第17話 新しいお仕事?
卒業課題に取り組み始めてから、早数日。なかなか苦戦中である。
小さいアイディアはいくつも思いつくのだ。電波で物を振動させて温める電子レンジの魔法とか、溜めておいた水に渦巻きを起こす洗濯機の魔法とか。……なんか家電系ばっかりだね。
でも、せっかく異世界で魔法使いになるのだから、もっとこう、かっこよくてこれぞ魔法! みたいのをやってみたい。
ただ、派手な攻撃魔法はちょっとどうかと思っている。前世のゲームを参考にすれば、すごい効果の攻撃魔法はたくさん思い浮かぶ。広範囲で爆発を起こすとか、特大の雷を落とすとか、何なら隕石を降らせるとかね。
けれど卒業課題で作った魔法は公開されるので、それがいずれ軍事転用でもされて戦争で使われるようになったら、嫌だ。私の考えた技で人が殺されるなんて、とても耐えられそうにない。
攻撃魔法ではなく、しかも魔法らしい浪漫が詰まったもの。新魔法でもいいが、考察や研究でもいい。
まだこれぞというものを見つけられていない。
まあ、まだ三年次は始まったばかりだ。じっくりやってみよう。
それに、もし新魔法を作るのであれば、人の役に立つものにしたい。
そのためには社会をきちんと知っておかなければならない。
首都に出てきてけっこう経つが、毎日お屋敷と魔法学院を往復するばかりであまり出歩いていないのだ。
首都の治安は場所によってばらつきがあり、フェリクスのお屋敷がある高台は一人で歩いても問題ないほどに治安が良い。でも、それ以外の場所は年齢一桁女子が単独で出かけるのは難しい。ティトが一緒でも、彼女もまだまだ少女に過ぎないし。
そんなわけであんまり外に出られていなかった。
けれどそろそろ、もっと外を見てみたい。また本家に手間を取らせてしまって申し訳ないが、大人、できれば男の人を誰か付添いに頼んでみよう。使用人でも奴隷の人でもどっちでもいいと思う。おじいちゃん先生は……足がよぼよぼしてるから、どうかな。
そんなことを考えながら中庭で基本魔法の練習をしていると、オクタヴィー師匠が通りかかった。
「あら、ゼニス。いいところにいたわ。私の部屋まで付き合いなさい」
「はい」
呼ばれて彼女の部屋まで行く。そういや私室に入れてもらうのは初めてだった。
師匠の部屋は壁に緑を基調とした布を垂らした、なかなかセンスのいい雰囲気である。石造りの壁だとそっけないし、冬は冷気が来ちゃうしで布をかけるのはよさそうだ。私もやってみたい。布はどこで買えるんだろう?
「これ、この前の髪を乾かす魔法の代金よ」
師匠は小さい袋をくれた。中を見てみると、金貨が何枚も入っている。先の戦争で活躍した執政官の横顔が彫られたやつだ。
おおお、金貨! 初めて見た! 今まであまりお金に触る機会がなくて、せいぜい銅貨止まりだったから。
前世のコインほど完全な円形ではなく、ちょっと歪んでいる。ずっしり重くて金貨!という感じがした。
「いいんですか!?」
私が興奮気味に言うと、師匠は肩をすくめた。
「アイディアをもらったもの、タダというわけにはいかないでしょ。それに卒業課題に取り組むには、多少のお金があった方がいいわ。それを使って、必要なものを買いなさい」
なんと、トンビが油揚げをさらうみたいにアイディアを取り上げられたと思っていたが、師匠はきちんと考えていてくれたようだ。むしろお金を渡すためにこういうことをしたのでは?
うん、ごめんなさい。私はほんとに、こういうとこが駄目だ。一人で変な方向に思いこんでしまう。
「それと、きみにもう一つ仕事を頼むことになったから。その手間賃を兼ねてね。……ああ、もし足りなかったらちゃんと言うのよ。フェリクスに連なる者がお金に不自由していたら、みっともないもの」
「いえ、十分です」
私は金貨を握りしめて言った。これ、けっこう高額だと思う。日本円に換算すると、物価が違うから一概に言えないけど、十万円以上にはなりそうだ。子供の小遣いの額ではない。
ずっとままならない子供の立場でやってきたから、きちんと認められて対価がもらえるのはとても嬉しい。
……と、金貨に興奮して仕事とやらを聞き流すところだった。
「仕事というのは、何をやれば?」
すると師匠は腕組みをして、目をそらした。
「子守りよ」
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