第4話 悪魔憑き討伐。代償


 コロ助に言われたまま自分の部屋の窓から屋根に出たぷりぷりプリンは、屋根の瓦を踏み抜かないよう注意して、


「エイッ!」


 自宅の庭を飛び越え、フェンスの先の道までジャンプした。


 シュタッ!


 両手を広げて華麗に着地が決まった。10点! 10点! 10点! 10点!


 ぷりぷりプリンはにっこり微笑んだ。コロ助は宙を飛んでぷりぷりプリンの肩のあたりに浮いている。


「悪魔憑きってどこにいるのかな?」


「たいていは人の多いところか、その逆に人の少ないところにいるけど、人に悪さをするのは人の多いところにいる悪魔憑きだな。

 ここから、駅の方に歩いていけばきっと見つかるよ」


「えー、この格好で駅の方まで歩いていくの?」


「それが魔法少女になるための条件だったじゃない」


「そ、そんなー」


「テレビに出てくる女の子たちだって全国の大きなお友達からジロジロ見られてるんだからだいじょうぶ。魔法少女は見られてなんぼのものなんだから。この時間だと電車の本数もだいぶ少なくなってるから人通りもそれほどじゃないよ」


「うー。わかった」


 夜道を駅に向かって歩いていたら確かに人通りは少なかった。と、言うより誰も道を歩いていなかった。桃子はこんな時間に夜道を歩いたことは今までなかったのでこれが普通のことなのかそうでないのか見当は付かなかった。


「ぷりぷりプリン。ここは悪魔憑きの張った結界の中みたいだ」


 コロ助の注意と同時に、道の向こうからこちらにやってくる人影が見えた。


「来たよ」


 人影は灰色のコートを着た30代がらみの普通の男だった。どこからどう見ても普通のサラリーマンに見えたが、心の中でぷりぷりプリンじぶんを殺してやりたいと思っていることが何となく伝わってきた。間違いなく今自分に近づいてきている男は悪魔憑きだ!


 先手必勝!


 ぷりぷりプリンは手にしたステッキを握りしめ、一気に男に走り寄り、男の顔目がけてステッキを突き出した。


「正義のオシオキ、テー!」


 ぷりぷりプリンの一突きを男はかわすどころか、まるで反応できず、ステッキは男の眉間に斜め下から突き刺さり男の頭頂部のやや後ろまで貫通してしまった。


「やった!」


 貫通してしまったステッキをぷりぷりプリンが引き抜いた拍子に男は目をむいたままぷりぷりプリンに向かってうつ伏せに倒れ込んだ。


「ちょっとコロ助、このスティック凶悪過ぎじゃない?」


「だから言ったじゃない。ぷりぷりプリンに武器は不要だって」


「だって、ステッキがないと魔法少女じゃないもん」


「じゃあ、ステッキは片手で持ってるだけで、残った片手で戦えばいいんだよ」


「そうね。ならそうする。手足で戦えばKOだもんね」


「敵をたおしたけど、結界が解かれていないってことは、まだこの結界の中に敵がいるってことだから注意が必要だよ」


「わかった」


 ぷりぷりプリンがコロ助に返事をするかしないかというとき、また前方から人影が現れた。今度はベージュ色のコートを着た女性のようだった。


 さっきの過剰攻撃を反省して今度は右手だけ使って軽パンチで攻撃してKOしようと考えたぷりぷりプリンだが、女が近づいてきて自分を殺そうという考えを読み取ったとたん、そのことは頭の中から吹っ飛んでしまった。


 先手必勝!


 見敵必殺!


 気が付いたときにはぷりぷりプリンの右こぶしが女のアゴの中にめり込んでいた。


「KOってノックアウトのことじゃないの?」


「いや、キルオーヴァーのことだよ。

 悪魔憑きなんか生かしてていいことないんだから」


「そ、そうだよね。

 でも、わたしの右手、何だかわからないものでぐちょぐちょだし、コスにも変なのがいっぱいくっついちゃって何だか臭いんだけど」


「いちどメタモルフォーゼを解除してまたメタモルフォーゼしたらきれいになってるからだいじょうぶだよ。

 おっ、結界が晴れたようだ。これで未然に悪魔憑きの被害が防げた。ぷりぷりプリン、ご苦労さま」


「そろそろ帰ろうか」


「そうだね」


「その前に、誰も周りにいないから、メタモルフォーゼ解除。

 解除したとたん寒くなった。そして、メタモルフォーゼ。

 ふー。寒くなくなったわ」


 ぷりぷりプリンは宙に浮かんだコロ助と一緒に駅前までの道をUターンしてわが家に向かった。


「ぷりぷりプリン。前から歩いてくるのは悪魔憑きだ。結界がまた張られている」


 前方からは二十歳まえくらいに見える不良っぽい男が深夜営業中のカレー屋から出てきてぷりぷりプリンに向かってきた。男は右手にレジ袋を提げている。


 男の姿を認識したとたん、ぷりぷりプリンの頭の中に男の考えていることが流れ込んできた。


 その考えを読み取ったとたん、ぷりぷりプリンはわれを忘れて男に駆け寄り右の拳を男の胸目がけて突き出した。


 ぷりぷりプリンの拳は男のみぞおちあたりにめり込み、男は口から血を吹き出しながら仰向けに倒れていった。


「ぷりぷりプリン。見事な攻撃だったよ」


「そ、そう?」


「普通の魔法少女じゃまねのできない素晴らしい動きだった」


「そんなに良かった?」


「今回は服の上から攻撃したから変なものが飛び散らなかったところも良かったよ」


「考えたわけじゃないんだけどね」




 ぷりぷりプリンは夜道を歩いてわが家に帰り着き、庭から1階の屋根にジャンプで飛び乗って、開けっぱなしにしていた窓から自室に戻った。部屋の中ではエアコンが最強でかかっていた。電気代のことを心配しながらぷりぷりプリンはメタモルフォーゼを解除して桃子に戻りパジャマを着て部屋の電気を消してベッドの布団にもぐり込んだ。


 布団の中からピンクの毛糸で作ったチープなかつらが見つかった。



 翌朝。


 桃子の自宅うちの食堂で。


 桃子の父親と母親は朝食を食べ終えて食堂に続く居間のソファーに座って朝のニュースを見ていた。桃子の姉はまだ起き出していないようで桃子一人が朝食を食べていた。


『本日未明、帰宅途中の男性2名、女性1名あわせて3名がJRXXX駅西口商店街で何者かに襲われました。

 被害者の男性の氏名はXXX。32歳とZZZ、20歳。被害者の女性の氏名はYYY。26歳。

 XXXさんは鋭い凶器で顔面を突き刺されており凶器は頭部を貫通しており、被害者は即死した模様です。

 ZZZさんは胸部を鈍器のような物で強打されており即死した模様です。

 被害者の女性YYYさんは顎から下の部分を鈍器のような物で強打され即死した模様です。

 被害者同士の関連性は低いものとみて、同一犯による通り魔殺人の線で警察は捜査を進めています。警察では付近の監視カメラの映像の分析を進める一方、周辺住民に対し不審者に対して厳重に警戒するよう呼び掛けています』



「早朝からパトカーのサイレンがすると思っていたら、うちの近所の事件じゃないか。

 桃子、おまえも気を付けるんだぞ」テレビを見ながら父親が桃子に声をかけた。


「う、うん」


 桃子は先ほどから箸をおいている。桃子の顔は真っ青でその手は震えていた。



 2階の桃子の部屋の本棚に並べられたぬいぐるみたちの中にコロ助ことサティアス・レーヴァが化けたぬいぐるみがあった。




[あとがき]

サティアス・レーヴァは『常闇の女神』シリーズで登場する悪魔です。従ってこのお話は『常闇の女神』シリーズの外伝としました。

https://kakuyomu.jp/users/wahaha7/collections/16816700426668255109

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魔法少女、ぷりぷりプリン。メタモルフォーゼ! 魔法少女に変身よ。 山口遊子 @wahaha7

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