好きな人に告白したら恋人ではなく義妹ができました
菊一
第1話
「空澄さん、貴方を初めてみた時から好きでした。よかったら、僕と付き合ってください」
「気持ちは嬉しいけど…ごめんね。藤田とは付き合えない。ごめん」
「そうですか…すいません。迷惑でしたよね」
「迷惑だなんて思っていないよ!告白されて嬉しいし。でも、ほら、私たちは付き合えないよ。だって…」
「いえ、もう大丈夫です。ありがとうございました」
空澄さんの話を遮るように言った。
付き合えない理由なんて言われたら立ち直れないかもしれないし、更に傷つくかもしれない。
なら、聞かない方がいい。
「お時間を取らせて申し訳ございませんでした」
「ううん、大丈夫だよ。だって私たちはこれから長い時間を共有していく仲になるのだから。どうでもいいよ」
そう言うと彼女は屋上から出た。
『長い時間を共有していく仲』とはどういうことなのだろうか?
付き合えないけど友達なら良いと言うことなのだろうか?
まぁどうでもいいことだが。
これは彼女なりの気遣いで、本当に友達になる訳じゃない。
これで、勘違いして話しかけたらただの恥ずかしいやつだ。
にしても、『ごめん』か…
そんな風に言われたら諦めるしかない。
だって、好きな女性が頭を下げながら断っているんだぞ?
男ならば変に纏わりつかずに、潔く諦めるべきだ。
でも…
「普通に辛いなぁ」
俺はそう呟くように言うと暫く呆然としながら立ち尽くしていた。
☆
俺は告白して振られた。
元気で可愛い女の子に。
ボブヘアが似合うブラウン色の髪をしている女の子に。
長く整えられているまつ毛に、身長150ぐらいの女の子に。
アイドルなんじゃないかと思わせるほどの可愛い女の子に振られた。
正直このショックはでかい。
枕を一瞬で濡らすレベルだ。
俺が彼女を好きになったのは入学式でのこと。
一目見てそのまま一目惚れして、そのまま1年間片想いしていた。
そんな、相手に一瞬で断られた。
ある程度覚悟はしていたが実際にやられるときついものがある。
少し期待している自分がいたのも事実なので受けたダメージはでかい。
すぐには癒えなさそうだ。
しかしまぁ、いつまでも引きずるわけにはいかない。
今も時間は刻一刻と動いているんだ。時間は止まってはくれない。
時間は有限。早く立ち直ろう。
「はぁ…ご飯つくるか」
気分を紛らわすために夜ご飯を作り始める。
今日の夜ご飯は鯖の味噌煮とほうれん草のおひたし、あさりの炊き込みご飯に味噌汁。
これらは簡単にできて美味しい。
メインの鯖の味噌煮が出来たので味見をする。やっぱり、美味しい。
でも、何故だかこの日の鯖の味噌煮は少し塩が強かった。
全ての料理を作り終えたので、父を呼ぶ。
「おーい、ご飯できたぞー」
ドタドタと足音を鳴らしながらリビングに入ってきた父。
「お、今日は鯖の味噌煮か。美味しそうだな」
二人で協力しながら食膳し、手を合わせる。
「「いただきます」」
食べ始めてからすぐに父さんが口を開いた。
「瑞季、父さん再婚することにした」
「ほーん、再婚ねぇ…って再婚!?」
「急にでかい声を出すなよ。ビックリするだろ…」
「いやいや、急にそんなこと言われたこっちがビックリしてるから。それよりもどうして急に再婚なんか…」
「いやまぁ瑞季に言ってなかったけで急な話ではないんだよ。交際期間だって来週の日曜で3年目だし」
「よくもまぁ三年間も言わなかったな」
「まぁ今言ったから許してよ」
「適当だな…まぁいいや。相手はどんな人なの?」
「そうだなぁ。優しくて顔立ちが整ってて仕事ができる人だよ」
「父さんの仕事関係の人?」
「そうだよ。広告のデザイン担当の人」
「そうなんだ。顔合わせとかあるの?」
「あるぞ。さっき来週の日曜で交際3年目って言ったよな。その日に顔合わせを行う」
「もっと早く言えよ…」
「1週間前ならまだ早い方だろ」
そうだった。いつも父さんは報告が遅いんだった。
『飯食いに行くからご飯いらない』とかを18時過ぎに平気で言う人だった。
「あと、瑞季と同い年のお子さんがいるから」
「じゃあ、相手も再婚ってことか」
「そうだな、っと電話だ。すまん、ちょっと抜けるぞ」
「わかった」
その後、十数分経過しても戻って来なかった。
その間に俺はご飯を食べ終わり、自室に戻った。
「そういや、相手の名前なんていうんだろ」
そんな疑問が頭の中に残ったが、会えばわかるか、と思い興味がなくなった。
暇になったのでスマホを取り出して好きな恋愛小説を読むことにした。
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