毎日小説No.24 フォロモンパニック!

五月雨前線

1話完結


 モテたい。


 その欲求は最高潮に達していた。

 

 私の名前は蜜島智恵子みつしまちえこ。偏差値そこそこの私立大学に通っている大学2年生だ。


 顔はそこそこ、いや中の上くらい。そしてスタイルも中の上くらい。美人というほどではなかったが、自分はそれなりに可愛いJDであるという自負はあった。実際、小中高ではそれなりにモテていたし、「可愛いね」と言われたことも何度かある。その勢いで高身長優男イケメンを彼氏にして、バラ色のキャンパスライフを送る……予定だった。


 入学後、友達を増やして彼氏を作るべく複数のサークルに入ったが、雰囲気に馴染めず数ヶ月程で辞めてしまった。その後新しく始めたバイト先のイケメンに告白するも、敢えなく玉砕。同じ学科の優男に告って同じく玉砕、高校時代の友達に告ってまた玉砕……。さながら太平洋戦争末期の日本軍のように、私は玉砕を繰り返していたのである。


 何故私はモテないのか、冷静になって考えてみた。少なくとも顔は良いはずだ。顔は良いはずだ(2回目)! そしてスタイルも、まあ、それなりに良いはずだ。そうだと信じよう。


 では何がいけないのか? ファッションか? 肌のお手入れか? 髪型か? しかしどれもそれなりに力を入れている。ファッション好きの友達とよく遊びに行くが、服装や髪型のダサさを指摘されたことは一度もなかった。じゃあ一体何が問題なんだ……?


 悶々と悩みながら、彼氏彼女持ちの同級生をさりげなく観察してみたところ、私は一つの法則を発見した。


 モテる人は、皆なんか良い匂いをしている。


 灯台下暗し、とはまさにこのことである。当たり前のように思える法則を、私はすっかり見逃していたのだ。勿論香水をつけていなかったわけではないが、使用していたのはコンビニでも売っているような安い香水だった。


 改善の余地は香水にある! そう確信した私は奮発して数万円の香水を購入し、早速それを体に振りまいてみた。


 効果は抜群だった。大学の同級生、バイト先の同僚、そして家族。皆が良い反応を返してくれたのだ。よし、これならいける。そう確信した私は香水についての情報を片っ端から調べ、モテるための香水の使い方を研究していった。


 数万円の香水の容量が底を突いた頃、遂に私は最強の香水の情報を手に入れることが出来た。


 フェロモンで男の脳を直接刺激し、強制的に相手を好きにさせる最強の香水、『ウルトラースーパーマキシマムフェロモニウムハニーハントスメル』である。馬鹿みたいな名前だが、その効果は折り紙付きだ。南米の特殊なハチの巣から採取出来る希少なフェロモン、そして複数の化学物質を調合した結果、どんな男も強制的に落とす激ヤバ香水が誕生してしまったらしい。


 効果の高さやその希少性も相まって、その香水には一本100万円という馬鹿げた値段が付けられていた。しかし私はワンクリックで即座に購入した。モテるためならば、幾ら借金をしても構わない。私の思考は完全に麻痺し、モテたいという感情に脳が支配されていた。


 着払い(料金:3万円)で届いた激ヤバ香水の匂いを嗅いでみると、その濃厚さ、そして「ヤバい」としか表現出来ない匂いのエグさに私は悶絶した。これは強烈だ。男の脳を直接刺激する、という触れ込みもこれなら納得出来る。私は香水を浴びるように全身に振りかけ、意気揚々と大学へ登校した。


***

 速報です。


 今日の昼過ぎ、蜂岡はちおか大学蜜山キャンパスでオオスズメバチが大量発生し、生徒1人が死亡、75人が重軽傷を置いました。普段その地域には蜂が出現することは極めて稀であるため、何かしらの特異的な要因があると考えられています。


 そして、死亡した蜜島智恵子さんの全身はハチに覆われており、死体からは香水のような強烈な匂いが放たれていたとのことです。その匂いとハチの大量発生には何かしらの関連性があるとして、専門家による調査が進められています。


                             完


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