七、宮廷学院の参観ティーパーティー②
「あ、見てくださいませ。次は剣術演技みたいですわ。アーク様も出るそうです」
クロネリアは夢中で参観を楽しんだ。
給仕がお
お茶会のテーブルマナーもまた、学院で習うことの一つだった。
それらの成果を年に一度の参観で保護者に全部見てもらうようになっているのだ。
その後は全員での楽器の演奏や、女の子たちによるダンスの披露などがあって、最後に母親に生徒から感謝を
「お母様、いつもありがとう」
みんながそう言って母親に花束を
「今日は来てくれてありがとう、クロネリア」
きっとみんなと同じように母であるアマンダに渡したかったことだろう。
「この花束は公爵様のお部屋に飾りましょう。アーク様の立派なお姿は、まるで参観に実際に来ていたと
アークは少しはにかんだように
「父上も喜ばれるだろう。良かったな、アーク」
隣に立つイリスはそう言って、アークの頭を撫でようと再び手を伸ばす。
しかしそのイリスの手が届く前に、背後から声がかかった。
「その女が看取り夫人か!」
はっと驚いて
その後ろにはお付きの衛兵たちと執事がいる。
王子ともなると、身軽に一人で動くこともできないようだ。
「お前の
「ジ、ジェシー、僕は丸め込まれてなんかいないったら……」
アークが慌てて弁解している。イリスも困ったように反論する。
「ジェシー
イリスも王子相手に事を
「たぶらかされている者がたぶらかされていると気付くはずがないだろう」
王子は大人のイリスに対しても堂々と言い返す。
自分がどういう存在なのか幼いながらもちゃんと分かっているのだ。
「未来の王になる者として、大切な臣下が不幸になるのを黙って見過ごすわけにはいかない。女よ、何を
ジェシーはクロネリアを指差し、
自分の身分を自覚して、それを示してみせたい年頃なのかもしれない。
クロネリアの耳に、貴族たちのこそこそ話す声が聞こえてきた。
「まあ、あれが噂の看取り夫人でしたの?」
「イリス様と
「
「あんなに若い女性でしたのね。あの方と結婚すると
「
想像していたこととはいえ、やはりそんな風に思われているのかと思うと悲しい。
そして何より、そんな
こんな時、何を言えばいいのだろう。
クロネリアにできることは、ただ正直に自分の胸の内を話すことだけだ。
「さあ! 王子である私に白状するがいい!」
高飛車に告げるジェシーの前に、クロネリアは
クロネリアの行動に人々がどよめき、ジェシーはますます高圧的に見下ろす。
恐ろしい罪でも白状するのだろうかと、クロネリアの周りに人だかりができていた。
「クロネリア……」
イリスとアークが心配そうに声をかけてくれる。
クロネリアは二人に申し訳ない顔で肯き、静かに口を開いた。
「この場で王子様にお
「!」
ジェシーは驚いたようにクロネリアを見つめた。
「その代わり……どうかもう少しだけ……、公爵様のお世話をすることをお許しください。王子様の大切な臣下となられるアーク様を不幸にするようなことは致しません。だからどうか……お願い致します」
深い
「わ、私に誓うというのだな? 多くの者が見て、聞いていたぞ! もしもその言葉に
半分脅すような口ぶりで言い返す。
しかしクロネリアは、そんな言われ方にも慣れていた。
父もガーベラも、前夫の夫人たちも、クロネリアを
もうクロネリアには失うものなんて何もないのだ。
クロネリアは悲しいような
「はい。構いません。王子様のお心のままに……」
「!」
ジェシーは堂々と答えるクロネリアを
しんと静まる庭園に、ふいに高笑いが
全員が驚いて笑い声の主を見る。
「ははは。ジェシーよ。参観の最後に中々
「父上……」
それはジェシーの父、ルーベリアの国王だった。
近付いてくる王を見て、その場の全員が跪く。
「なるほど、あなたが噂の看取り夫人であったか」
王はクロネリアを見て微笑んだ。
「ジェシーはずいぶん
クロネリアは慌てて首を振った。
「いえ。私には余命を延ばすような力はございません、陛下」
「うむ。だが少なくとも、ブラント侯爵は
クロネリアは驚いた。まさか王に礼を言われるとは思っていなかった。
「父上……」
ジェシーは父が看取り夫人を認めたことで泣きそうになっている。
このままではクロネリアを責め立てたジェシーが悪者のようになってしまう。
王子といっても、まだアークと変わらぬ
クロネリアは思わず答えていた。
「恐れながら、陛下。私は、王子様がスペンサー家のご家族をどれほど大切に思ってくださっているのかを知り感動致しました。臣下を思う王子様の尊いお言葉に
ジェシーは驚いた顔でクロネリアを見た。
そして、王はジェシーの様子に気付いたように「ふむ」と肯く。
「確かにアークを思うそなたの気持ちも尊いな、ジェシーよ」
王は告げて、ジェシーの頭をくしゃりと撫でた。
「!」
ジェシーはすぐに顔をほころばせ、
(さすがは王様だわ。誰も傷つかないように丸く収めてしまわれた)
どうなることかと思ったけれど、無事に危機は乗り切ったようだ。
「良かった。クロネリア。国王陛下に
アークがクロネリアのそばにやってきて、嬉しそうに微笑んだ。
「アーク様こそ、私を
クロネリアはほっとした顔で、アークの隣に立っているイリスを見上げた。
「い、いや、私は事実を言っただけだ。君を庇ったわけではない」
イリスは相変わらずそっけない答えを返す。
けれど、その言葉の裏にある温かさをクロネリアはもう知っている。
「いいえ。ありがとうございます、イリス様」
礼を言うクロネリアに戸惑うようにイリスは目をそらし、こほんと咳払いをした。
こうして、参観ティーパーティーは王が綺麗に締めくくって散会となったのだった。
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【書誌情報】
「バツ3の看取り夫人と呼ばれていますので捨て置いてくださいませ」
≪試し読みはここまで!≫
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