【参】武田観柳と共に政府の金庫をブチ壊した男
†
その家には広大と言えるほどではないが客人を待つには適当な和室が設けられている。中央の座敷より奥の方には四畳半の茶室、表の方は六畳の床の間、これより先には個室への通路がある。まさに和を感じさせる日本家屋だ。
庭には花畑や、鯉が住まう池や、雲を貫く大樹、などという物は存在しないけれども、生い茂る草木と古めかしい
この
一話にて街中にある多種多様の照明を詳述したが、一般家庭にはガス灯も電灯も普及していない。
なので玄関に
玄関から厨房まで全てを清潔に極めている。
この立派な家が
幕末から明治に維新した際に、
その後、
故郷にいる長女の姉には器量ある婿を迎えさせ、彼女達は
特に不自由のない生活をしていたが、
「老後って、
「
財を成し、家庭を築いた。
後ろめたいことを沢山した。表の家業は立派に興した。
――『
だからこそ、寛三は何かに焦っていたのかもしれない。
†
座敷には盃などが散乱しており酒宴から賓客が帰り去った跡が残っていた。まさに杯盤狼藉、夢の跡。
おふきは小間使いの女中と共に座敷にある食器や皿等を片付けていた。今は箒で床を掃いている。
奥の方から母のおみきが「ふぅや、そこが片付いたらちょいとおいで」と呼びかけてきた。
「はい、ただ今……」
おふきは応えながら、かんざしを持って頭を掻き、柳のような眉をひそめた。
(また、あの話のことかヨ……?)
顔をしかめるも思い正し、足を重たげに向かった。
茶室に入り、母が掻きならす火鉢の前に座る。
「
「いつもいつも同じ事を言うようだけれど、よくまぁお前の気持ちを聞いてみなくっちゃあ分からないが……。まぁお前は何するつもりだい? 私は心配でしょうがないよ」
おふきはまたもやその話か、と眉をひそめるも、ただ一言の返答もせず
「この事を問うとお前は黙ってばかりいるが、母親である私にやぁお前の考えがさっぱり分からないよ。これは親同士の相談でまとまるもんじゃないし。お前の
おふきはそのお説教を耐えるように黙って聞いている。
「ふぅ、お前はもう十八歳になったのだから、そういうくらいの分別の付かない事もあるまい。ねえ? ふぅ」
おふきは絞り出すかのように声を出した。
「だって
「え? 『
「
「何故? それじゃあ明日になったら出来るのかい?」
言い淀んでいたが、ハッキリと答えることにした。
「はい、明日とは言わずに今晩はご返答致します」
だがその言葉におみきはガッカリした。
「何? 今晩……それが私には
呆れたような口調で「あの
「よく考えてごらん。
『
「と、大喜びでいらっしゃるのに……。まだお前があんな
その聞き捨てならない言葉に、おふきは顔を真っ赤に染めて母の方を睨みつけた。
「
突然の
「だってそうじゃありませんか。大晦日の晩に
――まあ、お前さんが嘘を吐かずに義理堅くなさるなら再び義母と呼ばれまいものではありませんが。
「そう仰ったじゃあありませんか! それからあの方がこちらに
道理を通し言質を取った
愛娘の怒気が込められた眼差しにタジタジとなり、火鉢の墨も今や燃え尽きてしまった。
「そりゃあァ……まあそうだけれど……。だって
そんな
「不幸だと仰いますが、
いつも反抗しなかった娘が
「ダメ」と言うのは
密かにおふきの方を見ると『返答は如何に!』と鬼気迫った表情で待っている。どうしたらいいものか、考えたが結論は出ない。
おみきは、ふと暮れかかった日の光を仰ぎ見て「……もう夜になるよ。早く晩御飯の
今に答えが出なくとも、明日の夜には決着が付く。
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