第6話 二人の女の子

 翌日正午頃、リッキーがホームとしているウォーターグルーヴの酒場兼大衆食堂に、四つの顔が居並んでいた。

 一つは言うまでもなく僕で、もう一人は当然リッキー。問題は残る二人である。


「美味しいですね、このタコをオイル煮したもの」


 と、僕の真向かいでイカのオイル煮を食しているのが、アクトレイナという女性だ。

 リッキー曰くヒーラー、いわゆる回復魔法が使える女の子だそうだ。年はリッキーと同じで、僕より二つ上になる。クリーム色の法衣をまとい確かに神官に見える。本人は祈り手と言っていた。

 明るくにこやかな表情、長く艶やかな髪、整った顔立ちは華と言った感だ。背丈は僕より低いけれどとてもすらりとし、女性女性している。まとう空気はほんわかほのぼの。ニコニコとタコとイカを間違えている。僕がこっちのタコとイカを知らないだけと祈りたい。


 隣のリッキーの真向かいにいるのはガーベラという女性。というか完全に女の子で、幼く見えるが僕と同い年らしい。

 なんと彼女は武道家、拳闘士のような存在らしく、彼女を見るなり周囲から人がいなくなった。

 大衆食堂の奥の隅、僕らはポツンと取り残されたかのようだ。


 確かに同い年とは思えない同級生はいる。これが来年中学生かと思うと、それ自体魔法かトリックのようではあるが、人の容姿をとやかくは言えない。そもそも幼い顔立ち、背が低いとか率直な感想を述べた時、果たして僕は無事でいられるのだろうか。

 忖度というか配慮しないと、どこに地雷が埋まっているか分からない。


 彼女はボタンシャツに薄手の長袖アウターを羽織り、膝丈のキュロットパンツを履いているが、所々破けている。本来なら全体的に明るい色なんだろうが、使い倒して褪せました、と衣服が主張している。

 だったら始めから機能性重視、という選択肢はなかったのだろうか。

 髪だけは運動部の女子みたいに短めなのに。

 ちなみにだがアクトレイナもガーベラも、日本人と言われたら納得する外見だ。違うと言われたらそうですか、と返す程度の違いしかない。

 この街は多様な人種が揃っている。


 食事中、些かリッキーとガーベラは口論したが、決定的対立には至らなかった。僕がいてアクトレイナもいる。何より天空城を目指す、その為にアクトレイナに来てもらったんだから。

 そのアクトレイナが口元をテーブルフキンで拭いてから、口を開いた。


「リッキーが言うなら行くよ」

「ホンマか。そら助かる」

「うん。どこだかよく分からないけど、頑張ろうね」

「せやな。どこかぐらいは把握してくれ」

「うん」


 穏やかなやり取りだが、大森林からの帰路においてリッキーはこう言っていた。


「天空城目指すんやったら一人ヒーラーが必要や。俺は一応治療出来るけど、回復魔法は道具頼り。拝み屋で一人使えそうな奴おるんやが、苦手やから避けたい。までもあいつしかおらんと思う。性格に難ありやけど」


 それが今、目の前にいるアクトレイナだ。


「色々目のやり場に困るから、カケルも気をつけろ」


 とも言っていた。法衣姿では分からない何かがある。そんな彼女と目が合い、にこりと笑顔が向けられた。ぎこちない笑顔で返す。

 とりあえずいい人じゃないか。目のやり場に困るなら、見なければいい。……可能だろうか。何事も試して分かるというものだ。今は問題ない。

 問題はガーベラだった。

 リッキーは三人で、と言っていたのになぜか彼女はここにいる。どうもリッキーにこだわりがあるらしい。

 そのガーベラが口を開いた。


「どこに行くの?」

「お前は関係ない。殴り屋はバーのセキュリティでもしとれ」

「なんでそんな冷たいのよ! 私をハブるとか、後で後悔するかんね。リッキー、あんたその時涙流すわ。身の程思い知りなさい」


 小学四年生ぐらいにしか見えないのに、なんて下からな上から目線。同い年とは思えない自信家だ。

 リッキーが応じる。


「子連れで行くとこちゃう」

「カケルだって同い年じゃん」

「カケルは見た目しっかりしとる。頭もよう回る。着てるもんも上等や」

「服装関係ない! 頭だって私負けない、たぶん」


 語尾が弱いな。頭は勝てるかもしれない。よく分からないけれど。


「まあええわ。目的地は天空城。目標は攻略し尽くす。陥落させたら、はい終了」

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