頬色の情熱
数日後、僕は月曜日の補習が休講になり、いつもより早く帰宅することになった。黄昏時にレトロ通りを歩いていると、椿が店から出てくるのが目に入った。彼女の通学路はレトロ通りとは逆方向で、彼女がなぜここにいるのか疑問に思ったが、とにかく急いで駆け寄り声をかけた。
遠くの海で汽笛が鳴り響くのが聞こえた。
「椿さん。前回、僕が情熱を持ってることが分かったら教えるって約束したよね。」
椿は立ち止まり、しばらく考えた後ゆっくりと振り返った。
「そう...だったな。お前は約束を守る側の人間だったようだ。」
僕は、また、ずいぶんと酷い言われようだなと思った。
「ははは、厳しいね。もちろん守りますよ。守れる約束ならね。」
椿は何かを思い出したような表情を浮かべ、僕に話しかけた。
「そうか…、そうだな。あの時のお前は必死に約束を守ろうとしていた。
わかった。それで、お前の情熱とはなんだ?」
僕は椿の顔を見て、約束のこととは一年前のあの出来事だと思った。ただ、自分にとって非常に印象深い出来事ではあったけれど彼女が約束という言葉だけでそれを連想するとは思わなかった。自分自身も約束という言葉でそのことを思い出すことはなかったのに。
ああ、そうか、彼女は僕が"あの日"をどう過ごすかを気にしているのか。あの観望会のイベントだって。あの時、彼女が僕の興味を聞いた理由は…。と、妙に納得しながら会話を続けた。
「あの日、君に『情熱がない』と言われたとき、なぜそんなことを言ったのか、考えたんだ。君はいつも偉そうなことを言うけど、実は誰にでも優しく接することを僕は知ってる。」
僕は彼女との想い出を辿りながら話を進める。
「一年前のクリスマスイブ、僕は叶わぬ彼女との約束を守り、海峡公園で待ち続けていた。そんな僕を君は迎えに来てくれた。星を見に来たなんて下手な嘘をついて。それ以来、いつも君と話すことが楽しくて、君をからかいながら話をすることが楽しみだったんだ。でも、あの日までそんな気持ちに気づかなかった。」
「それで、何がいいたいんだ?」
「君は、きっと僕の気持ちに気づいていたんだと思う。だから、あの日、君が僕に『情熱がない』と言ったのは、僕が君に対して持つ情熱に気づいて欲しい、もっと目を向けて欲しいということだったんだろう?」
レトロ通りにガス燈が灯り始める。それと同時に彼女の表情も明るくなったように見えた。
「そ、そうだ。お前の表情から、お前の好意には気がついてた。」
椿は顔を赤らめながら恥ずかしそうに話し始めた。
「そうなんだ。椿さんのことだから、もっと確信があると思ってた。」
僕は自分が愚かだと思った。彼女がそう思うのも当然だ。わざわざ偉そうな態度を取る女性と話すのは僕だけだったのだから。女性は表情を読み取るのが得意とされている。洞察力の優れた彼女なら、なおさらだろう。
「わたしも、お前と話すといつも胸が熱くなる。いつもこんな偉そうな私の話を聞いてくれるのは、お前だけだ。それなのに…。」
椿の表情が曇り始める。暮れゆく街並みに彼女が消えていくようだった。
「それなのに、お前に『情熱がない』などと、なんて酷い言葉を…。
私は…、私は人の感情も理解できない本当に最低な女なんだ!お前に好かれる価値なんてない。」
彼女は言葉とは裏腹に震えていた。まるで、自ら嫌われることで、弱い自分を守ろうとしているかのようだった。
椿は傷つくことを極端に怖がる性格をしている。常に偉そうな態度をとることで、自分自身と相手を守っていた。僕は彼女のそんな心情をいつも気にかけていた。
「そんなことないって。そのおかげで僕は自分の気持ちに気づいたんだから。」
「違う!私は、勝手にお前が私に好意があると思い込んで、プレッシャーをかけた。お前はそれに負けて、あんなことをただ言っただけだ。好意に気づいたなんて嘘だ。確信なんてなかったんだ。私はバカだ。いつもそうだ。素直になればよかったのに、自分を守るために偉そうにして。」
周囲は暗闇に包まれ、ガス燈の微かな光だけが頼りになっていた。
僕は、彼女は本当に馬鹿だと思った。どうして自分を守るために、自分を傷つける必要があるのか。僕の気持ちも分かってるくせに。このままだと、彼女は自分をもっと嫌いになってしまう。早く僕から告白しないと。彼女が彼女を嫌いになる前に。
「椿さん、僕は君のこと……。」
「だ、だめだ。最後は私が言う。素直になれない私なんてもう要らない!」
僕が言い始めた途端、彼女は声を震わせて話を始めた。
「私は、知ってる。私は、その辺の男には惹かれないんだ。お前には、私が本気で惚れるくらいの価値がある。でもな!私にはお前と付き合うだけの価値も資格もない。素直になれないせいでお前まで傷付けて。結局、私は可愛げなんてひとつもない。偉そうなだけの女なんだ!お前だって、こんな面倒くさいバカな女と付き合いたいと思わないだろ?!」
彼女が最後の言葉を言い放った瞬間、周囲に張り詰めていた緊張が一気に解け、沈黙が広がった。
「ん?」
僕は、彼女が何を言っているかわからなかった。ただ、彼女の素直になれない気持ちは理解できた。僕は少し笑いながら椿に話しかけた。
「つまり、一緒にいたいってこと??」
「ち、違う…。」
「でも、そんな言われ方されたら、『そんなことないよ』って返すしかないよ。情熱については言わされたかもしれないけど、一緒にいて楽しいという僕の気持ちは本物だよ?そう言ったでしょ?」
ガス燈が次々と灯り、少しずつ明るくなっていくのが見える。
「椿さん、こんな時、普通なら素直に付き合って欲しいとか、他に好きになってくれる人がいるかもしれないとか、そんなこと言うんだよ。」
「そ、そんなこと。」
はぁ、嫌われたくないから相手を褒めたり、振られたくないから質問風に告白したり、他の女に取られたくないから何も言わなかったり……、
素直になるといってどんだけ素直じゃないんだ。
「あぁ、もう!わかったよ。気持ちはよくわかった。付き合いますよ、椿さん!」
僕は笑いながら力強く言う。どうやら彼女は、本当は素直になれない自分自身を好きなのかもしれない。
「なっ!?私は真剣に悩んだんだぞ。こんなんだから『情熱がない』とか言われるんだ。バカ。」彼女はそう答えた。
「ごめんごめん。椿さんのそんな素直じゃないところが、本当に可愛いんだ。」
時計の鐘が鳴り響く。その音と共に、夜の街のイルミネーションが一斉に輝き始めた。椿は、まるで生まれて初めて誉められたかのような表情を浮かべ、その瞳を見開いていた。
「僕も知ってる。プライドがバカ高いところとか、そのくせ優しくて純粋なところとか。ずっと見てきたんだから。」
"ずっと見てきた"そう言いながら、僕は入部当初から彼女をずっと見守ってきたことに気づいた。本当の想いを隠し続けていたのは僕の方だった。そんな僕を理解し、待ち続けた彼女の本当の優しさに気づく。
「だから!僕は全部、全部受け入れますよ。そんな君のことが好きでたまらないんだから!」
僕が言い終わると、椿は恥ずかしそうに顔を伏せ僕の方をチラリと見た。木々の間に織りなすイルミネーションが彼女を幻想的に照らしていた。
しばらくの静寂の後、彼女は顔を伏せたまま僕に近寄った。
「椿さ…」
僕が話しかけようとすると、彼女は不意に抱きつき、悔しそうに僕にキスをした。桟橋から駅へと続くイルミネーションが彼女の涙を照らすのが見えた気がした。
頬色の情熱と青 縁高輝/chatGPT3.5&4 @mgurin26
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