第28話 解放

 これからのことをイキシーに話す。


「4の世界、あの砂漠は危険だ」


 原作でも語られていた事なんだけど、シリーズの世界は実は独立したひとつのステージじゃない。

 海の向こう側にはバカでかい壁があるんだけど、それを乗り越えれば他の世界に行けるって伝わってる。


 もっとも、その壁を乗り越えたって奴はいないけど。


 だから半分伝承みたいなものなんだけど。

 そういう設定があるからこそ4の砂漠は危険なのだ。


 4世界のモンスターは無尽蔵に増え続ける。

 そして、その増え続けたモンスターたちがいずれはその壁を乗り越えたり壊したりして他の世界に流れ出すのではないか、それが原作で示唆された可能性。


 その運命を回避するためにイキシーはひとりで砂漠の亡霊になることを選んだ。


 すると、どうなったか。

 イキシーはシリーズで唯一救われない主人公となってしまった。


 他の主人公たちは世界を救い英雄と呼ばれたりして幸せになったのに、イキシーだけはそんな見ず知らずの誰かの生活を守る光の奴隷となってしまう。


「私があの砂漠を出てきてしまったからか」


 そうやって言ってくるイキシーの頭に手を置いて続ける。


「なに、イキシーのせいじゃないよ」


 そう言って俺は穴を作り出した。4の世界へと続く穴を。


 ちなみに別にイキシーを救いたいとかって気持ちが無いわけじゃないけどさ。


 メインの目的は違う。


 今の俺は強い。

 【フェイトブレイク】を持ってて【神速】を覚えて【アースフレア】も使える。

 だから、これらの技を使ってゲーム内でできなかったことをしようと思う。


 ゲーマーとしてやり残しがある事はあまり気持ちのいい事じゃない。


「ちなみにどうするつもりなんだ?」


 そう聞いてくるイキシーに答えた。


「コアを破壊する。神速をコア間の移動に一度だけ使う。着いてこれる?」

「一度だけなら、なんとか」

「よし」


 確認をとって俺はあの砂漠へ続く穴を作り出して、入っていった。


 ドサッ。

 空中に開いた穴から砂漠に落ちて、スマホを取り出す。


 検証の結果いろいろなことが分かった。

 まず、ゲーム世界でも条件次第でスマホは回線を拾ってくれる、ということ。


 その条件が俺の近くに穴を開けておく、ことだ。今は頭の上に開けている。

 そこから地球の電波が流れてきているようだ。


 アンテナは1本か2本程度しか立たないからすごいギリギリ繋がってる感じなんだろうけど。


 その状態でヨーチューブにアクセスして生放送の準備をする。


【4世界をフェイトブレイクで蹂躙する】


 タイトルを設定して最初で最後の予定にしてる生放送を始めた。


 別の端末でコメントを見る度に自分の生配信にアクセス。


 今までの動画が好評なようで、念のため用意しておいた。


 すると直ぐにコメントが更新された。


"謎の技術さんチーっす"

"これ、ホンモノじゃねぇの?"

"なわけないだろ。謎技術で頑張ってんだよ!"

"謎技術公開してほすぃー"


 そうやってコメントが更新され始めた時


「ギャァァアァァァァァアア!!!!!」


 後ろから砂の中から飛び出してきたデスワームが襲ってきた。


「フェイトブレイク!」


 斬撃を飛ばして倒す。


「な……一発?」


 イキシーが驚いていた。

 これが初代仕様のフェイトブレイクだからね。


 どんなモンスターも消し去ることのできる力を秘めてる。


 だからお仕置をくらったんだけど、俺だけは他のシリーズ世界でも使える。


"フェイトブレイクつえええーーーー!!!"

"初代仕様ならイキシーより強いだろうしなぁ"

"魔王すらワンパンの伝説武器だからなぁ初代のフェイトブレイクはwww"

"ほんと分かってるわこの投稿者。4のデスワームもワンパンで力の差を見せてイクゥ!"


 そんなコメントを見てから。、


 俺は目を戻す。


 ノースコア。


 最北に位置する場所、海の真ん中にそれは置かれてる。


 真っ黒な巨大な鉱石。


 それがコアと呼ばれるもの。

 そこからどんどんモンスターが溢れてくる。


 一匹、二匹、三匹、止まらない。


 そうやって登場してくるモンスターをイキシーはひとりで倒してた。


 俺はイキシーの顔を見て聞く。


「君のやり残しをここで精算しよう」


 俺はそう言ってコアに右手のヒラを向けた。


 そうして、呟く。

 あの魔法の名を。


「アースフレア」


 ゴォォォォォォォォォオォォォォ!!!!!!


 一瞬にして真っ黒なコアを赤い炎が包み込んで燃やしていく。


 その炎からはモンスターも逃げられない。

 俺の炎は全てを飲み込んでいく。


"アースフレア?!"

"2だけの限定技じゃなかったっけ?!"

"2だけだな。4には絶対無い"

"てかそもそも、4ってほとんど魔法がなかったよな?"

"そうだね。4は魔力が貴重でほぼ剣と弓で戦ってたから、アースフレアなんて大魔法そもそも使えない"

"タイトル【2のアースフレアで無双します】に変えとけwww"

"アースフレアあればなぁwww"


 俺はイキシーに目を向ける。


「これが……アースフレア……」


 そう呟いたイキシーに声をかける。


「次はサウスコアだ」


 原作で語られたことだ。


 この世界のモンスターを根絶やしにする方法、それは北にあるノースコア、それから南にあるサウスコアを一定時間以内に両方破壊することだと。


【神速】


 俺は北側から南側へと走り抜けた。


 南側でもまた同じく海の真ん中にコアが浮かんでいるのが見える。


"今の神速?!"

"1で強すぎてその後リストラされた技じゃんwww"

"やばwwwこれヤバすぎwww"

"4世界知ってる奴だと鳥肌止まらんなこれwww今この投稿者がやってるのって4世界の設定をひっくり返そうとしてるようなもんだからなwww"

"イキシーを唯一救う方法が、無理ゲー確定のモンスター根絶やしだもんなぁwwwそれをやろうとしてんの鳥肌やばいわ"

"でも作りもんなんだよね……"

"それを言うなwww"

"謎技術さんの謎技術が今日も光ってるから臨場感はやばいwww"


 コメントを見てから俺は視線を戻して海の中にあるコアに目をやった。


 それを


【アースフレア】


 北側と同じように魔法を使って焼き尽くす。


 周りのモンスター共々。


 海の先から雄叫びが、断末魔が聞こえてくる。


 これが、大魔法アースフレアの力。


"しゅーりょーwww"

"オリ主さんやべぇwww"

"これがオリ主かwww"

"めちゃくちゃすぎる"

"4信者「4は実質魔法がないようなもんだぞ硬派だ!」オリ主「おん?大魔法アースフレア」4信者「( ゚д゚)」"


 イキシーを見て報告する。


「コアの破壊は終わった。これで君は自由だよ」


 コアの破壊が終わればこれ以上モンスターは発生してこない。

 つまりイキシーがこれ以上ここで亡霊になる必要は無い。


 と、そのとき。


 俺の前に光の柱が立ち上がる。


(なんだこれ?上か?)


 上を見てみると。

 天からアイテムが降りてきた


 ゆっくりと降りてきたアイテムを取ってみると


【???の残したローブ】


 というアイテムだった。

 なんだこれ?わかんないけど。


 イキシーを見てみると呟いてた。


「私がどれだけがんばってもできなかったことをこんなに簡単に成し遂げてしまうなんて」


 そう言って俺を見てきて。


 タッ。


「え、え?!」


 イキシーは俺の首に手を回して抱きついてきた。


 思わずスマホを見た。


"オリ主さんやべぇっすわwww"

"これは投稿者の願望だわ"

"コスプレイヤーにここまで頼んだんやろなぁ。どんだけかかったんやろな"

"え?Modじゃないんか?これ"

"Modにしてはリアル過ぎん?コスプレやろこれ"

"どっちにしろ。これはやばいよな。亡霊ブチ切れ案件ですわ"

"亡霊共ざまぁwwwイキシーが手垢まみれになるとこ見とけやwww"

"オリ主さんガチナイスだよなぁ、そう思うとwww"

"普段暴れ回っとる亡霊共が今頃画面の向こう側でキレ散らかしてると思うと笑える"

"スマホ投げてるだろこんなんwww"

"今日の亡霊さんたちのオカズは寝取られイキシーで決まりだね!^^"


 そんなコメント欄を見て思った。


(とりあえず配信をやめよう)


 胸ポケットに入れてたスマホの配信を止めた。

 元々これだけの配信にするつもりだったし。


 俺はその後イキシーを落ち着かせてから日本に帰るのだった。

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俺だけ7つのゲームの世界に入れて、ゲーム専用のスキルも魔法も装備も手に入れ放題。え?地球のモンスターって弱くないですか?片手間に始めた不定期の動画投稿も即バズりました。 にこん @nicon

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