではない──その口から飛び出たものを、たしかに捕捉したからだ。


「あれは──人食い虫……⁉️」


 外界へと躍り出たそれは、蝶の幼虫に似ている。ただ、大きさは掌と同等程で、虫にしては異様に大きい。

 まさか、寄生するのか。未散の背中に冷たいものが伝う。考慮していなかった可能性に混乱しつつも、思考はやけに冷静さを保っていた。

 攻撃に対してこうも素早く反応されるとは思っていなかったのだろうか。様子のおかしい使用人たちは、直刃に飛びかかることはせずにじりじりと間合いを見極めている──ように見える。そんな彼らに見せつけるかの如く、直刃は長巻に付着した血を払った。


「どうした。もう終わりか」


 面頬で口元は見えないが、直刃が高揚していることはその口振りから明らかだった。僅かに声が上擦り、弾んでいる──心なしか、目元も紅潮しているように見えた。

 よっぽど酷い面々に比べれば大人しいのだろうが、闘争を楽しむなど未散には理解できない。なるべく関わり合いにならず、速やかに人食い虫を捕獲しなければ──暗い方へと逃げようとしている人食い虫を捕まえるべく、未散は身を屈める。

 ──それがいけなかった。


「危ない!」


 万由の悲鳴が響く。え、と顔を上げた時には、未散の頭上を影が覆っている。

 手練れの直刃を相手にするのでは分が悪いと判断したのだろうか、使用人の一人が──見たところ中年の女で、包丁を手にしている──未散へと照準を変えていた。回避できないことはないが、この距離では負傷は免れない。せめて急所には当たらぬようにと、未散は無理矢理に身を捻る。

 しかし痛みはやって来なかった。それよりも前に、直刃が未散に襲いかかった使用人へと体当たりを食らわせたのだ。


「馬鹿! 何やってる!」


 直刃は相当な使い手なのだろうが、狭い室内で長物を振り回すとなると動きに制限が生まれる。未散にかかずらっている余裕などないはずだ。

 それなのに、彼は自らの武器を捨ててまで未散を助けることを選んだ。背中ががら空きになるのは当然のことで、その隙をついて使用人が襲いかかる。

 未散とて、戦闘手段を有していない訳ではない。しかし、直刃に庇われたこの状況では、彼ごと巻き込む可能性が高い──未散の攻撃手段とは、術による範囲攻撃なのだ。一人に絞って打ち倒すとなると、話が違ってくる。

 思考を巡らせる。何もしないよりは、下手でも何かしらの行動を起こした方が良いか。懐に入れた守り刀を握り、未散は一か八かで突進を試みようとする。


「──必要ありません」


 ──よりも先に、あやめの拳が使用人の頬にめり込んでいた。

 予想外の角度から攻撃を受けて、使用人は受け身を取ることもできずに吹っ飛んだ。手にしていた鉈が床に落ちるが、あやめが素早く拾い上げる。


「この方々は、片古家にお世話になっておきながら、今度は主家に仇なすのですよね」


 誰に向かって投げ掛けられた問いなのかはわからない。よって誰も是非を応えなかったが、あやめに気にする様子はなかった。ぶん、と力任せに鉈を振るい、使用人の背中に叩き付ける。


「彼らは裏切り者ということになりますよね。主が死した今、彼らの処遇を指示する方はいらっしゃらないけれど……お嬢様の無念を思えば、やることは決まりきったようなもの。真に忠を尽くすなら、裏切り者は遺された臣が始末してもよろしゅうございますね?」

「然り」


 今度は応答があった。既に立ち上がっている直刃である。彼の足下には不自然に首の曲がった使用人がいる──骨を折ったのだ。


「主人が許すと言えば、我ら臣下はそれに従うまで。然れど命令を仰ぐべき主人が志半ばで死したとあらば、その志を継ぎ、敵を屠るのが臣の役目。尚且つ謀叛とは言語道断。すべからく根を絶つべし。それ以外にすべきことなどない。よってお前の判断は道理である」

「まあ。あなたに指図される謂れはないけれど、権勢を誇る織田家に仕えるお方がそうおっしゃるなら間違いありませんね。もとより彼らに親しみなどありませんでしたし……せっかくの機会です、この機に皆殺しといきましょう」

「良い気概だ。ここは先輩として、ある程度手柄を譲るとしよう」


 刺さったままだった長巻を取り返し、今しがた首を折って絶命させた使用人の首を切断しながら直刃が機嫌よく応じる。その言葉を最後まで聞くことなく、あやめは鉈を振りかぶった。既に動けない使用人に、何度も刃が食い込む。

 助けてもらった手前で文句は言えないが、さすがにげんなりしてしまう。そこかしこに飛ぶ血飛沫を浴びないように気を配りながら、未散は今度こそ守り刀を取り出して人食い虫を捉える。その体に刃を突き立てると、やはり緑色の体液が流れた。貴重な検体である以上、なるべく原型は留めておきたい。潰すなどご法度だ。

 額に玉の汗を浮かべたあやめが一人の息の根を止めている間に、直刃が残りの敵を手早く始末する。ある者は長巻で胸を貫かれ、ある者は直刃の腕の中で窒息させられて死ぬ。彼らの口中から飛び出た人食い虫は、ことごとく踏み潰された。

 武器を一度手放したくらいで、直刃は窮地になど陥らない。それがわかってしまった今、不必要に慌てて騒ぎ立てた自分が馬鹿らしく思えて、未散は顔をしかめながら人食い虫の死骸を懐紙に包んだ。


「み……皆さん、死んでしまわれたのでしょうか……」


 震える自分自身の体を抱きすくめながら、やっと万由が声を発した。気丈に振る舞ってはいるが、その顔は真っ青だ。

 あやめが宣言した通り、こちらに攻撃を仕掛けてきた使用人はその全てが打ち倒された。最後の一人も、たった今直刃によって首を落とされたところだ。重量のあるものが床に落ち、血だまりを作る。

 這いずり回っていた人食い虫たちも、直刃とあやめによって潰されたらしい。血によってその残骸は埋もれてしまったが、動き回るものがない以上全滅したと見て良いだろう。人食い虫は対象を食らうとなればその速度は凄まじいが、狩られる側に転じると一気に無力になる。毛虫のように逃げ足が速い訳でもないので、這っている間に潰されるのがおちだ。これまでは人間を食い荒らすばかりだったから、悠長に撤退できたのだろう。

 直刃が顔を上げる。犬のようにぶるぶると頭を振ったが、落ちる血など些末なもの。変わらず血にまみれた姿のまま、こくりとうなずいてみせる。


「是。これで全員。全て直刃と、かの女性にょしょうが討ち果たした」

「そう……ですか。あの、彼らは一体……」

「……人食い虫に巣くわれていた──と一概に判断するのは早計だが……あの様子では、正気を保ってはいなかったのだろう。貴殿が気に病むことではない」


 敵方に転じていたとはいえ、かつての使用人が目の前で殺害されては心安らいでなどいられないだろう。せめて万由が負わなくても良い責任を感じぬようにと、未散は柔らかな声色を意識して伝える。

 敵は倒れ、人食い虫の死骸も手に入れた。万由の精神状態もあるし、そろそろ撤収の頃合いだ。

 未散は息を吐き出してから、ぐるりと周囲を見回した。死体だらけの室内はお世辞にも見ていて気持ちの良いものではないが、泣き言を言ってはいられない。未散には、最後にすべき役目が残っている。


「……ええと、片古の──」

「万由と申します。如何なさいましたか、波分様」


 先程の騒ぎですっかり失念していたが、万由の名を聞きそびれていた。疲弊した様子の彼女に向き直り、未散は表情を引き締める。


「これより外に出るが、家財は如何様にしている? まだ運び出していないものがあれば、遠慮なく申し付けて欲しい。必要なものは全て持って出てもらう。見落としがないよう頼む」

「大抵のものは、朝になってから使用人の方々が運び出していましたけれど……でも、どうしてそこまでお急ぎに? 後日、人を雇うこともできます。皆様のお手を煩わせる訳には参りません」

「いや、今でなければ駄目だ」


 不思議そうな顔をする万由を、しっかと見据える。これ以上彼女を苦しめるのは気が引けるが──自分は波分家の名代なのだ。今更たたらを踏んではいられない。


「この屋敷は直ちに焼き払う。早急に支度をすることだ」


 瞠目する万由を顧みることなく、未散は背を向ける。足下に転がる屍たちに短く手を合わせてから、確かな足取りで彼女は部屋を後にした。

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