第3話 あなたと出会った1日目

「どうしたの?泣いてるの?」


そう声をかけられて気付いた、どうも私は泣いていたらしい。

服の袖で慌てて涙を拭おうとする、しかし袖についていた砂粒が目にかかって痛さでもっと泣けて来た。


「駄目だよ砂が目に入っちゃうから、目を瞑って動かないで、今綺麗にするから」


そう言って、擦っていた手を掴んで来た男の子に私はびっくりしつつも、言われた通りに目を瞑った、閉じた視界の外でポケットをまさぐるような音が聞こえたと思うと、目元に柔らかい布の感触が当たった。


「まだ目開けないでね、綺麗なハンカチだし大丈夫なはず…」

「よし、綺麗になった、目を開けていいぞ!」


改めて目を開けると、目の前には髪の毛を短く切った人懐っこそうな優しい眼をした少年が居た、思ったより目の前に居たのでびっくりして声が出てしまった。


「わっ、あ、えと、あの…、ありが…とう…」


何とか言葉を紡いでお礼を言うと、その少年は目尻をへにゃりと曲げてほほ笑んだ。


「よかったよかった、君ここら辺では見ないけど何処の家の子なの?」

「と言うかその手に持ってる石!それ6色石だよな、しかも青の!俺それずっと探してるんだけど見つからないんだよ、何処にあった!?」


矢継ぎ早に話しかけてくる少年に答えようとしていると、少年が突然困ったような謝るような目線を向けて来た。


「あ、いや、ごめん、大丈夫?悪い事言っちゃったかな?うわーどうしよー待ってねまたハンカチで吹いてあげるから」


そういって涙をまた少年に拭かれた後、少年は私の隣に座って様子を窺うように待ってくれていた、私は話したい事を頭の中で整理してゆっくりと話し出した。


「い、家は近くにあ…るよ、でも…隣の町との間?にある…らしくて…あんまりこっち側には…来ないんだ、こ、この石は、さっきここに来て…散歩してたら見つけたの…綺麗だと思ったから…ひ、拾ったんだ。」


何度も言葉に詰まって、ゆっくりと話す私に何も言わずに、最後まで聞いてくれた彼は話を聞き終わると立ち上がって手を差し伸べて来た。


「だから見た事が無かったのか、じゃあ石拾ったとこらを教えてよ、俺も欲しいから一緒に探してくれると嬉しい!」


その少年の手を取ろうとした私の手は、掴もうとしても掴み切れずに空中でゆらゆらと揺れていた、すると少年は私の手を取って引いてくれた。


「よし、じゃあレッツゴー!」


そう言って彼との小石探しが始まった――




「じゃあいくぞ、うなれ俺の右腕、サイコエンドスクリュードライバージェネシスインパクトおおおおおお」(ヒュイーン)


「甘いね雄介、ジャスティススイングハンマーインパクト!!!!」(カキーン)


俺は陽介と休日に、海浜公園に併設されており、市民に開放されている小さな野球場でキャッチボールをしていた、最初は。


「ちぇ、やるじゃん、でも二人だけで片方がバッターしちゃうと誰もボール拾いに行けねぇからめんどくせぇな」

「だからキャッチボールにしとこうって言ったのに、陽介が必殺技を投げさせろとか言うから」

「歩だってノリノリで打ってたじゃねぇか!なんだよジャスティススイングなんちゃらって」


昼に集まって家でゲームをしていたのだが、家に居るのも飽きてきて外に出て二人でキャッチボールに明け暮れていたのだが、それにも飽きたのか打ち合いをしていた。海浜公園からも見える浜辺はもう太陽を水面近くまで移しており、思ったよりも熱中して楽しんでいたのだと気づいた。


「よーし、そろそろ帰るか、歩はこの後は海岸に出してた出し物の片づけ手伝いだろ、良くやるよな」

「家がやってる事だしお小遣い貰えるから俺は別に構わないんだけどね、海も何だかんだ好きだし。」

「ま、それもそうか、じゃあまた学校で、じゃあなー」


そう言って野球道具とゲームを詰め込んでパンパンになったカバンを自転車の籠に入れ、親指を立てた後颯爽と雄介は帰っていった。


「うん…?あれ?アイツ俺が打った球を拾わず帰ったんじゃないか?」


この野球場は海浜公園の真横に隣接しており、海浜公園と野球場の南側一面に海浜海水浴場が広がっている、海浜公園側がメインスポットして多くの人が集まり、野球場側は海岸の散歩コースとしてベンチやオブジェクトが立ち並んで居るデートスポット兼展望ポイントとなっている。


ボールを見つけて自転車の籠に入れた後、家の手伝いまでには時間があったので野球場を抜けて散歩コースへと出た。


自分の家はこの海浜海岸の出店関係を任されており、夏は泳ぎに来た人向け、その他季節は散歩や景色を見に来た人に向けて軽食を販売している。自分がこの後手伝うのはその後片付けだ。


「あれ?何してるんだろうあの人?」


散歩コースから少し離れて海岸とコースの間のベンチで綺麗な黒髪の女性が目に入った、俯いて手元で何かを弄っている。


普段なら散歩客や遊びの客だと思いスルーするが、一人で、更にはあまり人の立ち寄らない珍しい場所におり、元々片付けやイベントで良く人に声をかけて防犯呼びかけもしていたのもあり、声をかけながら近寄って行った。


「こんにちはー、大丈夫ですか?」


近寄って見るとその女性は肩を小刻みに震わせている、俯いており顔は見えないが、手元は何故か少し濡れていた。


「どうしました?泣いてるのかな?大丈夫ですか?」


そう声をかけた途端、彼女の肩がぴくっと止まり、おずおずと顔を上げた、綺麗な黒髪をどこかで見たことがあると思っていたに合点がいった、黒井さんだった――

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君と出会って30日目 八雲はじめ @hajime_yakumo

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