第27話 魔力実験3
やばいやばい、このお尻の魔力を何とかして散らさなければ。
ええと、頭から体の中を通って魔力が集まったんだから、さらに移動させることもできるはずだ。
落ち着いて、さらに魔力を動かそう。まずお尻からもう一度、下腹部へ。
げぇ、まずい、またもや魔力の勢いが増したっぽい。お腹がめちゃくちゃ熱い。
これ以上加速させたらだめだ。心臓を避けるように動かして、右手へ。
『清らかなる水の精霊よ、その恵みを我が手に注ぎ給え!!』
とっさに一番慣れた水の呪文を唱えた。右手の魔力がほんの少し減って、水が吹き出る。頭から水をかぶったけど、そんなの気にしている余裕がない。
だめだ、こんな量じゃとても減らしきれない。もっとたくさん魔力を消費する魔法を使わないと。
えーとえーと、まずい、私の知ってるのは初歩的な魔法しかない。魔力の消費量はさっきの水といい勝負だ。
――いや、1個だけある! 師匠が作ったドライヤーの魔法だ。完成した時に見せてもらったんだった。
あれは風と熱を同時に使うせいか、魔力をやや多めに使う。そこまでの消費じゃないけど、初歩魔法よりはマシだ。
『自由なる風の精霊よ、火の精霊とともに踊り、その交わりの熱き風を我が手より放ち給え!』
ぶわっと熱い風が巻き起こった。それなりの量の魔力が引き出されて霧散する。後ろでティトが悲鳴を上げている。
制御可能なレベルまで減少した魔力を、何とかかんとか分散させるようにして薄めて消した。
「ごめん、ティト! 大丈夫!?」
「ええ、別にケガとかはないです、けほっ」
慌てて振り返ると、尻もちをついて髪を乱れさせたティトが咳き込んでいた。熱風を吸い込んでしまったのだろう。
顔が赤くなっていたが、火傷はない。水差しの水をコップに注いで飲ませたら、落ち着いたようだ。
「本当にごめん。こんなことになるとは思ってなくて……」
「いいですよ。昔の暴れん坊お嬢様の仕打ちに比べたら、大したものではありません」
ちょっとかすれているけど、声もちゃんと出ている。大丈夫、かな?
「それより、すごい光でした。まぶしいくらいで」
そう言いかけたティトは、言葉を切った。
うむ? どうした?
と、言おうとして私も気づいた。
全身に塗りたくっていたでんぷんのりが、なんか変なことになっている。白っぽい半透明でぷよぷよだ。
「なんじゃこれ……」
引っ張ってみたら、少しばかり伸びてちぎれた。表面は案外べたついておらず、肌からきれいにはがれる。
あと、割って小さくした魔力石が消えている。ていうか糊に溶けちゃった??
そういえばこの白っぽい感じ、魔力石の色に似てるなぁ。
水の魔法で水分足した直後に熱風で熱せられて、おかしな化学反応でも起こしたのか?
でも、熱風はやけどしない程度の熱だったし、魔力を大量に流したのも関係している??
分からん。
とりあえず謎の白ぷよは後で調べよう。
今回の実験では、予想以上の収穫があった。
魔力は全身を巡り、特に頭(脳?)、心臓、下腹部に要所がある。
それらを意識して魔力を動かす、回すことで魔力量が増える。まるで回転することで強まるモーターみたいに。
単に体の中での魔力の動きを確認するはずだったのに、思ってもみない結果が得られた。
「ティト、すごい発見だよ!」
私は興奮して立ち上がり、彼女の肩をばしばし叩いた。
魔力の不思議に一歩近づけた感じがする。
要所を含む魔力の通り道、そう、某ゲームに習って魔力回路とでも名付けようか。魔力回路をさらに調べていけば、もっと魔力を高めたり操作を精密にしたりできそうだ。そうなれば魔法そのものの扱いも変わってくるかもしれない。
「大発見だ! 師匠に知らせないと!」
喜び勇んで走り出そうとした私の手を、ティトがぐいっと引っ張った。白ぷよがぷにっとした。
「ゼニスお嬢様、その格好で外に出るつもりですか。服を着てください」
「あっはい」
今の私は全裸に白ぷよ状態であった。
あやうく本物の露出狂になるところだった。ティトには感謝してもしきれないほどの恩ができてしまった……。
その後、きちんと体を拭いて服を着て、師匠に顛末を報告したのだが。
彼女の反応は期待していたものと違った。「ふーん?」くらいの薄さなのである。
師匠に限らず、ユピテル人にとっての新発見とは目に見えやすい効果を伴っていないと、なかなか理解されないようだ。例えばそれこそ、画期的な新魔法とか。
あと、オクタヴィー師匠の気質は研究者とか学者というより、貴族的な政治家や実業家なのではとも思った。たまたま魔力が高いから魔法使いやってるだけで。
だからますます、即物主義というか「何かの役に立つ」を重要視してる気がするね。
私はがっかりしたが、こういう基本的な追求だって重要だと前世の知識として知っている。ただまあ、地味ではある。
諦めないで頑張ろう。
そうそう、謎の白ぷよは時間を置いてもぷるぷるを保っており、前世で言うところのシリコン粘土みたいな感じになった。
魔力に反応して光る性質を引き継いでいたので、その後もちょいちょい実験で使った。
今のところ他の使い道を思いついていないが、魔力と水や熱による反応の結果として記録しておいた。
卒業課題はこの一連の実験の結果をレポートにまとめることにした。
その他、補足的な細かい実験や考察も盛り込んで、なかなかの一本が書き上がった。
題して『体内における魔力の発生と挙動について』。頭部、心臓、下腹部の要点を通る魔力回路についても書いたよ。
師匠を含めた魔法学院の反応は薄めだったが、それでも合格が出た。
季節は春。魔法学院に学んで1年と少し。
ついに私も、魔法使いになったのだ!
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