書籍連動番外編
【書籍1巻発売記念】双子のタイムスリップ小冒険:1
3月19日発売の書籍第1巻、書き下ろし番外編「
書籍番外編で謎の女の子として登場したジョカが、どうして過去のユピテルにいたのかが明かされます。
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「だからぁ、時間の概念は円環説なんだって!」
ある春の日のお昼すぎ、魔王城。双子の子供部屋で、妹のジョカが声を上げた。
子供らしく高い声は不満そうな響きを帯びている。
「時間は始まりも終わりもないの。ぐるぐる回る円の中で、『今』は流動中の一点に過ぎないの。それはフーギも納得してたじゃん」
「それは、そうだけど」
ジョカの隣の長椅子に座って、兄のフーギが答えた。
「それだけだと『今』の観測が難しくなっちゃうよ。もちろん『未来』や『過去』も。だから時間は単なる円ではなく、空間や物体やその他のいろんなものに影響を受ける歪みがあるんだ」
「……ふーん。まあ、一理あるのは認めるよ。じゃあそのあたりを修正して、もう一度術式を組んでみよう」
「うん」
二人はうなずいて、目の前のテーブルにある装置に手をかざした。
直径三十センチほどの中央に穴のあいた円筒形のそれは、びっしりと記述式呪文が刻まれている。
二人の手が淡く輝くと、刻まれた魔法文字の一部が光った。小さな光がうねるように形を変えて文字そのものが書き換わっていく。
「ふう。これでどうかな」
「試してみよう」
フーギは小さな球体を取り出した。糸を巻いて作ったきれいなボールだ。
装置の上に置くとふわりと浮き上がる。
「時空転移装置、起動。目標物を過去へ転送。秒数は五十秒前、場所は長椅子の下。実行は二十秒後」
ジョカの言葉に従って小さなボールの輪郭がぶれる。
フーギは椅子から降りて下を覗き込んだ。
「あったよ! 成功だ!」
フーギが手に持っているのは、装置の上に浮いているものと寸分たがわないボールだった。しかし、やはり輪郭がおぼろげである。
「二十秒経過」
ジョカの声とともに装置の上のボールが消えた。するとフーギの手のボールはにわかに存在感を安定させる。
「成功だけど、同一物質が同じ時空にあると存在が不安定になるね」
フーギは手のボールを軽く宙に放り投げ、キャッチする。
「物質は存在するだけで周囲に影響するもん。そのボールの質量分、空気を圧迫するし世界に重量をかける」
「生き物で試すのは無理かなぁ?」
「物質の、肉体のままだと無理そう」
「じゃあ、魔力体なら?」
ジョカが言って、双子は顔を見合わせた。
魔力体は魔力で作る分身のようなものだ。天雷族の固有魔法から派生した新しい魔法で、今のところは父グレンと双子しか使い手がいない。
莫大な魔力量と高度な技量が問われる魔法だが、双子は難なく使いこなしていた。
「いいアイディア! 試してみようよ!」
ジョカがそう言ったところで、廊下の方で声がした。
「フーギ、ジョカ、どこー!? もう午後の勉強の時間、始まってるよ! さっさと席につきなさい!」
母ゼニスの声だった。
「やばっ。見つかる前に別のとこに行こう」
「うん!」
双子は装置を抱えて、部屋の窓から飛び出した。ここは城の上階、飛行魔導具のホウキを持つのも忘れない。
二人はホウキで空中を滑る。美しく四角に区分けされた城の敷地を眺めながら、西の一角に着地した。
魔王城の庭はすっかり春。そこかしこに植えられた梅の花が開いて、いい匂いが漂っている。
フーギとジョカは近くの建物に入る。こじんまりとした造りながらも、美しく手入れされた家屋だった。
「シリウスー! いるー!?」
玄関先でジョカは声を上げた。返事はない。
「中に入っちゃおう。きっと、いるよ」
フーギが言って敷居をまたぐ。
シリウスとシャンファの家は数え切れないほど訪れている。勝手知ったる他人の家だ。
今を抜けて書斎に行くと、半開きの扉の向こうからブツブツと声がする。
「シリウス、いた! 返事してよ」
「うわ!?」
双子が背後から抱きつくと、椅子に座っていたシリウスはひっくり返りそうになった。
何とか体勢を立て直して不機嫌な顔を向ける。
「何だ、お前ら。人の家に勝手に入るな。礼儀知らずのガキどもめ。親の顔が見たいわ」
「いつも見てるじゃん」
ジョカが軽く言い返すと、シリウスはますます不機嫌になった。
「うるさいぞ。こういうのは決まり文句なんだ」
シリウスは現在、四十代後半。人間である彼はすっかり年を取った。
魔法にかける情熱こそ変わらないものの、腰が痛いだの老眼で見えにくいだのとしょっちゅうぼやいている。
「で、何か用か?」
「あのね、前から作ってた時間移動装置。そろそろ試験稼働ができそうなんだ」
フーギが円筒形の装置を掲げて見せた。シリウスは注視する。
「ほう……。本当にお前らだけでそこまで作り上げたのか。やるな」
「ライブラリのパングゥも手伝ってくれたけどね」
「それで、シリウスの研究室を貸してほしいの。お母さまとシャンファが探しに来ても、いないって言っておいて」
ジョカの言葉にシリウスは眉を寄せた。
「貸すのはかまわんが、なんでごまかす必要がある」
「だって、お母さまもシャンファも『勉強しなさい、運動しなさい、訓練しなさい』ばっかりなんだもん!」
「僕たちだけでライブラリに行くのもダメって言うし」
双子は口々に不満を言った。シリウスは肩をすくめる。
「独力でそんなものを作るお前らに、今さら勉学が必要とも思えんが」
「そうでしょ!? あたしたち、もう一人前だよ。大人だよ」
「みんな僕らを子供扱いしすぎなんだよぉ」
ぶうぶうと文句を言う彼らに、シリウスはため息をついた。
「知らん、うるさい。研究室は貸してやる。ゼニスとシャンファもごまかしてやるから、好きに使え。ただしその代わり、次にライブラリに行ったときにこれとこれの写しを取ってきてくれ」
シリウスは自分の研究に必要な箇所をメモして渡した。
「うん、いいよ!」
「ありがとう!」
双子たちはにっこり笑って、書斎の隣の研究室へと行った。
研究室はよく整理されてすっきりとしている。シリウス自身も片付けに気を使うようになったし、何よりもしっかり者のシャンファがきちんと管理をしているからだ。
フーギは装置をテーブルの上に置く。
それから魔力回路を起動させて循環を始めた。極めて濃い魔力が彼の体に満ちると、ふわりと人の形になって分離した。
『よーし、実験してみよう』
魔力で形作られたフーギが言った。ジョカが問う。
「さっきのボールと同じ条件でいい?」
『うん』
先程と同じように魔力体を過去に送り、重複した時間上での状態を観察する。
物体であるボールに比べて魔力体は遥かに安定していた。
『やあ、今の僕』
『こんにちは、過去の僕』
などと魔力体同士で会話をしてみたが、時空そのものや本人に大きな影響は出なかった。
「いいじゃん! これならばっちりだよ!」
ジョカが興奮してとび跳ねている。
「ふう。でも、一つ問題があるよ」
魔力体を引っ込めてフーギが言う。
「時間移動させた魔力体は、消耗が激しいんだ。頑張っても半日くらいが限度だと思う」
「別にいいんじゃない? 半日もあれば行って帰って来られるでしょ」
「それもそうか。それじゃ、さっそくやってみる?」
「そうしよう!」
双子はテーブルの上の装置を間に、相対するように立った。それぞれ魔力を分離させて魔力体を作る。
装置を起動する前にいくつかの準備をしてから、ついにそのときが来た。
『時空転移装置、起動。目標物を過去へ転送。年数は三十三年前、お母さまが……ゼニス・フェリクス・エラル・フアンディが九歳の頃!』
装置が小さく鳴動した。
次の瞬間、フーギとジョカの魔力体が消える。
目を閉じた肉体を置き去りにしたまま、彼らの精神は三十年を超える時間旅行を始めた――
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