第2話

 次の日、俺は普通に登校していた。


「はぁ…行きたくないけど父さんが心配しちまうからな」


  俺は何とか学校まで着き、昇降口で靴を履き替え、教室に向かい、席についた。


「よっ、瑞季。おはよ」


  席に着いた直後に背後から声をかけられた。 振り返ると蓮がいた。


「ん、おはよ」

「どうした朝から変な顔して」

「いつも通りだろ」

「そうか?いつもより元気なさそうだけど」

「いや、元気100倍アンパンウーマンだ」

「なんじゃそりゃ。まぁいいや。ところで話変わるけどさ告白どうだった?」

「話変わってねぇな」


  この「話を変える」の意味を知らない友人の名は『押尾蓮』。

 典型的な陰の者である。


「なんだ、振られて傷ついたのか。元より当たって砕けろ作戦なんだから気にすんなよ」

「いやまぁ確かにそうなんだが実際に振られるときついものがあるんだよ。お前にはわからないかもしれんが」

「いやいや、わかるよその気持ち。俺も告白してるのに全然恋が実らないんだ」

「蓮の場合は二次元だろ…三次元の恋愛を一緒にしないでくれ」


 チャイムが鳴ったところで先生が教室に入ってきた。


「んじゃ、また後でな」

「あぁ」


『空澄舞華』俺の告白した子の名前だ。

  そして先日俺を振ったこの名前でもある。

  舞華さんは成績優秀、運動神経抜群、可愛い、コミュ力◎、カワイイ、キュート。

まさに完璧人間だ。隙なんてあったものじゃない。好きならあるけど。

そんな人間がクラスにいたら誰でも好きになるだろう?


「にしても、この配置はねぇよなぁ」


  舞華さんは俺の隣の席にいる。

   告白したくなかった要因の一つでもある。

しかし、卒業間近ということで告白したのだ。結果は見事な撃沈だったわけだが。


「舞華」

「はーい!」

「今日も元気だな」

「元気なのが取り柄なので!」

「うん、いいことだな」


  うぅ…きっと今にも噂されて陽キャどもからバカにされてるに違いない。

「身の程知らず」「立場を弁えろ」「陰キャが夢みんなよ」なんて言葉の数々が聞こえないけど聞こえてくるぞ。


「瑞季くん?大丈夫、顔色悪いけど」

「え、あ、舞華さん?だ、大丈夫です。問題ないです」

「そう?ならいいんだけどさ」


 俺のことを心配している?

  これって脈ありですか??

  いや、もう騙されないぞ(そもそも騙されてないが…)。


この女はこの女は…くっそ見れば見るほど可愛いな。恋しちまうだろこんなの!

  おまけに昨日告白してきて気まずいはずなのに心配してくれた。

  性格もいいとか本当に完璧じゃねぇか。


  はぁ…結局のところ俺が相手を悪く見ようとしてるんだ。

  でも、振ったからクソ女認定なんてゴミのすることだ。

 俺はたしかにゴミだ。

 だからって性格まではゴミにはなりたくねぇ。

でも、振られたのはきつい。

 いやまぁ俺を降るなんて当然のことなんだけどさ。

  顔もよくなければコミュ力もないし。

  運動もできない。行動する勇気もない。

  そんな人間のどこに惹かれるってんだ…


「…ずき、瑞季!返事をせんか!」

「え、あ、はい!」

「まったく…何をぼーっとしてるんだ」

「す、すいません」


  クスクスと笑われてる気がする。

  被害妄想なのだろうが。いや、そうであってくれ。


「瑞季くん、やっぱり体調悪いんじゃないの?」

「いや、本当に大丈夫。ただちょっと考え事してただけだから」

「ならいいんだけどさ」


  本当に優しいなぁ。まるで天使のようだ。

  てか、昨日まで話しかけてくれなかったのに何か急に話しかけてきたな。なんでだ?

ちょっと舞華さんを挟んだ隣の席の男子からの視線が痛いぞ?熱いラブコールの視線はやめてくれ。俺にそういう趣味はないから。


  チャイムが鳴りホームルームが終わる。


「なぁ瑞季、さっき反応してなかったけど大丈夫か?体調悪いのか?」

「なんでもないよ。ただちょっと考え事してただけ」

「告白の件か?もう忘れようぜ」

「あぁ、そうするよ」

「それがいい」

「藤田くんちょっと」


  舞華さんが手招きで俺を呼んできた。


「なんだ?」

「早く行ってあげなよ」

「そうだな」


「どうしたの?舞華さん」

「人前だからあまり大きな声では言えないけどさ、例の件についてちょっと」


  例の件とは告白のことだろう。


「あぁ、あれね。どうかしたの?」

「前にも言ったけどさ長い付き合いになるわけじゃん私たちって」

「そうなの?」

「そうだよ?」

「友達になるってこと?」

「友達とは違う気がするけど」


  友達ではないけど長い付き合いになる?カレカノ関係ってことか?

いやでも、僕はあの場でしっかりと断られている。では、なんだ?


 意味を理解しようとしていたら舞華さんが、


「それよりもさ、みんなに言う?言わない?」


  言う言わないとはなんだ?


「あの、舞華さんさっきから何の話し--」

「瑞季、用がありますので来てください」

「え、あ、いやでも今--」

「時間がありませんので早く」

「はい。ごめん、舞華さんまた後で」

「わかった。またね」


 舞華さんに別れを告げ、俺は元剣道部部長の『雪風葵』の後に着いていった。


「葵さん何のようですか?」

「さん付けとは他人行儀な。普段は葵呼びなんですからいつも通り葵とお呼びください」

「いや、ここだと人目が…」

「私は構いませんよ?」

「俺が構うんだよ」


  元部長もとい葵は俺の幼馴染だ。

小さい頃からよく遊んでいて、昔も今も仲がいい。

  ただ、葵は人と壁を作りがちで俺と一部の人以外の相手には冷たい対応らしい。

 それで名前に雪が入っていることから「氷の女王様」なんて言われている。

 幼馴染の俺からするとどこが氷の女王様なんだ?って感じだが。


「あ、葵様だ」

「今日も美しい…!」


  このような反応が歩いているだけで貰えるほどの美人で成績優秀、運動神経も抜群。

 これだと聞くと舞華さんと似ているが、一つ違うところを挙げるとすればコミュ力だろう。


「瑞季、先程親しげに話している女性がいましたが仲が良いのですか?」

「いや、舞華さんとは特別仲が良いわけでもないし友達でもない」

「そうですか。安心しました。瑞季は私だけのものですからね」

「それ聞くと誤解されるだろ…あとそろそろ巣立ちして友達作れ」

「いりません。瑞季さえいればいいのです」

「俺がいなくなったらどうするんだよ…」

「後を追えばいいじゃないですか?」

「行動力の塊かよ」

「そうかもしれませんね、っとここです」


  目の前には職員室の文字がある。

  どうやら職員室に用があるらしい。


「おっ、来たか」

「はい」

「んじゃ、これ次の授業で使うから先配っといて」

「わかりました。では、瑞季一緒に運びますよ」

「これぐらいの量なら俺いらないんじゃね?」

「負担は軽い方がいいですから」

「それもそうだな」


 雑談をしながら教室へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きな人に告白したら恋人ではなく義妹ができました 菊一 @kikuiti_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ