また、太郎と異世界転生したかもしれない話
緋雪
GW! ワクワクが待っている!
GWに入って浮かれている世間を横目に、俺は短い昼休みを終え、職場に戻っていた。
ああ、また今日も終電なのだろう。ペットショップに寄れない。うちの猫様は好みがうるさいのだ。俺のアパート近くの「ペットショップ
「どうちがうんだよ。キャットフードなんかどれでも同じじゃねえのかよ」
ぼやきながら、職場に戻った。
うちの会社にも、ちゃんとGWはあるのだが、なかなかブラックな会社なので、普通の会社員のように、8連休とか9連休とかは夢のまた夢。連休すらとれない可能性も高かった。
「あーー、疲れたぁああ!!」
帰って上着を椅子に放って掛けると、ベッドの上に寝転ぶ。
「あ〜、寝たい。このまま、寝たい。ぞ、こらあ!!」
猫が、俺の買ってきた唐揚げ弁当の袋をカシャカシャ引っ掻く音がして飛び起きる。
「待て待て、お前には、こっちやるから。」
と、キャットフードに手を伸ばした。
「この前のやつさあ、残しても困るから食えよ、ほら」
「
猫はペロッと舐めて、なにか言いたそうな顔をしてこっちを見たが、舌打ちをし(たようにみえ)て、食い始めた。俺も俺の飯を食った。
そもそも、この猫、俺についてきたらしいんだが、どこから来たのかわからないのだ。俺が、前に変な異世界転生ものみたいな夢を見た時に、確かに夢の中にいた気がしたのだが、朝起きたら、足元で寝ていた奴なのだ。
夢から出てきた猫という設定で、「ゆめ」なんてキュートでドリーミィな名前にしてやろうかと思ったが、オス猫だったので「太郎」にした。
ビールを飲みながら飯を食ったあと、いつの間にか寝てしまったらしい。
気がつくと、また森の中だった。なんだよ、また例の「異世界」かよ?
「異世界やなあ」
声がして振り返ると、太郎がいた。
「え? 今の、お前?」
「せやで」
「なに? 今回、喋る設定?」
「異世界やからな。なんでもありや」
「なんで関西弁なの?」
「そんな設定なんちゃうの。しらんけど」
「で、お前は、俺のパーティ設定なわけ?」
「しらん」
そんないい加減な太郎を連れて、何の目的もなく歩いていると、宝箱を見つけた。開けてみると、剣が入っていた。なかなか立派な装飾の剣だ。
「勇者の剣やな」
太郎が言う。
「え? そうなの?」
勇者の剣って、その辺に転がってるものなのか? あの、誰も抜けるはずがない岩に刺さってるやつ、とか、国王から授かったりするやつ、とかじゃないのか?
「しらんけど」
「おい」
森の中を歩いていくと、一軒の民家があった。中には誰もいない。
「空き家かな?」
そう言って、家の周りをぐるっとまわる。
と、足元の段差に気付かず、
「ん?」
「あ〜あ。もう取り戻されへんかもな」
「どこに落ちた?」
「あそこや」
立ち上がって見ると、そこには井戸があった。
「えっ? ここ?」
勇者の剣を井戸に落とす、とか、そんな馬鹿な勇者がどこにいるんだよ、も〜。っていうか、今のところモンスターらしきものにも何も会わないから、剣とか必要な世界なのかどうかもわからないのだが。
「どうしよう……」
「まあ、待っててみい」
太郎に何か考えがあるようだ。
暫くすると、井戸からキラキラした光が現れ、続いて、すうっと女神様みたいな感じの人が剣を持って現れた。それを差し出し、俺に向かって何か喋っているが、言葉が通じない。いや、普通、通じる設定じゃないのかよ!
「っていうか、これは、あれか?」
女神様が持っている剣が、俺の剣かどうか試すやつか? 「金の斧銀の斧」ならぬ「金の剣銀の剣」?
「危ないし、迷惑やから落とすなって。」
……太郎が通訳してくれて、剣は無事に俺の手に戻った。
家の裏に、納屋があった。中に入ってみると、もう使わなくなったのか、いろいろ道具が転がっていた。鍬や鎌があったり、大きな鍋の向こうには羽釜。そして、その隣に盾。
「えっ? 盾?」
いや、羽釜の隣に立派な盾。
「勇者の盾やな」
「そうなの?」
「オルハリコン製やで」
「ホントに?」
「言うてみたかっただけや」
「おい」
持って行っていいものかどうか迷ったが、太郎が、勇者の盾は勇者の物なので、持って行けと言う。ついでに小屋の中には、野良着の隣に勇者の鎧がかけてあった。もしかして、ここは勇者の家で、単に勇者(俺)が留守にしているだけなのかもしれない。もうちょっと丁寧に扱え、俺。
さて、ここからどうすれば良いものか?
モンスターらしきものも出てこない。守らないといけない姫なんかもいまのところ見つからない。呪われた村とかでもなさそうな、なんか平和な気もするし、この異世界の目的がイマイチわからない。
「こっちや」
太郎が歩き始めた。
「何が?」
「ラスボスや」
「いや、今回も一匹もモンスター倒してないけどな」
「人生そんなもんやで」
「お前、猫だけどな」
「ほれ」
太郎は振り向くと、一枚の紙を取り出して、俺に見せた。
「GW 東」
と書かれてある。
「ゴールデンウィーク、ひがし?」
ゴールデンウィークに東方向へ行けという意味だろうか? いや、全然意味がわからん。
「なんだこれ?」
「サダコにもろた」
「誰だそれ」
「井戸から出てきた女神様な」
「そんな名前なの?」
「俺がつけた」
「やめろ。いろいろヤバいから」
サダコ……いや、井戸の女神様に貰った暗号、GWは、ゴールデンウィークの略ではなく、Go West (西へ行け)という意味だそうだ。
「こっちや」
太郎に連れられ、行った先には、見覚えのある建物の前にはだかる、大きく真っ黒な化け物。
「うわぁあっ!!」
俺は一気に
俺はこいつの正体を知っている。戦え。戦うんだ!!
カキーン!! ドカッ!! ガッ!!
「ハァハァ……」
負けてたまるか!
カッ!! ガガッ!! キィーン!!
「あっ!」
剣が飛ばされ、俺は黒いやつに殺されそうになる。
「しょうがないなあ。ほれ」
太郎が、渾身の猫パンチをお見舞いした。
黒い奴はシュウゥゥと音を立て、姿を消してしまった。
「ほれ、行くで」
太郎に急かされ、俺は、その建物に入って行く。そして……
「ペットショップ
翌朝、夢から覚めた俺が一番にしたのは、会社を休んだこと、そして……
余りにブラックな仕事状況で、死にかけていた俺を救ってくれた太郎に、「
また、太郎と異世界転生したかもしれない話 緋雪 @hiyuki0714
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