第三部 成人期

第九章 それぞれの進む道

第104話 ゼニスの振り返り(前回までのあらすじ)1

 今回から第三部成人期に入ります。2話使って前回までのあらすじをやります。

 成人期は途中から舞台と物語の雰囲気が変わる予定。恋愛要素が増えます。よろしくお願いします。


**********







 私は今年で17歳になった。ユピテル共和国における成人年齢である。

 7歳で異世界転生をしたと自覚してから、ちょうど10年。今までいろんなことがあったね。

 せっかく節目の年なので、この10年を振り返ってみようと思う。







 まずは7歳以前の話。この頃の私はそれはもうイカレポンチで、めちゃくちゃな女児だった。

 なんというか、前世の享年32歳の記憶が生まれたての赤ちゃんの頭に無理やりインストールされたせいで、脳みそがバグってたんだ。

 小さい頃から子守をやってくれた使用人のティトを中心に、周囲に多大な迷惑をかけてしまった。もうずいぶん前とはいえ、あの頃を思い出すと「ウワーッ」って叫んで地面を転がりたくなる。

 黒歴史を超えた暗黒歴史だ。


 で、7歳の時に木登りに失敗して頭を強打。それで前世と生まれ変わってからの記憶が整理されて、自分が異世界転生を果たしたと気づいたんだった。

 記憶を取り戻した、というのとはちょっと違う。生まれた時から前世の記憶はちゃんとあった。

 たぶん7歳になって脳や体それなりに成長してたから、頭を打ったきっかけで記憶と自我を整理できたんだと思う。


 いやはや、びっくりしたね。ラノベの展開がまさか私自身に降り掛かってくるなんて、想像してなかったから。

 実を言うと、前世で想像っていうか妄想はけっこうしてたな。

 異世界転生したら、日本人らしく料理チートと石鹸作りをするぜ! みたいな。前世の上の姉が手作りコスメにはまっていたので、石鹸の作り方は私も知っていた。

 なお下の姉はオタクである。コスプレイヤーやってそこそこ人気だったわ。


 でも料理、特に和食は材料がないし、石鹸は別にいいかとスルーしてしまった。

 石鹸作ろうかなと思ったこともあったんだけど、下手に普及したら生活排水がひどいことになって、環境汚染になりそうで怖くて出来なかった。

 ユピテルはインフラが発達した国なので、ある程度の街にはちゃんと上下水道が整備されてる。

 でも石鹸やら洗剤やらの排水は想定してないから、詰まりそうなのである。


 閑話休題。


 自分を取り戻してからは真面目に家業の手伝い(ぶどう畑の雑草抜き)をしていたっけ。でもその年の夏にブドウをかじる害獣のリスが出て、大騒ぎになった。

 リスと侮ることなかれ。猫よりでっかいくらいのリスは超凶暴で、子供の私はおろか大人の村人たちも駆除できないくらいだった。多数が住み着いてしまっていたからね。


 それで、実家が属する家門の本家、フェリクスに応援を頼んだら兵士とオクタヴィー師匠が来てくれたんだよ。

 彼らはさすがにプロで、あっさりとリスを皆殺しにして一件落着。

 しかもフェリクスのお嬢様である師匠は魔法使い! 私にも魔法の才能があると分かったから、首都に行って勉強することになった。


 首都のフェリクスのお屋敷で暮らし始めた時、ティトが付き添いで来てくれた。彼女は当時まだ11歳とか12歳くらいだったのに、弱音も吐かずに私の身の回りの世話を続けてくれたよ。ティトには感謝してもしきれない。

 私はまあ、実年齢が前世プラスでアラフォーだったから。別にいまさらホームシックもない。


 最初は家庭教師に師事して勉強が始まったけど、前世の記憶はバッチリ覚えているので、計算とかの基礎教養の習得も問題なかった。







 ほどなく魔法学院に入学になって、魔法語を勉強したなあ。

 この異世界の魔法を使うには『魔法語』という特別な言葉で呪文の詠唱をする必要がある。

 魔法語はユピテル語とは全然違う謎の言語。文字の形が複雑で数がやたら多かったり、どっちかっていうと日本とか中国の漢字じゃないかなと思ってる。不思議すぎる。


 魔法学院は基本3年間のカリキュラムだけど、私は飛び級しながら駆け足で卒業までこぎ着けた。

 別に私自身が天才とかすごい才能があるわけじゃない。前世日本人で一応大学まで行った身としては、お勉強は慣れたものだもの。普通だよ、普通。


 最後の三年次だけはちょっと手こずった。自由課題で卒業論文を書くの。

 テーマ決めからして手間取ったけど、ここは異世界人らしく視点をひねって、『魔力とは何か』を考察することにした。


 ユピテル人たちは新魔法の開発は熱心だけど、魔力とは、魔法とは何か? みたいな考えをあんまり持ってなかった。

 色々苦労した結果、魔力が脳から生まれて全身を巡っていく様子を確認できたよ。

 大発見のはずなのに、人間の体に対して理解度の低いユピテルの人々には、なかなか理解してもらえなかったなあ。

 ちゃんとした評価を受けたのは、もう少し後。意識して魔力を体内循環させると、魔力量が増えていくと認知してもらえた後になった。







 この頃、初めてラスと出会ったんだったね。

 あの時の彼はまだちっちゃくて、本物の天使みたいに可愛かった!

 最初は体が弱かったけど、そりゃあ5歳とかで家族と離れて異国に連れてこられたんだもの。ストレスと不安がひどかったんだよ。

 なるべく落ち着けるよう、安心できるようみんなで気を配ったら、だんだん元気になったっけ。


 あの頃は「ゼニス姉さま」って呼んでくれてたんだよなあ。

 あの呼び方かわいくて好きだったのに、ある時から姉さまと呼んでくれなくなった。さみしい。

 でも男の子だから、本当に血がつながっているわけじゃない相手を姉と呼ぶのは、照れくさくなったんだと思う。


 姉代わり――ていうか前世の実年齢考えると母親代わり――の私としては、暖かく見守る所存である。







 ラスも元気になって、私も無事に魔法学院を卒業した後は、ぶっちゃけ金欠で困っていた。

 ユピテルの魔法使いはあまり使い潰しの効かない技能で、人気もない。

 当時9歳だった私はバイトをするわけにもいかず、魔法学院の名ばかり研究職として世知辛い日々を送っていた。


 転機になったのはマルクスとの出会い。

 今はティトと夫婦になった彼はあの頃、病気のお母さんを養いながら小さい屋台を一人で切り盛りしてた。

 当時13歳くらいだったから、相当苦労してたと思う。

 でも初対面の印象は明るくて、むしろちゃっかりしてる奴だったっけ。


 彼との出会いをきっかけに、氷とドライアイスを使った商売を始めた。

 色んな要素が上手に組み合ったおかげで大成功したよ。

 白魔粘土の特性に気づいたのもこの頃だったね。


 ついでにこの年は、シリウスとも知り合った。初対面の印象は最悪だったけど、仲良くなってみればそう悪い奴でもなかったよ。

 他の全部を犠牲にして魔法の才能に全振りしてる人なので、生活その他の基本的な所は全くアホ。それは今でも変わっていない。







 ティベリウスさんの結婚式のデザートとして、氷とドライアイスの魔法でアイスクリームを作ったりもした。

 冷蔵と冷凍は確かに物流に革命を起こすだけのパワーを持っているけれど、その価値を正しく理解して、素早く事業展開したティベリウスさんはさすがだよなぁ。


 あの人、何をやるにも一石二鳥というか。転んでもタダじゃ起きないというか。

 結婚だってリウィアさんの実家の運送商会と縁を強化しつつ取り込んで、結婚式で要人を招いて氷の力を見せつけた。


 冷蔵運輸事業は大きくなりすぎたせいで、後に元老院から目を付けられたんだけど。

 破格の条件で事業の一部を国軍に譲り渡して不満を逸らし、ついでに軍の流通網に深く食い込んでた。

 こういうことをさりげなくやってしまうので、ティベリウスさんの頭の中はどうなってるんだと思う。







 同時期にミリィと友達になって、エール作りも始めたね。

 エールは今ではユピテルに欠かせない夏のお酒になっている。私も大人になったから、そろそろグイッと飲める年頃である。うふふ、楽しみ。

 エールに合うおつまみとして、餃子とか売り出したいな。今度レシピをマルクスに伝えてみよう。

 実作して持っていくのもいいな。やってみよ。







 だいたい10歳まではこんな感じで過ごしていた。

 思い返せば色々あったなぁ。


 でも、この頃はまだ平和だった。これ以降は急にきなくさくなって、大変だったんだ。

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