第7話 ひとまずの終幕

 端的に告げると、二人は対照的な反応を見せた。

 アクトレイナはニコニコしたままで、たぶん理解してない。

 けどガーベラは違った。


「天空城って、あれ宙に浮いてるというか……」

「空飛んどる。知ってる」

「ギルドで取り扱い疑問ミッションになってたよ?」

「ええやん別に。競合相手蹴飛ばす必要ないし」

「いや、物理的に届かないじゃない。どうするつもり? 場所だって浮いてるから特定……」


 困惑するガーベラにリッキーが鋭く告げた。


「ガーベラ、聞き耳立ててる奴おるか」

「……いない。店員さんもいないし、魔法も道具も仕込まれてない」

「さよか。しゃないな、合格や」


 リッキーは憮然と言い放ち、ガーベラはやはり困惑している。


「方法があるの? 飛んでるお城だよ?」

「せやな。高度もかなりのもんや」

「どれぐらい?」


 口を挟むと、


「大体……カケル、お前身長いくつや」

「百六十五ぐらい。こないだ測った」

「ほうか。ほなまあ大体俺らの間尺と変わらんな。目方も似たようなもんか。体重いくつや」

「五十五ぐらい」

「鶏級ぐらいやな。まあええわ、身軽でええよ」


 鶏……確かボクシングのバンタム級ぐらいだと思うけど、そういう意味だっけ?

 頭を捻る僕にお構いなく、


「出来る出来へん言うてる内は三流や。ソロキャンパー舐めんな。やる言うたらやる」


 リッキーは言い切った。僕の事情に触れず、強い決意を促すように。けど城の高さを訊いたんだ。その点確かめると、


「せやな、大体九千以上。一万以上飛んどる」


 それエベレストより高いんじゃ……。


「たまに低空飛行して稜線削ったりしとる。景色変えやがってくそ城如きが、山崩れに雪崩にと迷惑しとる。成敗や、正義と思え。ソロキャンパーに正義もくそもないけどな」


 そういう事情もあったのか。

 全然知らなくて、初めてイメージ出来た。


「お城が結構広いのは知ってる。けどお宝あるかな?」

「それは正直どうでもええ」


 ガーベラの疑義をリッキーは一蹴した。そして続ける。


「天空城攻略したらまず実績が出来る。実は本番はそこからや、どう扱うか話し合いになる。そもそもあれ誰のもんや。所有者おんのか」

「ああ……」


 ガーベラは感嘆し、僕も理解した。占有して権利を主張するつもりなのか。凄い、六年生の僕にそんな行動力はない。やるんだけど。

 ガーベラは深く頷き、アクトレイナはデザートに夢中だ。全員分食べるつもりだな。僕の分はもう跡形もない。


「カケル、金も時間も身の危険も懸けられるか」

「やるしかない。でも手持ちはたぶんスマホぐらいしか価値ないよ」

「けったいなあれか。あれは安売りでけへん」

「タブレットは?」

「おい、デカイ方売るんか」

「通信出来ないから。どっちかでいいよ」

「あっかいそんなもん。金はなんとかなる。覚悟の話や」


 だったら問題ない。

 ーーなぜなら、大森林からの帰路で彼の実力を目の当たりにしている。初めて魔獣を見たけど、リッキーは片手で飼い慣らし、残る片手で「晩飯や」と仕留めていた。猪っぽいあれは食べて、熊っぽい奴は「また今度な」と逃がした。

 そして僕は遠距離攻撃担当。獲物は銃とボウガン。魔法弾と矢を放つ、既に実践ずみだ。自信はないけどやるしかない。


 天空城に至った人類はいない。

 功績は永遠に語り継がれる。

 ガーベラは小さな体を武者震いさせ言う。


「私の体術、解禁する時が来たわ」


 リッキーは言う。


「あれ邪魔やから前からしばくつもりやった。もう的にかけたぞ」


 アクトレイナは遠くを見ていた。


「お空と話し合わないと」


 だから僕もなんか言わないと。


「なんでこうなったの? でもそんなことはいい、天空城を攻略する! それが僕の異世界冒険!」


 四人の決意が天空城に届くと信じ。

 天空城を目指して、僕らの冒険が始まる。


 ーーふっと、夕暮れ時の教室が浮かんだ。


「愛を知る縄張りで、邪な下法は許さん」と男の声。

「邪魔しないで! 幽霊のくせに!」と女の子の声。

 全くなんのことか分からない。

 愛、邪。それと異世界になんの繋がりが。


「カケル、バッテリー問題解決すんぞ」


 そう、僕にはそっちのが大切だ。

 新しい友人と仲間、そして冒険が待っているんだから。

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天空城を目指して 文字塚 @mojizuka

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