9 妹という女

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 シャワーからお湯が出始めるまで、私は向き合う彼女の身体を見下ろす。妹の身体は美しい流線を描いていて、ほっそりとした腕やくびれとは対称に、胸や腰は象徴的な膨らみをもっていた。すっかり成熟した女の身体だった。色白くつややかな肌と、赤みを帯びてツンとした乳首が、彼女の若さを強調していた。そこにお湯をかけるとますます色気が立ち込め、いとも簡単に劣情が掻き立てられてしまう。

 私が頭からシャワーを浴びせると、彼女は「わー」と目をつむり、私の胸に手をついた。初めて彼女に触れられた気がしたが、状況が状況である以上、のボディタッチには到底感じられなかった。

「さき頭洗って」

私は彼女を鏡の前に移動させ、椅子に座らせた。

 彼女が髪を洗う間、私はその長い髪が揉まれるのをじっと観察する。こういう風に洗うのかと思いながら、線の細い背中を眺めていたが、この間に自分も洗ってしまおうと、私も頭にシャンプーを付けた。自分の頭を洗う間も、彼女の女の姿が瞼の裏に映って、気がつくと何度も同じところを洗っている始末だった。私が髪を流す頃には、彼女は既に洗い終えて髪をくるくるとまとめている最中だった。

「背中、流すよ」

彼女のその言葉に、次は私が鏡の前に座る。彼女はボディーソープを手に取ると、そのまま素手で私の背中を洗い始めた。

 温かい手のひらをぴったりとくっつけ、ゆっくり、丁寧に、肩口から腰の方まで滑らせる。背中が終わると今度は腕に手を這わせていく。腕を何度か往復させると、私の手をとった。まるで咥えるかのように、私の指をきゅっと優しく握り、ゆっくりと扱き始めた。

 彼女の柔らかい指が、私の指を隅々まで舐め取るようで、私は全身を強張らせる。彼女は指をしごき終えると、私の手を甲の側から握った。指の間に指を入れ、何度かにぎにぎして、すると今度は手のひらをぴったりと合わせて、手を握ってきた。誘いのままに何となく握り返してやると、彼女は「えへへ」と照れ笑いしながら握る手を離した。

 彼女は、まるで私の身体の形や感触を確かめているようだった。私という存在を知り尽くしたいようだった。同じ両親から生まれた兄妹である以上、少なからず心にもからだにも通ずるものはある。しかし、私たちの決定的な違いは、紛れもなく性なのだ。作りの違う身体は、たくさん見て、たくさん触れるより他に知る手段はない。そう考えると、今日の彼女の振る舞いの不自然さが腑に落ちたような気がした。私の胸の内で、彼女への愛おしさが、風船のように大きく膨らんでいく。

 彼女は後ろから手を回して、私の胸や腹をペタペタと触る。ぴったりと密着して、彼女の肉が押し付けられる。彼女が動く度に、柔らかい胸が私を刺激してきて、その感触の中に小さなしこりを感じると、私は情欲を昂らせ身震いする。

 いよいよ彼女の手が下腹まで到達すると、しかし私の期待は外され、下腹を通過して太ももを撫でる。全体を、円を描くように擦る手は、次第に太ももの内側を執拗にこするようになり、私はあえてやっているなと気づきながら、やれともやめろとも言うことができなかった。

彼女の手に、石鹸はもうほとんど残っていない。私は、彼女の快い手つきに、何度も股間を反応させる。今か今かと焦らされるのも、却って私の肉欲を煽る。

 ついに彼女は、私のいきり勃つをそっと握った。そして、指を洗った時のように、優しく、ゆっくりと扱き始めた。

今にも果ててしまいそうな快感に、私の意識は白い靄がかかって、下腹に力がこもる。そうやって力がこもると彼女は手を離し、力が抜かれてから、また洗い始めるのだ。

 彼女の手のなかに、私の精のすべてを出してしまいたい気持ちが先走って、彼女の手をぬめらせる。彼女はそれを嬉しがるように、もっと身体を押し付け、彼女の湿った吐息が私の耳をくすぐる。

 私が限界に近づくと、彼女はそれを察知したように、パッと手を離してしまった。

「おしまい」

密着させていた身体を離し、私にお湯を浴びせかける。身体についていた泡が流され、私は得も言われぬ脱力感に襲われた。

 上がった息が整うよりさきに、私はむくりと身体を起こす。これで終わりではないからだ。私たちは示し合わせたように、今度は花乃が椅子に座り、私が後ろに回る。私が花乃の身体を洗う番だった。

 私はボディーソープを手にとって、彼女の背中に触れる。見た目の華奢な身体は、思っていた以上に筋肉がついていて、継続的に運動をしているだろうことはすぐにわかった。道理であんなに動けるわけだと一人で納得しながら、彼女の腕をも洗っていく。

「手、大きくてごつごつしてる」

彼女がそんなことをつぶやく。

「痛い?」

「ううん、なんか、すごくえっちな気分になってくる……。初めてなのに」

「え?彼氏とは?」

「……いたことないよ」

脳天に雷が落ちたような衝撃が走った。私は手が止まった。彼女は処女だった。

 私は花乃が処女ではないと、当然のように考えていた。これだけ女らしい女であればなおさらそう思うのが自然だろう。しかし、そうではなかった。今私が触れている身体は、まだ男を知らない身体なのだ。今私と触れ合っている心は、男と交わるのを知らない女の穢れなき心なのだ。

 これまでどの男にも身体を許していない女が、自分には許している、委ねているのだ。おとことしてこの上ない喜びに、私はかつてないほどの緊張と興奮を覚えた。しかし身体をくれている目の前の女は、他でもない、血の繋がった妹だった。

 私は理性と欲望の狭間に揺られる。正気に戻るべきだと分かっていながら正気に戻ることができず、かと言って、たがを完全に外すこともできなかった。私は花乃の身体に後ろから抱きしめて、一瞬だけ彼女の首元に顔をうずめた。お湯だけでは流せない汗の匂いと、気が狂ってしまいそうなほどの女の匂い。

 私は手に石鹸をつけ、彼女の腹を上下にゆっくりと撫でる。彼女の耳は真っ赤で、それでも抵抗しない。抵抗しないのを見て、私は片方の手で腹をさすったまま、もう片方の手で彼女のよく膨らんだ胸を、寄せたり持ち上げたりしながら洗う。乳首には触れずその周りを指先でなぞっても特に反応を見せなかったが、ツンと硬く勃ったのを指に挟んで軽く転がしてやると、胸を突き出すように背をそらし、脇をしめて私の腕を強く挟んだ。

 これだけで、彼女の息は上がりはじめていた。私はさらに彼女の呼吸を乱すべく、腹をさすっていた手を太ももにすべらせる。彼女にやられたように、内側に手を這わせ、鼠径部の方までなぞってやると、快楽の籠った息や嬌声を漏らし始めた。

 私は彼女の下腹を撫で、そのままゆっくり、秘部へと手を撫で下ろす。そこは石鹸や水とは別に湿っていて、ぬるぬるした感覚が指に広がる。何度も手を腹の方に擦り上げると、

「あぁっ……」

一際大きな甘い声を出し、身体をよじる。私は手を擦り上げた中に、小さな一つの突起らしきものを見つけ、それをまた擦り上げると、彼女はたちまち色っぽい声を上げる。その声が私の脳の奥底に響いて、手を動かすのをやめさせない。

 その快感の一点を、指で挟んだり、優しくひっかいたり、押しつぶしたり、こすったりして執拗にう。彼女は私にもたれ、脚をゆるく開いている。私の腕を掴む手に力はなく、時折甘く握られるだけだった。

 嬌声を抑えることすらやめ、すっかり蕩けきっている彼女に、私は悦びを隠しきれなかった。どこからともなく嗜虐心が顔を出し、彼女が私にしたようにあえて手を離して焦らしたり、指先に糸を引く自身の愛液を見せつけたりして、彼女とともに興奮を臨界点へと高めていく。

「お兄、ちゃんっ……」

 突如、彼女が身体を激しくくねらせた。私の腕を強く掴み、表情をきつく歪ませる。半開きだった脚がきゅっと締められ、指先の熱と水気がましてきた。いよいよだと予感した私は、そこでのをやめた。

 肩で呼吸をする彼女は、ぐったりと私にもたれかかり、何度も身体を小さく跳ねさせる。頂点には達していないものの、そこに至ろうとする快感の勢いが、今なお波打っているようだった。私の鼓動も気がつけば破裂しそうなほどになっていた。本当に二人でしてしまったかのような感覚だった。

 彼女は私の肩に頭を乗せていて、お互いの顔が今までになく近い。私が彼女に唇を向けると、彼女も半ば無意識に、頭をこちらに傾け、私に唇を向けた。彼女の湿った紅い唇に、自分の唇を近づける。もし彼女とキスをしたら、きっと後戻りはできない。彼女も私も、キスに留めることができなくなる――。

 私が顔を離すと、彼女もまた、顔を背けた。

 ようやく彼女が身体を起こし、私はシャワーをとって彼女の身体を流す。白い泡が名残惜しく流れていく。

「先に上がっていいよ」

そう彼女に促されるまま、私は浴室を出た。扉を閉める時、彼女の方を見ると、何かを考えているのか、考えていないのか、シャワーを頭から浴びながら自らの肩を抱いて、ただじっと椅子に座っていた。


 今もなお熱され続けるこの情欲は、もう自分自身で簡単に済ませられるものでなかった。これをどうにかできるのは彼女以外にいないのだと思い、しかし彼女が私をどうにかする時は、永遠に来ないのだとわかっていた。

 あのまま、彼女の女という女を私で染めてしまいたかった。彼女が唯一知る男になりたかった。そう思いながら、ギリギリまで自分の理性を触発させようとし、そしてついにできなかった。目の前にあるえつが、傷にしかならないとわかっていたから。

 彼女は私を拒まなかった。いや、むしろ彼女の方から、私を狂わせたい気さえ感じた。しかし、それでも私を破壊しきらなかったのは、私と同じように、兄妹きょうだいという意識が私たちの根底に覆し難く横たわっていたからではないだろうか。そう、兄妹で身体を洗うだけなのだから、もとより私たちに男女が起こり得るはずもなかったのだ。

 もしかしたら、お互いが思春期の時にほとんど関わらなかったのは、この裏返しだったのかもしれない。あのときに妹と親しくなっていたら、きっと簡単にはあがなえないような大きな罪を犯していたかもしれない。こんなことをしていては、間違いなく私にそのはあるのだと、自覚せざるを得なかった。

 私は濡れた体もろくに拭かず、半透明の扉にシルエットの歪んだ彼女を振り返った。彼女の背中はぴくりとも動かず、いつ、どんなふうに動き出すのだろうと目を留める。ようやく動いたと思うと、その身体は小さく震えていた。

 私は手に持っていたバスタオルをどこかへと投げやった。濡れた身体が冷えていくのも忘れ、半透明なプラスチックの向こうにいる彼女を食い入るように見る。彼女は今、私に細かに震えている姿を見せつけ、私になまめかしい声を聞かせている。私の姿は、同じように歪んで鏡に映っているはずだった。

 まだ熱は治まらない。彼女は罪な妹だった。そして私は、馬鹿な兄だった。本当に。

 本当に、馬鹿な兄だ……。

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馬鹿な兄と罪な妹 @hihihi012345

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