【伍】悪夢
†
お
そして二人分の寝具を敷き、一人で寝床に入る。
†
布団に入りはしたが、寝られない。
寝ようとするも、どうしても眠れずに必死に目を閉じて布団を被る。
すると、何かが目に映り出してきた。
――まるで死人のような顔だ。
眼は充血し、肌は血の気が無く、額は鈍く光り、色のない唇が震えている。
(消えろ……消えろ……)
今度は大晦日の夜から
昨日の午後に出かける時の異常な様子まで思い出すと、彼が出かけた際に胸が落ち着かなかったことを思い出す。
お
睡眠を妨げる
(早く
今夜こそは早く戻り喜報をもたらすと、母にも秀三郎にも安堵させると、今朝雄は強く誓って出かけたものの、彼は帰らない。
秀三郎の心配は尽きず、彼を念じ、彼を想い、心にもない想像を引き出し、脳の血が
耳に、
†
一時の音が聞こえる。
――彼はまだ
二時の音が聞こえる。
――彼はまだ
三──の──こえる。
――彼──まだ――
――――――――
――――
――――――――
――――
――六時の音が聞こえた。
――――ッ
†
(野口君は……!?)
秀三郎は頭を上げ、周りを見渡した。
枕元のランプはまだ微光を漏らし、自分以外に眠っている人の顔の半分を照らしている。
「んがー」
「…………」
野口今朝雄がイビキを
いつの間に帰ってきたのか。枕は足元で、身体は布団の上。表裏も前後もひっくり返って、非常に疲れ果てた様子で深く眠っている。
「なあキミ、生きてるか?」
「ぐー」
揺り動かしても起きる様子がない。
「返事がない。ただの
この時、初めて自分が二時間ほど疲れに疲れて眠っていたことに気づいた。恐らくその間に今朝雄は帰ってきたのだろう。
(これのために長い冬の夜を思い明かしながら過ごしたのか)
そう思うと、なんだか
『疲れ切った者を無理に起こすほど無粋な行為は無い』とは誰の言葉か。自身で目覚めて起きるまで、彼の睡眠を任せるべきだと思った。
足音を立てぬよう
†
「
「死んでます、イビキを
「なら良かった」
今朝雄は朝の支度を終え、お
しばらくすると一階の寝室から
「ヒギャぁああああ!!」
二人が向かうと今朝雄は大きくイビキを掻いて、再び寝返りを打っている。だが深い眠りから覚める様子はない。
時折、何かに怯えるかのように見え、恐ろしい声を上げて苦しんでいる。何度も見ていると、額から汗が滝のように流れ始めた。
内海は手早く今朝雄の頭に手を当てた。
――その時、何か光るものが見えた。
「どうだい
「これは――」
息を呑むように状況を把握し、確信を以て告げた。
「――
「そうか、なら良かった」
お
お榮が戻ったことを確認した後、秀三郎は手を伸ばしてそっとそれを取り出した。
見ると、それは高級そうな新品の
(おかしいな、この
今朝雄が所有する物品について、秀三郎が全て把握しているという訳ではない。だが昨夜いつもと違って遅くに帰宅をし、今も普段持ちそうにない
(いや……いや……馬鹿な事を考えるな。あれは
いつもは信頼している秀三郎の心境も、今ではすっかり参ってしまっている。
精神は迷い、魂すら混乱し、疑問とまでは言えないが、何かが胸をざわつかせている。
「そうだ、話を聞きに行けばいいだけじゃないか」
今ここで疑問に満ちた苦しみに悩み考えるより、新富町に行って、何とかしておふきに会い、昨夜の事情を
それで安心出来るだろう。そう思い立ち、その謎の
「オバさん。僕はチョイとそこまで用事を済ませに行ってきますから、少し下を気にかけてやってください。
「あいよー」
お
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