4話 人生の寄り道

 私は校内の廊下を歩いて昇降口に到着した。

 道中、愛鬼君が私の近くで歩いていたけど、これは一緒に歩いていると言っていいのだろうか。


 下駄箱の前に移動して、収納されている自分の靴を取り出す。

 シンプルな白のスニーカーで、履き心地も歩きやすさも快適だ。

 床に靴を置いたら、足を片方ずつ差し込んでいく。

 靴を履き終えたら、あとは家にいつも通りに帰るだけ。

 私の近くで愛鬼君も下駄箱から取り出した靴を履いているけど、彼とは恋人でもなければ友達でもない。

 さっさと家に帰ろう。

 昇降口の出入口に向かい始めると、愛鬼君が声をかけて私を引き止めた。


「待って、一緒に帰らないの?」

「……一緒に帰りたいの?」

「俺たち結構仲良くしてたじゃん。ここはそのままの流れで一緒に帰るでしょ」

「ちょっと教室で話しただけだし……」

「幸薄ちゃんを綺麗にしてあげたし、階段でもフォローしてあげたのに」

「それは、愛鬼君が勝手にやったことでしょ」

「どうしてもだめ?」

「そもそも、私たち帰る道が同じとは限らないし。愛鬼君とは違う道だよね?」

「それは実際に一緒に帰ってみなきゃわからないよ」


 愛鬼君は肩をすくめながらニタニタと笑う。

 彼のからかっているような表情を見て不快感を覚えると思ったけれど、なぜだか私の体が喜んでいるようだった。


「すぐお別れになっちゃうけど、それでもいいなら」

「うん。道が分かれるまででいいから一緒に帰ろう。やったね」


 愛鬼君は無邪気な笑顔を見せてくる。

 その顔を見て私は少し照れくさくなり、視線を逸らしてしまう。

 きっと男子と帰ることに慣れていないので、私の体が反応してしまったのだ。

 胸のざわめきが収まるのを祈りながら、私は愛鬼君と一緒に昇降口から外に出ていった。




 愛鬼君と二人で下校して数十分。


 愛鬼君が言った通り、お互いの帰り道が分かれるまで一緒に帰っているけれど、彼が一向に私から離れる気配がない。

 本当に偶然、私の家と同じ方向に愛鬼君の家があるのかもしれないけど、それなら今まで登下校中に見かけるはず。

 そして、愛鬼君の家事情を模索しながら歩き続けていると、とうとう私の家に到着してしまった。


「あの、もうすぐで私のお家なんだけど、愛鬼君もこっちの道に家があるの?」

「あっ、しまった。こっち俺の帰り道じゃなかった。うっかりしたー。もう幸薄ちゃんどうして教えてくれないんだよー」

「え、いや、私、愛鬼君のお家どこかわからないし、教えられないよ」

「え、そうだっけ? じゃあ今度教えるね。また明日ね」


 愛鬼君は体をひるがえし、上半身をこちらに向けながら歩いていく。

 そして片手を軽く横に振りながら挨拶をしていった。

 もちろんそれは私に対して。

 無視したら私が不愛想な女子と認識され、悪い噂が広まるのも嫌なので、私も片手を上げて手を振っていく。

 保身のための行動なはずなのに、心がおどっている気がするのはなぜだろう。

 背中が小さくなっていく愛鬼君を見送っていると、ちょっとだけ寂しさが湧き上がってくる。

 しかし彼が言った通り、“また明日”になれば会える。

 別に愛鬼君ともっと仲良くなりたいなんて思っていない。

 そう自分に言い聞かせ、平常心を取り戻そうとしながら自宅の玄関の扉を開けていった。

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