2 みたくないものをみてしまうひ
(
僕は、陰気な男だ。
成績も悪いし、見た目も芳しくない。言ってみれば、デブだし、ちょっと…高校生にしては頭薄めだし、脂性。
趣味は、ありがち。アニメ、フィギュア、二次元アイドル。
『薫ちゃん』
これは…いや、この人は、二次元ではない。三次元。人間。女の子。きっと、このクラスで、一番可愛い。…と僕だけでなく、思っていらっしゃられる方だ。
いやぁ…、お恥ずかしい。こんな、冴えない…なんて言葉で済まされるほど、気持ちの悪い僕が、すきになるには、おこがましい人なんだけど、でも、やっぱり、二次元は、抱き締めてはくれないし、匂いはしないし…。
そう。匂い。
薫ちゃん、いいにおいするんだ。香水かなぁ?ふわ~って、バラでもなくて、桜でもなくて、う~ん…あれはきっと、金木犀。なんて上品な、香水のチョイス!!
僕は、すれ違った次の瞬間、その匂いがした薫ちゃんの髪の毛になりたかった。
抱き締めてはくれない…。それは、三次元でもおんなじ。だって、僕だよ?女子から、キモイ、って言われてるの、知ってるし。
でもね、薫ちゃんだけは、違うんだ。
僕に、
「おはよう、
って、毎朝、必ず言ってくれる。僕が、必ず、薫ちゃんの登校してくる時間に合わせて、教室に入って行くからなんだけど。…きっと。…そうでないと…いいな…って、まぁ、男なら、すきな女の子のいる男なら、誰だって、そう思っちゃうよね?
でも、クラスの女子が言うんだ。薫ちゃんに。
「薫、あんなのによく話しかけられるね」
僕は、耳を塞ぎたくなる。どんなに恐ろしい言葉が、薫ちゃんの口から零れて来るか、分からないから。
でもね、必ず、彼女はこう言うんだ。
「そんなことないよ。普通だよ?だって、同じ人間でしょ?」
(そうだよね…泣。そうだよね…泣)
心の中で、僕は大号泣。それでも言うんだ。あんの女子どもは。
「でも、南波はあり得ない!!もう髪薄いし、べとべとだし、太ってるし、ヲタクだし?もうキッショイ所しかないでしょ!!あんなの、足もくさいよ?絶対!」
「あはははは!!120%みずむしだしね!!」
「もう…。みんな、良い加減にしなよ?南波くんが可哀想だよ」
「あぁあ、本当に薫は優しさと
「マジね―――!!!」
(うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!薫ちゃんは、あんな女たちとは違うんだ!!もう天と地ほどの違いがあるんだ!!月…イヤ、金星とカメムシくらい違う!!あんな奴ら、僕からだってごめんだ!!)
僕は、心から、薫ちゃんがすきだった。彼女は、可愛さだってそりゃ凄かったけど、心の潔さが違う。他の女とは、ぜんっぜん違う!!
言葉遣いだって、スカートの長さだって、薄っすらしたくらいのメイクだって、染めてはいないだろうに、栗色のロングヘアーだって…僕からしたら…、いや、僕からしなくても、薫ちゃんは、パーフェクトだ。
その日、僕は、秋葉〇に来ていた。二次元のグッズや、ポスター、カード、その他もろもろ。集めにね。いつもの病気だ。仕方ない。どんなに薫ちゃんが素敵でも、どんなに薫ちゃんがすきでも、報われないのは、知っている。
僕は、まぁまぁ買い物を満喫して、帰路に着こうとした。その時、携帯が鳴った。友人からだった。
【今、渋谷。ちょい、カラオケでもどうだ?】
【O.K】
僕は、ハチ公前へ向かった。
その時だった。ハチ公前に、見慣れた人が、見慣れない格好をしていた。
長い髪をポニーテールにして、まだ、夏でもないのに、ノースリーブを着て、パンツの見えそうな短いスカートで、時間を気にしている。
僕は、見間違いかと思った。似てる人かな?と思った。
でも、違った。少し、気付かれないように、その人の真後ろへ回った僕の鼻に匂って来たのは、金木犀の匂い。
そして、『やっと来たか』みたいな顔をして、手を振った。誰に?僕は、視線がくぎ付けになった。そこに来たのは、清廉潔白な美男子でも、遊んでいそうなチャラ男でもなかった。
バーコードの、太った、脂性の、背の低い、薄着たいないおじさんだった。
「今日、幾ら?」
「んー…10万💛」
「え?いいの!?もっと出しても良いのにぃ…」
へらへらして、彼女のお尻を撫でまわしている。
「ちょっとぉ、ここではダーメ!ホテル着いてからね💖」
僕は、この日から、あの女を目で追うのを辞めた。
みたいものをみられないひとみたくないものをみてしまうひ 涼 @m-amiya
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