水たまり凪ぐこともなく
山田あとり
水たまり凪ぐこともなく
約束の声くっきりと焼きついて黄昏よりも透き通っていく
朝が来る きみの吐息はひそやかにある 乾いた肌をじっとみる
眠るきみほほえむように 行くはずの映画みてるの? ひとりでずるい
カーテンが囲むベッド淀む時間 かろうじてかぞえる花ごよみ
寒椿 梅 沈丁花 桃
晴れに映ゆ花びら さらら さやら さや 白ちゃけたきみを箸で拾う
やわ若葉叩き風かぜ空をゆけ ひきちぎられた落花地に踏む
帰るけど 牛乳豚コマ春キャベツ買って帰るけどあの部屋はひとり
耳を刺す夕陽にきみといさかった強い言葉がまだ道にいる
街灯のジジ、と照らしてアスファルトもう届かない「ごめん」がころがる
踏切が打ち鳴らすFの
霧けぶる 言われなかったさよならを聞きにわたしは空で溺れよう
音にならない声詰まり のどつかむわたしのかわりに泣いてくれ梅雨
水たまり凪ぐこともなく波紋漠々 きみの息づかいかすかに
入道雲 きみのいのちは水となれ世界をめぐれ、わたしにもなれ
ベランダに蝉が鳴く熱がほとばしる もういいわたしも泣けばいい
精霊馬 茄子が嫌いなきみだけど乗り心地はどう? 胡瓜にする?
かつおぶし生姜に茗荷ごま小ねぎ きみが好きだった薬味そうめん
どこに帰るの
わたしだけまだ汗をかくみだれ髪 歩きつつ背を押す風見上ぐ
水たまり凪ぐこともなく 山田あとり @yamadatori
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