名前のない人々

euReka

名前のない人々

「民間人でも学生でも構いません。現在、戦闘機のパイロットが不足しています。志願者の受付は……」

 そんなアナウンスが流れ、巨大なビルに避難していた人々は不安の表情を浮かべる。

 でも俺は、戦闘機に乗れるかもしれないというワクワクを止められず、避難している人々をかき分け、ビルの中にある受付の場所へ向かった。


「あなたが搭乗するのは、FF26AI7・タイプC・バージョン8という最新鋭機です。タイプCのバージョン8は全てAIが操作しますから、搭乗者はただ乗っているだけでよい仕様になっています」

 説明はよく分からなかったが、俺には新品の戦闘機が一機与えられ、何となくカッコいいデザインのパイロット服も支給された……。

 上機嫌の俺がいつもそのパイロット服を着て歩いていたら、ビルに避難している人々からよく声を掛けられた。

「いやあ、いつもわれわれを守ってくれてありがとう。サンキューベリーマッチ」

「あのパイロットさん、握手とサインをして下さい……。きゃあ、これで同級生の女の子たちに自慢できます!」

 まだ一度も戦闘をしたことがないのに、まるでスターになった気分だ。


「敵機襲来! 敵機襲来! 全ての戦闘機パイロットは、ただちに出撃して下さい!」

 俺は、ビルの最上階にある展望スペースで女の子に写真をねだられていたが、出撃命令が出たから行くよ、と言いながら敬礼して足早に去っていく……。

 そんな自分って、今までの人生で一番カッコいいなと思った。


「あの、とりあえずFF26に乗っていればいいんですよね?」

「ええ、最新機種だからあとはAIが全部何とかしてくれます」

 戦闘機に乗って俺が質問すると、モニター越しに指令室の女性がそう答える。

「でも、何もすることが無いのはとても退屈ですね。戦闘機を操縦したり、ミサイルを撃ったりする必要がないなら、人間が戦闘機に乗る意味って何ですか?」

「そういう質問は後で伺います。今は戦闘に集中して下さい」

 通信が途切れたあと、戦闘機は勝手に動き出し、晴れた空へ向かって飛び出した。

 機内から後ろを振り返ると、巨大なビルがゴゴゴと砂煙を立てながら浮上し、大変なことになっている。

 でもまあ、AIに任せておけば生き残れる可能性は高いか?

「でも、あの、急に今聞いておきたい質問が頭に浮かんできて」

「何?」

「あなたの名前を、その」

「わたしはミリアよ。あなたの機体は、あと三十秒後に敵と接触します」

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