最終話 100円ショップのアイテム無双

 僕は魔王城の玉座から顔を出した。


「おお! 魔王様が帰られたぞ!」

「魔王様だ!」

「魔王様ーー!!」

「戻って来られたのですねぇーー! うぉおお!!」


 みんな号泣だった。


「あはは……。そんな泣かないでよ」


 よし、作戦会議をしよう。


「ミラーン。これ使えないかな?」


「はて? スライムの死骸ですか?」


 ふふふ。


「これは室内の湿気取り用ジェルさ」


「ジェル……で、ございますか?」


 水を含んでゼリー状になるんだ。


「このジェルに水を含ませたらさ。千切って投げつけることができるんだ」


 実演して見せよう。

 まずは水を染み込ませる。

 ドロドロになったジェルを手で掬って、


「投げる!」


ベチャ! 


 と、壁にへばりつく。

 城内は大歓声に包まれた。


「す、すごいです!!」

「これなら水魔法を使わなくても水攻撃ができるぞ」

「流石は魔王様だ!」

「ふおおお!! なんという奇天烈なアイテムぅ!!」


 ミラーンは両肩を上げた。


「これなら砂人傀儡サンドマンを撃退することができます!」


 じゃあ、あとは量産だよね。

 1個は110円だけどさ。どれくらい買わないといけないんだろう?


「これ……。大量に必要だよね?」


「そうですね。サンドマンは1万体はいるでしょうから」


 い、1万!?

 しまったーー。僕の残金は4780円なんだ。

 全額を使っても足りないかもしれないぞ。


「これって、増やせる方法とかあるかな?」


「ええ。ございますよ」


 そういって、彼女は翼をはためかせた。


「ミラーン!」


 その翼面には鏡のように湿気取りジェルが映る。

 すると、


「ふ、増えた!?」


「私の増殖のスキルを使えばいくらでも増やすことが可能なのです」


「おお!! それはすごい!!」


 増殖スキルでジェルを増やす。

 全てのガイコッツに所持させた。

 

「それじゃあこのジェルを使ってサンドマンを攻撃だ!」


 戦況が巨大水晶に映し出される。


『オーーホッホッホッ! わたくしの封印魔法で水魔法は使えませんわぁ』


 このクレオパトラのような女性は、砂人族のスナ女王。彼女がリーダーのようだ。

 スナ女王の魔法封印によって、魔人族のガイコッツは劣勢に立たされていた。


 でも、それも今日限りだ。


 魔人傀儡ガイコッツは水を含んだジェルをサンドマンに向かって投げつけた。


『マジッ!』

『スナーー!』


 ジェルが命中したサンドマンは体中の砂が吸着して身動きが取れない。

 そこをガイコッツの斬撃が襲う。


ザクン!!


 よし! 攻撃が通る!


 劣勢だった魔人軍はたちまちのうちに優勢へと変わる。

 しばらくすると破壊されたサンドマンたちが散乱した。

 魔人族の圧勝である。


 水晶に映るスナ女王はヘナヘナと座り込む。


『そ、そんなぁ〜〜。ですわぁ〜〜』


 魔王城は大歓声が湧き起こった。


「うぉおお! 勝利だぁあ!!」

「うわあああ!! 流石は魔王様ぁ!!」

「魔王様のお力で我が軍が勝利したーー!!」

「うぉおおお!! 魔王様万歳!!」

「魔王様、ありがとうございますぅうう!!」


 ふふふ。

 良かった良かった。


 そういえば、ミラーンの増殖スキルは使えるよね。


「あのさ。これを増やせないかな?」


 それは僕のスマホだった。

 これを増殖することができれば売ってお金が稼げるんだよね。

 そうすれば忍天堂ズイッチが買えるんだ。


「ミラーン!」


しぃーーーーん。


 あれ? 増えないぞ??


「申し訳ございません。これは高ランクアイテムのようです」


「増殖できるのってランクが関係あるの?」


「はい。構造の単純な低ランクアイテムしか増やすことができないのです」


 あああ……。

 人生って上手くいかないもんだな。


 それから色々と試してみた。

 しかし、増やせるのは100円の物だけだった。

 200円の物さえ増やすことは不可能。スキルといっても万能じゃないんだな。


 まぁ、いいさ。

 100円ショップの商品は種類があるからね。

 これを増やせば魔人国を強化できるだろう。


「あとさ。これ」


「こ、これは……??」


「フエールに似合うと思って」


 それは100円ショップのコスメコーナーで見つけた口紅だった。

 淡いピンクの可愛い色。

 僕がいない間は健気に魔王の代理としてがんばってくれたもんね。

 何かお礼をしてあげないと可哀想だよね。


「カ、カ、カテル、さ、ま……」


 彼女はボロボロと大粒の涙を流していた。


「ええええ!? 嫌だった!? ごめん!!」


「ち、違います……。嬉じぐで嬉じぐで……ううう」


 ああ、嬉し涙か。


「家宝にします」


「いや。気軽に使って!」


 100円だしね。


 それから、部下のみんなにはこれ。


「うめぇ棒。5本セット。色々な味が楽しめる」


 チーズ、コーンポタージュ、キャラメル、ソースに明太子。


「口に合うかわかんないけどさ。異国のお菓子なんだ」


 これならミラーンのスキルで増やせれるからね。

 魔王城のみんなが食べれるよ。

 おすすめは、コンポタと明太子なんだけど……。


「おおおお! これは美味い!!」

「美味でございます!!」

「美味しゅうございます!!」

「いくらでも食べれます!!」


 魔王城は大騒ぎだ。

 うめぇ棒で魔王コールが沸き起こった。


「「「 魔王様バンザーーイ! 魔人国の発展に!! 」」」


 と、みんなはうめぇ棒をジョッキのようにカチンと合わせていた。


 まさか、うめぇ棒で乾杯をするとは思わなかったな。


 そんな時、魔王城にスナ女王がやって来た。


「降参でございます。どうか命だけはお助けください」


 彼女の後ろには、僕の背の高さくらいしかない兵士たちがいた。砂人傀儡、サンドマンである。女王の悲しみに同調して眉を八の字にしている。


 ミラーンは僕に返答を求めた。


「この者たちを死刑に処することもできますが?」


 そんな残酷な。


「砂人国が魔人国になったら恩恵はあるかな?」


「はい。単純に労働力が増えます。サンドマンは便利ですからね」


 なるほど。


「ま、魔王様。わたくしの封印魔法もお忘れなく!」


 ああ、確かに便利かも。


「よし。それじゃあ、今から砂人国は魔人国の領土とする。新しい仲間だから、みんな仲良くするように! いいよね?」


「「「 ははーー! 」」」


「ありがとうございますですわぁ」


 と、スナ女王は土下座した。


「カテル様。スナ女王の額に手をお添えください」


 彼女のいうとおりにすると、スナ女王の額に青い炎が灯った。


「これでスナ女王はカテル様に忠誠を誓いました」


 おお! 僕の傘下になったのか!

 

 忍天堂ズイッチは手に入らなかったけどさ。

 魔王としてこの国を発展させるのは面白いかもしれないな。


 



おしまい。

 


────────



ご愛読、ありがとうございました。


今作は、

カドカワ読書タイム短編児童小説コンテスト用に書いた小説となります。


よって、これから、という感じで終わらせました。

受賞すれば続きを書くことになります。


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僕、異世界転移で魔王様〜王国育成の支援物資は100円ショップでやり繰りします。どうやら無双ができるみたい〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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