第37話 現代の勇者と現代の魔王

黒嶺はボロボロになった体を無理矢理にでも動かし、俺に連続の殴打を仕掛ける。

 俺は避ける事もなく、ただひたすらその場に立っていた。

 直後、先程の様に黒嶺に無数の斬撃が襲う。

 黒嶺から大量の血が流れ──もはや虫の息だ。

 やがて黒嶺は倒れると同時に、俺達の戦いを見物していた物達は、急に声を出し始める。

 それは黒嶺に対しての声援。

 まるで悪役と対峙して、負けそうになっているヒーローを鼓舞する様だ。

 その声援に応える様に黒嶺は、致死量の血を流しながら立ち上がる。

 それと同時に雄叫びを上げる。

 これじゃあ完全にこいつはヒーローだ。

 直後、黒嶺の体に光が集中し、やがて消えると。

 あの時同様に黒衣の姿に変貌し、傷は完治していた。

 でもあの時の様にオーラも光の輪もない。

 まだ黒嶺は本気を出していないだろう。

 だったら奴が本気を出す前に倒す! 俺は地面を最速の速さで踏み込み、刃物を素早く刺突する。

 黒嶺は体を翻したり、スライドステップやバックステップして躱すが、全部は躱しきれず二、三回は刺さった。

 黒嶺は反撃しようと前に出る瞬間、俺は前蹴りを繰り出す。


「めざとい小細工だな!!」

「バーカ、派手な物が戦闘じゃねぇんだよ!」

 蹴った足を地面に着地させると同時に、後ろ回し蹴りを叩き込む。

 見事に黒嶺の顔面に命中する、一歩引き下がっていく。


「お前がいう小細工はまだまだたくさん残っている。怖気付かずに来いよ」


 俺が言い放つと見物している奴から、ヤジが飛んでくる。

 黒嶺の救護に入ろうって根端だろうな、まぁそのくらいで揺らぐ程、良心は持ち合わせてない。

 とはいえ、黒嶺の戦闘のセンスは本物、それにあれの仕組みを理解された時点で、これ以上の勝機はない。

 頼むからまだ動いてくれよ俺の体!


「だったら真正面から叩き潰す」

「勇者らしく正義心が高い言葉だな」


 真正面から来るのは結構助かる。小細工はただのハッタリに過ぎない。

 俺と黒嶺は戦闘スタイルは似ている。だから小細工の対処も、小細工の技術もあまりない。

 それにしても見事、勇者と魔王で対立した。

 立ち位置的には俺は魔王で彼奴は勇者、この立ち位置に関しては大いに助かる。

 だが、彼奴は自分が守るべきの人々を犠牲にするタイプ。


「勇者様、そんな魔王倒してしまえ!!」

「そうだ、そうだ」


 そのまま黒嶺を御立ててくれ、少しでもいいから単直な動きに誘導する。

 外野の言葉は気にならないが、無闇に攻撃されて、騒がれて動き周れると非常に面倒くさい。

 さぁて少し踏み込んでみるか。刃物を握り締め、距離を詰める。

 黒嶺は即座に反応し、太刀を振り下ろし、すぐさまに横薙ぎを払ってきた。軽く飛躍し躱す。


「一体どんな反射速度しているんだよ」

「お前こそ今の普通躱すか?」

「こちとらお前より修羅場潜ってるからな!」


 直感で攻撃を躱したまではいい、問題は攻撃の方だ。

 刃物での斬撃、刺突、いや蹴りを入れるか、今の反射神経ならば、どれも簡単に躱されそうだ。

 だったらフェイント混じりの攻撃しかない。

 斬撃に刺突を繰り出す、黒嶺の太刀が両方防ぐ。

 右足に重心を乗せ、蹴りを入れる。

 次の刹那、まるで攻撃パターンを読んでた、かのようにガードをしている。


「チッ! 流石に読まれているか」

「俺も戦闘者なんでね! このくらい読めるさ」


 このまま蹴りを止めれずガードしてある腕に、叩き込む。

 とでも思っているんだろ? 嘲笑物さ、まだ俺の蹴りは死んでない。

 蹴りの軌道を変え、ガードをしてない、ガラ空きの腹部を蹴り抜く!


 「なっ!!」

「何が読めるだよ、喰らって悶絶しているじゃねぇか。そのくらいで戦闘者名乗っているんじゃねぇよ」


 俺の蹴りは見事に黒嶺の腹部を蹴り抜いた。

 顔を歪ませ、片膝を無様に付いてる。

 黒嶺に啖呵を切ったのはいいが、無理矢理に蹴りの軌道をズラした。そのせいでさっきから骨が軋む。

 まぁその分、大きく黒嶺にダメージを与えれた。


「立てよ。いい加減。いつまでその演技をしている?」

「バレているか。だっったらそのままくたばってくれ」


 黒嶺は立ち上がると同時に拳が下から来る。

 刃物を持ってない反対の手で、拳を受け止める。


「流石だな魔王よ。でも、もう体が限界だろう?」

「…………」


 やはりこいつは俺の体のダメージを見抜いてる。


「このまま長けば負けるか」

「その通りさ!」


 黒嶺の太刀が一振り、コートが少し切れる。

 咄嗟に黒嶺の手を離してなかったら、右半身を持っていかれた。

 やっぱりっていうべきか、一々、一回の一撃が強い。

 一振りだけで軽々しく地面を一刀されている。

 魔力を消し去るこの刃物でも、黒嶺の太刀は全て受けきれない。

 いやまず受け切る前提が違った……、そうだ、いつの間にか俺は固く考え……!?


「油断しているね! そのまま簡単にくたばってくれよ!」


 凄まじい手刀が飛んでくる、速く、人間の急所を狙った合意的な一撃。


「簡単に避けてくれるね? そろそろ当たってくれないと自信なくすな」

「どの口が抜かしているんだ?」


 声音、声色は少し自信なさげ、しかし、それが全て嘘と分かるくらいの強い眼差し。

 自分の障害になる物を全部喰らってでも強くなろうとしている、向上心が高い。

 向上心が高いのはいい事だ。だが、今回の場合は非常にそれが厄介だ。

 黒嶺はただでさえ、まだ奥の手を残している。俺と違い多少の傷で済んでいる。

 それでも俺との戦いを経験し、更に強くなろうとしている。

 俺の全てを喰らい尽くして正真正銘の化け物になりかかってる。

 本当勇者らしく、そして非常に危険で恐怖すら覚える。

 戦いの中で成長している。まるで俺の上位互換だ。


「……だとしてもお前をぶっ殺す」


          ◇

 



 

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