#3:これって、私にしか見えてない…… はぁ?!

ふっと目を覚ますと、窓の外から赤い光が漏れていた。


いつのまにか、ベットにもたれて、昼寝をしていたらしい。


正直、昼寝は習慣だから、起きても焦ることはない。だから、大抵ウトウトしている。

いつものように毛布で顔を拭こうとするが、毛布が若干重い。


何だろうと思って、思いっきり引っ張って、顔を拭いた。

毛布があった方向を見ると、やっぱりいた。


もう、私は驚かない。だって、私が名前を付けた。私の「レイ」だから。

レイもぐっすりベットの上で寝ているようだった。


仰向けになって、漫画のような鼻提灯を膨らませながら……

「こんな寝方、本当にあるんだ……」となぜか、感心していた。


私は、台所に行って、コップ一杯の水を飲んだ。

お腹が空いていたので、なんとなく、冷蔵庫を開けた。


昼食に食い損ねた大量のチキンカツがまだ残っている。

正直、食べたいところだが、昼食にしては、明らかに遅く、夕食なら、ちょっと早すぎる時間帯だった。


そもそも、この量を一人で食べきるのは、私には不可能だ。だから、結局、多分、夕食におかずになると思うし、絶対、そうなる。


だから、私は夕食まで待つことにした。

部屋に戻ると、未だに鼻提灯を膨らませながら寝ているレイがいる。


こんな姿を見ていると、なんか、気楽そうだな~と少し羨ましかった。

私はいつからか…… こんな気楽さを失っただろうと…… 高校で変わろうと思ったのに、いつの間にか、自宅に引きこもっている。


過去の自分の理想と今の状況とのギャップが、私の心を蝕み、それを受け止めることができない自分が嫌いとはいかないが、ただ私を苦しめる。


そんなことをぼんやりと考えていたら、突然、鼻提灯が割れて、レイが起きだした。

「ふうん~」


 あくびみたいな声があげて、私の方に飛び込んできた。

「あぁ、ちょっと、びっくりしたよ。」


 私は、レイを抱きしめた。

 この子を抱いていると、なんだか、安心する。この子から感じるぬくもり? 鼓動? 毛並み? この子から感じる何かが私を安心させる。


 レイの表情を見ても、絶対、誰が見ても見惚れてしまうほどの安心した表情だった。

「ふうん~~」


「ねぇねぇ、ずっとここにいない?」

 私は、レイに尋ねた。


 そして、レイは答えるように「ふうん!」とうなずく仕草を見せた。

 私はしっかりとレイを抱きしめた。


 夜の七時ごろ、玄関から「ガッシャ」という音が聞こえた。お母さんが仕事から帰って来たようだった。


 私はお母さんの様子を見に部屋を出ようとしたが、レイが連れってほしそうに見つめるので、いろいろと聞きたいと報告することを兼ねて、抱きかかえるようにリビングへと向かった。


 リビングに行くと、お母さんがくたびれた様子で、お気に入りの座椅子に座って、ゆっくりしている。


 私が「おかえり」と言うと、お母さんは私の方を見て「ただいま」と言ったが、ちょっと驚いた様子だった。


「どうしたの、何かあったの? 調子悪いの?」

 お母さんは私を見て、心配そうに言う。


「うんうん、大丈夫。いつも通りだった。でも、お昼はたべてない。」


「そう」

 そう言って、再び、お気に入りの座椅子に深く座り、ゆっくりしはじめた。

 少し安心した様子だったが、私には、何か違和感があった。


「ところでさ、この子、冷蔵庫に居たんだけど、飼ってもいい?」


「冷蔵庫? あぁ~チキンカツね。今日の夕食ね。二日連続でごめんね。」


「チキンカツじゃなくて、私が持ってるこの子……」

 お母さんは、一瞬、私の方を振り向いた。


「何も持ってないじゃん。お母さんも少し疲れてるから、1時間待ってて…… そしたら、夕食にするから……」


「えっ……」

 私は最初、意味が分からなかった。だから、もう一回もお母さんに見てもらうように、この子が絶対見える位置に座ったが、お母さんはまぶたを閉じて寝ていた。


 若干焦ったが、こんな姿のお母さんは、久しぶりに見た。


 結構疲れていたんだと思い、近くにあった大きめのバスタオルを掛けて、電気を消してゆっくりと自分の部屋へと戻った。


 部屋に戻って、そっと、レイをベットに置くと、この子も寝ていた。

 お母さんは疲れすぎていて、多分見えなかっただけ…… 私はそう強く思った。


 私は、レイを見つめた。いる、絶対いる。だって見えるもん、持てるもん。でも、私は深く考えることをやめて、パソコンを立ち上げて、日課のネトゲ―を四時間ぐらいやって寝た。


 今日はいつもより起きるのが遅かった。時計を見ると10:01とあった。レイも私のベットの上でまだ寝ている。


 そっと、レイを抱きかかえ、リビングへと向かう。


 立って、何かをしているお母さんの姿が見えた。

「あぁ~ おはよう」

 お母さんが私の気配に気付いた。


「なにしてるの……?」

「ちょっと体操、昨日仕事しすぎて、肩が凝っちゃって、朝ごはん、冷蔵庫にあるから。」


 ヨガのような体操をしているが、私の方へ向いてくれない。


「うん……」


 正直、両親には感謝している。こんな不登校な私でも許容してくれる。でも……


「あのさ、この子どう思う?」


「うん?」


 お母さんはまだ、体操を続けている。


「私が両手で抱きしめてる子なんだけど……、どう思う?」


 気になったのか、私の方を見た。


「両手で抱きしめてる子って……、ただ腕組んでるだけじゃない。」


「えっ……」


 訳が分からなかった。私はしっかりとこの子を抱いてる……、ここにいるはずなのに、お母さんには見えない。


「ねぇ、もっとちゃんと見て!」


私は、お母さんの目の前に立った。でも、お母さんは違った。


「ただ、両手組んでるだけじゃない。なにも抱いてない」


 私は混乱した。昨日と違って、お母さんはしっかりとレイを見ている状況なのに、その子が見えない。


 レイが動き出した。

「ふぁぁ、ふう~ん」


 起きたようだった。

 そして、私は現時点で一つの結論を導き出す。


『これって、私にしか見えてない!』


「はぁ?」

 思わず、声に出てしまった。


「どうしたの?なにが「はぁ」なの」

 お母さんは、若干キレてそうな感じで心配そうに声を掛けた。


「ふう~ん?」

 レイが不思議そうに私を見つめていた。

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