第38話 琴音視点

「このままだと間違いなく先輩は負ける」


 先輩と黒嶺はほぼ互角。いや若干黒嶺が押している。

 何か、手を打たなければ間違いなく、先輩は再び負けて死ぬだろう。

 だからといって私に何ができる? あの時、自分の身は自分で守ると言った。

 それでもこの戦いに介入したら確実に死。


「死ぬと分かっていてもいくしかない」

「どうして貴女がそこまでするの?」

「え? 貴女は一体誰?」


 私の前に肩まで伸びた栗色の髪と瞳の少女。多分私と同い年くらいの容姿。 一言表すならば可憐。


「ボクは彼の味方であり君の敵。君の返事次第では殺す」


 先輩や黒嶺と似た雰囲気、この人、普通の人間ではない。

 私の敵と言ってる時点で、どんな答えを出しても殺す気だろう。

 そんな簡単に勿論殺されたくはない、だけど、私が勝ち目があるかといえば、絶望的だ。


「先輩を助けたい。ただそれだけです」

「君はどっちを導く?」

「それってどういう事ですか?」

「世界を破滅に導く災厄の魔王。それとも世界を救う英雄」


 なんでこの人が私が夢で言われた事を知っているの? いやそれより、いきなりそんな事言われても分からない。


「答えられないか。彼はなんでこんな子を選んだのだろう? 期待外れにも程がある」

「何も知らない癖に期待するな」

「ッ!!」

「私は私だ。先輩がどの道に進もうが関係ない。私があの人を支える」

「それが君の答えね? だったらこれを持っていきな」


 栗色の髪の少女はある物を投げてきた。私はその投げられた物を見て、目を見開いた。

 そこに合ったのは黒と金で装飾された柄、そして背丈以上の太刀。

 まるで黒嶺が扱っている太刀と一緒。


「こ、これは?」

「彼専用の武器。聖女・ジャンヌ直々の品物さ」


 そう一言を残し、ジャンヌと名乗った少女は金色の粒子に変化し、消えていた。

 まるで光の女神を見ている気分だ。


「今はそんな事気にしている場合じゃない。少しでも速く先輩の下に行く」


 私はこの時、ジャンヌの言葉の心意を考えていなかった。ただ一言。言葉通りの人間。


「おいおいどうした?魔王様?」

「少しは黙ってろよ。クソ勇者が……」


 私がジャンヌさんと話している内に、先輩と黒嶺の戦いに差が出てきた。

 黒嶺は万全の状態、それに対し先輩は満身創痍。

 手当てをしたとはいえ、そんなすぐに回復する物ではない。黒嶺を除いて……。

 あれは私でも分かる、正真正銘の怪物。


「惨めだな魔王。本当に惨めで笑えてくるぞ」


 黒嶺は先輩を嘲笑っている。


「黙れといったろ。たかが才能に恵まれた勇者擬き」

「何だと!!」


 黒嶺が怒りを露わにし先輩に凄む。先輩は一切表情を変えていない。


「先輩。これを使って下さい!」

「あ? 琴音、貴様!! 一体どれだけそいつの味方をする気だ!!」


 黒嶺の強烈な殺意が私に飛んでくる。肌がピリつく。

 今すぐこの場から消えたいと思ってしまう程の強烈な殺意。けれど、私は先輩と共に歩みたい!!


「琴音、これは太刀か。それも……皮肉な物だな」

「何が言いたい?」

「こっちの話しだ。琴音サンキューな」


        ◇


 

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異世界帰還者〜異世界で手に入れたチート能力で現実世界に復讐する〜 黒詠詩音 @byakuya012

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