9.儀式までの退屈な時間
「さて、儀式の為の祭壇はあらかじめ組んであるし、夜までヒマだなあ」
現代日本に溶けこむべく、白シャツと短パンを買って身に着けたまでは良かったが。
顔を隠す為に使っている麻のローブと、二月という季節感の無さから、逆に浮いてしまっているのに自分でも気付いていないエルフの少年は、薄暗くなってきた住宅地の公園の木陰で一人呟いた。
そんな彼のそばには、赤髪ショートで白シャツとスカート姿の少女がすっかり熟睡状態であった。……眠らせた張本人は紛れもない、少々困り気味の彼自身なのだが。
彼が放った矢に乗せた睡眠効果から考えれば、あと一時間もすれば目を覚ますだろう。即効性がある代わりに眠る時間も短くなっているのが、エルフ族に伝わる睡眠薬の特徴だ。昔から、こういった作戦時などでは扱いやすく、人間たちから重宝されている。
だが、彼女の身を拘束するという目的は果たせるのだが、効果時間が短めとはいえ安易に眠らせてしまうのもそれはそれで不便だ。
眠らせた張本人が言うのもアレだが、
儀式の為に用意した『祭壇』がある場所まで向かうのにも、この眠ってしまった少女を抱えながらだと流石に目立つだろう。結局、動けるようになるのは、隠密行動ができる日没後になってしまう。
なので、日が落ちるまではこの公園の木陰で身を隠して過ごす事にしたのだが……。少年のまだ幼げな見た目からは考えられないかもしれないが、それでも千年以上という長い時を生きてきた。
そんな彼であっても、やはり何もないヒマな時間は退屈で仕方がない。どんなに長い寿命だろうと、一時間、一日、一年といった概念は変わらないのだから当然だ。
***
滅多な事で人里に行く機会もないので、ここ数百年で随分と世界の景色は変わったものだ――そんな、人間とは比べ物にならない寿命だからこその感想を浮かべ、思いふけていたその時だった。
ピロリロリンっ! 透き通るようなクリスタルな音色が、赤髪の少女が持っていた青いスクールバッグの中から鳴り響く。
人間の最新技術なんかに興味のない彼ではあるが、何度も同じ音が鳴り続けた末に、しばらくして止まったくらいでようやく。これが人間たちの発明した連絡手段の一つである『電話』だろう、と見当をつけた。
「そういや、最近の人間たちは『デンパ』とやらで繋がっているんだっけ。面倒だなあ」
当の持ち主は眠っているが……もう一度鳴られればうっとおしい事この上ないし、極力目立たないように誰もいない公園の木陰で時間を潰しているというのに、それが全くの無意味になってしまう。
彼はバッグから、ハイテクな金属板を取り出すと、それを真上に放り投げて。すぐさま弓を取り出すと――パシュウウッ!! と、金色に光る魔力の矢を放つ。
それは、宙に放り投げた金属板の中心を容赦なく一直線に貫いた。
「最近の人間は、『異能』とはまた違う、不思議なチカラを行使するからね。こういう怪しい物はとりあえず壊しておくに限るよ」
彼は、現代に根付く科学、機械を知らない。それ故に、安易に『壊しておけば安心だろう』という考えへと至ってしまうのだろうが……。
例えば、美術館に備えられた厳重なセキュリティのように。時には、
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