第5話 現実と彼女

季節は6月になり気づいた時には俺と彼女が下の名前で呼び合うのは当たり前になっていた。

最初こそ呼ばれる度にニヤけが止まらなかったが今では平然としてられる。

れんとも連絡はとってみるみたいだが下の名前で呼ぶ男子は自分だけだと知った時はとても嬉しかった。他のことがどうでも良くなるくらい優越感に浸っていた。さすがに我ながらちょろすぎるだろとも思うが事実彼女とは下の名前で呼びあっている。その事実だけで俺は満足していた。


「お、橘も西野さんとライカやってるんけ?」


れんが俺のスマホを覗き込んできた。


「あぁまぁね。クラスのみんなと仲良くなりたいなと思って。」

「修学旅行ももうそろあるし確かにそれは大事やな、俺はそんな器用なこと無理やけど」

「れんはすぐ敵作るんだから。みんなと仲良くしろよな」

「みんなと仲良くする係は橘に任せるわーじゃなー」

「勝手に押し付けんなって、おい!

どこいくんだよ、全くあいつはいつも…」



「ゆい、じゃなくて橘くんも大変だね。」


後ろからしたその声はいつも遠くで耳をすまし、こっそり聞いていた声だった。

振り向くと俺の天使がそこにいた。


「えっと、その、西野さんどうかしたの?」

「今日すみれちゃん休みだから、1人なの。」

「そっか、それは寂しいね。」


何度か業務連絡的なことで話したことはあったもののちゃんとした初めての会話に嬉しさと動揺が隠せてるか不安だった。


「そいえば初めてちゃんと喋ったね、橘くん!」

「いつもは文でのやりとりだけだからなんか緊張しちゃう」

「橘くんでも緊張することあるんだね!」

「緊張くらい俺だってするよ」


何を話したかなんて覚えてない。

だけどしっかりと覚えてる。

初めて近くで見た彼女の笑顔は、今まで見てきたどんなものよりも眩しく明るい笑顔だった。


その日の夜


「今日喋れて嬉しかった?」

「俺は嬉しかったよ」

「また喋れたらいいね」

「うん、次は俺から喋りかけるよ」

「すみれちゃんに怒られないといいけどね笑

期待して待ってる笑笑」

「頑張るよ笑」

「私もぅ寝るねおやすみ」

「うん、おやすみ」


せっかく話しかけてもらったし

次は俺から話さないとだな

となると中川さんが休みの日しか無理か

2人きりの状況を狙ってどこかで出待ちってのは気持ち悪いな

部活の終わるタイミングっていってもいつ終わるかとか分かんないし

いっそのことご飯を一緒にって段階踏んで無さすぎか

あぁどしたらいいんだぁぁぁぁぁぁ


次から次へと悩み続ける橘くんであった










橘くん私と喋れて嬉しかったんだ

私ちゃんと喋れてたかなぁ

はやく喋りかけてくれないかなぁ橘くん

次はどうやって喋りかけよう


悩める人がここにも1人…







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たちばな君の唯一の悩み @Aroe820

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