【陸】走れ秀三郎[事件発生]
『走れ秀三郎』
歌:聞こえない 詞:見てない 曲:曲がらない
頼もしく
彼の 足は
虎の如くに 小走りし
男性女性に
「すまない、急いでいるんだ!」
「ふざけんな、この×××!!」
速いぞ 瞬足 秀三郎
彼の 身体は
地面に伏す犬 踏みしめて
吠えた絶叫 置いていく
草道荒道 なんのその
「あの……新富町ってどっちですか?」
「あら、ここ東京駅よ。反対じゃない」
時々
彼の 性格
とうとう
「着いたあぁああああああああ!!!!」
†
新富町三丁目にある
(朝っぱらからどういうことだろう……客が来ているのか?)
秀三郎は門から少し離れた場所から辺りを
そこで目に入ったのは、車両の後部に描かれた涙のような模様金色の紋章。さらに運転手と思われる御者の
(あ、あの紋章と印は……!)
記憶に紛わない、間違いなくそれは
「あぁ……あぁ……ぁあ……っ!!」
秀三郎はその光景を見て、怒りと悔しさが爆発し、我を忘れて
††††††††††††††††
『すいません、おみきさんいますか?』
秀三郎が家の中に入ると、廊下に一人の青年が立っていた。
『ん? 誰だい。俺様は
『あ、はい、アナタの恋敵の知り合いの
『ふぅん、まあいいか。上がり
下駄を脱ぎ上がり誘われるかのように後ろを歩む。
そして辿り着いた部屋の中には。
『あらいらっしゃい。内海さん』
――白無垢の服を着た、おふきであった。
『あ、ああぁ、そ、それは……』
『何突っ立っているんだい、座り
その場で
まるで悪夢を見ているかのようだ。
だが間違いない、もうおふきさんは――
『おいお前、喉が渇いたぞ、茶を注げ』
『はい只今』
甲斐甲斐しく青澄に給仕をするおふき。
その光景は余りに自然すぎて、不自然だった。
『で、話は?』
『あ、はい。実は昨夜どうなったかをお聞きしたくてお伺いした次第で……』
『ハァん。見て
青澄がおふきの肩を掴み自身の身に寄せる。
『もう、コイツは俺のもんだ』
熱っぽい目線を送るおふき、だがその目つきはどう見ても両親の命に従うような、怯えを含んでいた。
『お、おふきさん! アナタは……アナタは今朝雄さんの恋人でなかったんですか!?』
『ごめんなさい、でも……仕方が無いの。親の命令と……お金には、勝てなかったの』
その敗北宣言を聞いて、秀三郎は絶望の底の下に叩き落ちた。
最初、彼らは詩や歌を一緒に詠んだり歌ったりして、天縁のカップルとしてお似合いだと信じていた。しかし今の彼女の姿、仕草を見ている、秀三郎は気持ちが悪くて、仕方がない。彼女の美しい白無垢の姿も骸骨に見え、化粧をした狐のように思えてくる。
覆水盆に返らず、壊れた鏡は戻らない。
『ああそういえばあの
青澄は邪悪な笑みを浮かべて勝利宣言を告げた。
『既におふきは俺様に買われた後なんだよぉおおおおおおおお!!!!』
『嘘だぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』
絶叫が、潮多家の部屋中に響いた。
†
「って、いくらなんでも潮多家に水口の輩が来た程度で物事が全て終わったと決めつけるのは軽率すぎる」
途端に秀三郎は我に返り独り
よく見ると確かに水口の家の者が入っているようだが、それ以外にも多数の知らない車両、人達が家に出入りしている。
まるで引っ越し騒ぎのようであり、どうも奇妙だった。
「軽々しく物事を断定して、人を疑うにも程がある。『自身が人を疑えば、人々も私を疑う』と言われただろう。恩人であり、親友であり、兄同然である良さを信じて、野口君と生涯の友と約束した。だのに少しでも疑う形跡があるからといってここまで人を信じないのは大きな誤りであり過ちである」
秀三郎は自身に説教し、考えを改めた。
するとたちまち今までの
「しかし……どうするか」
どうにかして中に入りおふきと相対し、水口の内情を探り得て、野口が昨夜訪ねてきたかどうか、もし訪ねてきたならその結果はどうだったのか、帰りの時間はいつだったのかを尋ねて何も知らないお
自身の憂鬱な心も是非とも改心したい。
だが人々の出入りが激しく近づくことができない。
(これは無理だな……少し時が経ったらまた来るか)
騒ぐ人々の声の詳細は分からない。
秀三郎は少し歩き、時間を潰す為に近辺の喫茶店へと向かった。
†
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
「
「かしこまりました」
暖かい店内に入り、椅子に座る。ようやく心も落ち着いてきた。なんとなく店内を眺めつつ注文したものが来るのを待つ。
奥では椅子に寄りかかり新聞を黙読している客人がいた。
少しすると、突然もう一人の客が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
「いやーまいった、まいったよ」
店員が挨拶しているにも関わらず、ひたすらにその客人は別の物事を話し始めた。
†
「なんか新富町の方で殺人事件が起きたんだって! あそこの
「はぁ、物騒な世の中ですなぁ」
なんだって?
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