第196話 戦いの鍵を握る盾役《タンク》

 俺が懸念していると、ゼファーから「失望するのは、まだ早いぞ」と言ってきた。

 

『《異次元の輪ディメンション・リング》について、奴から(ジーラナウ)弱点を聞いている。スキル能力者は収納空間に長く留まることができないという縛りがあるらしい。つまり本体の支援役サポーターは必ず現実世界で生活しているということだ。となればやはり、黄昏高校の生徒である可能性が見えてきた。それだけでも十分な成果だぞ、マオト君』


 林間学校の件で「渡瀬玲矢」が逃走してから、その手際の良さに協力者の支援役サポーターは黄昏高校の生徒ではないか予想されている。

 既に生徒が数人ほどピックアップされており、今回の「小娘」という情報から女子であることが判明したので、さらに的が絞れた筈だ。


 したがってゼファーが言うように、俺達が戦った成果は大きいと言えるのかもしれない。


「それにね。おニィちゃん達が頑張ってくれたおかげで朗報だってあるんだよぉ!」


 俺の背中におぶさっている、幼女シェルが声を弾ませている。


「朗報って?」


「うんとねえ……あっ、片眼鏡の魔法士ソーサラーさん、わたしの人形を取ってくれる?」


「うむ、シェル殿。10年後、楽しみにしてますぞ」


 まだ5才児のシェルに顎で使われても、ヤッスは嫌な顔せず地面に置いてあった人形を手渡していた。

 ところでウチの変態紳士は、この子の10年後について何を楽しみにしているんだ?


 シェルは『シェルローズ人形』を受け取ると、腹話術っぽく声を籠らせて話してきた。


『――実はマオト殿。お主らが51階層で『狂乱の勇者フレイジー・ブレイヴカズヤ』に逃げられてから間もなくして、奴は52階層で既に死んでおるのじゃ』


 思わぬ知らせに、俺だけじゃなくその場に居合わせた誰もが驚愕した。


「なんだって!? それはガチなのか、シェル!?」


『ガチじゃ。どうやらカズヤは何者かにキルされたようじゃのう。恨みと憎しみに塗れた、凄まじい怨念が52階層で亡骸と共に残っておる』


「口を挟んでいいかしら? シェル、なんであんたがそんなこと知っているわけ? ゼファーとこここにいたんでしょ?」


 美桜は最もな疑問を抱いている。


『「刻の勇者タイム・ブレイヴ」よ、ワシは死霊魔術師ネクロマンサーじゃぞ。ダンジョンに浮遊する幽霊ゴースト達を通し、粗方じゃが死亡者の情報が伝わってくるのじゃ……ただし下界層までじゃがな』


 要するに精霊術士エレメンタラーが木や水に宿る精霊と交信して情報が聞けるように、死霊魔術師ネクロマンサー幽霊そっち系とコンタクトして現地に行かなくても死亡者が確認できるということだろう。


 まるでゴーストで構成されたネットワーク的ノリだな。

 優秀な死霊魔術師ネクロマンサー流の技というやつか。


『シェルの話によると、一緒に逃げた【覇道のキメラ】サブリーダーことサンブーとやらは生きているようだ。そのサンブーが逃走でカズヤが邪魔となりキルしたのか、あるいは……』


「ゼファーさん、あるいはって?」


『――レイヤによって直接キルされたかだ』


 ゼファーの憶測に、俺は不快感と共に眉を顰める。


 渡瀬が『奈落アビスダンジョン』に来ていただと?

 そう思うだけで何故か頭の中が沸騰するほど怒りが湧いていた。


「……どうしてそう言えるんです? 支援役サポーターがやったかもしれませんよ」


『手負いとはいえ、支援役サポーター職が勇者を殺せるとは思えん。マオト君の報告では、カズヤは瀕死状態だったにもかかわらず52階層まで逃げていた。おそらくサンブーにより、ある程度は回復されたに違いない。つまりそこそこ動け戦えた筈だ。それに本来、支援役サポーターは非戦闘員扱いで、せいぜい斃せても低級モンスター程度だろう』


「……もし、そうだとしたら今まで陰でコソコソしていた渡瀬が自分から手を下すなんて今までなかったことです」


『ああ、そうだ。まぁ両親をモンスターと融合させり、同級生に疑似人格を植え付け襲わせるなどエグイ真似をばかりしていたけどな。ジーラナウを失ったことで、モンスターが獲得できず方針ごと変えたかもしれん』


 ゼファーの言う通りかもな。

 渡瀬が【覇道のキメラ】にモンスターの密猟を依頼したのも、きっとそれが理由だろう。


 しかし、未だ俺達は渡瀬に辿り着けないでいる。

 常に後手に回っている気がしてならない。

 杏奈を守るためにも、このままではいけない気がする。


 やはり黄昏高校に女子生徒として潜伏する、眷属の支援役サポーターだ。

 そいつさえ捕えれば、渡瀬の機動力が一気に封じられる。

 俺達、【聖刻の盾】も『零課』に全面協力していくことが必要だ。


 ちなみにカズヤの遺体はモンスターの餌となる前に、早急で『零課』が回収するそうだ。

 死霊魔術師ネクロマンサーのシェルローズより、カズヤの魂が成仏せず残っていれば、ジーラナウのように水晶球スフィアに封じ込め情報を聞き出せるかもしれないと話している。


 かくして俺達の探索アタックは終了した。

 捕虜を『零課』に預け、ダンジョンを脱して行く。


 今回はモンスターよりも人間同士の戦いで疲れてしまった。



◇◇◇



 真乙達が去った後、黒騎士ゼファーのスマホにある人物から連絡が入る。

 スマホの画面には「腐れ魔女」と着信が表示されていた。


『俺だ、腐れ――いやフレイア、どうした?』


『貴方、今どさくさに腐れ魔女と言いそうになりましたわね! プンプンですわ!』


『すまん、でなんだ?』


『受けた依頼の報告ですわ。レイヤの眷属となった者達の情報ですの』


『そうか聞かせてくれ』


『ええ、まず「木下陽翔」に関しては、まだ足取りが掴めておりません。案外、伊能市から離れたのか、あるいはこの世にいないのか。見事なくらい消息が掴めませんわ』


『おそらく後者が近いだろう。レイヤと一緒に支援役サポーターのユニークスキルによって収納され身を隠しているに違いない』


『であれば【氷帝の国】での捜索は不可能ですわね。ですが悪い報告ばかりじゃありませの――残る二名の眷属となった者達の詳細が明らかになりましたわ』


『何? 本当か?』


『ええ、一人は『鳴川なるかわ ヒトミ』24歳。もう一人は『矢埜やの亜紀あき』18歳。どちらも木下陽翔とほぼ同日に行方を晦ましていますわ。それと共通点もあります。全員が芸能人あるいは雑誌モデルの関係者ですわ』


『……なるほど。木下陽翔はモデルだったな。確かにどういう経緯で集まったのか気にはなる……レイヤは普通の高校生だった。であれば、支援役サポーターの小娘か?』


『とにかく、これで依頼は果たしましたわ。あとは『零課』で頑張ってください。それでは――』


『待て、フレイア。お前にも聞かせるべきことがある』


『はて?』


 ゼファーの口から、今回の件が伝えられる。


『……なるほど。あの『狂乱の勇者フレイジー・ブレイヴ』との一騎打ちで完勝するとは、流石わたくしのマオたん♡』


『お前が言うと今度はミオとの戦争になりかねん……とにかくレイヤの次に厄介なのは、奴の眷属である支援役サポーターの小娘だ。ジーラナウに代わる右腕ポジってところだな』


『そのジーラナウはなんと言ってますの?』


『あれから脳トレをさせ、多少は記憶の復元ができた様子だ。しかし状況が異なりつつある……特に「奈落アビス」からモンスターを密猟する手筈は最初の方ではなかったそうだ。裏方に徹していたレイヤも出てきた可能性もある』


『当初の目的が変更されているということですね……「来るべき日」とやらで大きなことをやらかしそうですわ」


『ああ、なんとしても阻止せねばならん。支援役サポーターの小娘に関してはインディに任せているが、またお前の力を借りることになるだろう』


『ええ協力はいたしますわよ。この世界の秩序を守るため(一番はマオたんとの未来を守るためですわ)』


『礼を言う、また連絡する。あれだったら『キカンシャ・フォーラム』にハッキングして参加してもいいぞ』


『二度と来るな! ですわ!』


 ブツっと、フレイアは応答を切った。


 黒騎士ゼファーは溜息を吐き、これからの戦況を不安視した。


 もし邪神メネーラがこの世界で復活したら、間違いなく現実世界は終焉を迎える。

 これ以上、闇勇者レイヤという姑息なテロリストを野放しにするわけにはいかない。


『戦いの鍵を握る希望は――真乙君、案外キミかもしれない』


 漆黒の鉄仮面越しで、ゼファーはそう呟いた。

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勇者の姉に鍛えられ異世界の力を得た俺は最強タンクとして二度目の人生を謳歌する 沙坐麻騎 @sazamaki

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