3話 階段を上る
愛鬼君に髪をとかされ続けて数分後。
愛鬼君の手が止まり、明るい声音で発言した。
「はい、終わり。うん、幸薄ちゃんの髪が綺麗に仕上がったよ」
「え、あ、ありがとう」
生まれて初めて他の男性に髪をとかされる経験をして、なんだか恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが混ざった状態だ。
この状態で愛鬼君と一緒にいたら、私は変な行動を起こしかねない。
今日はここらへんで家に帰った方がいいだろう。
「あ、私、そろそろお家に帰ります」
「そお? じゃあ俺も。一緒に帰ろうか」
「えっ!?」
私の一方的な感覚だけど、ここまで仲良く過ごしていたら一緒に下校する流れは必然だろう。
だけど私と愛鬼君は男と女、私は地味で価値の無い女で彼は優秀な男子。
詳しことは知らないけど私の認識ではそう。
釣り合っていない相手だというのはわかる。
私なんかが愛鬼君の隣にいていいのだろうか。
そんなことを思いながら、机脇に引っ掛けていたバックパックに小説をしまい込む。
そしてそれを背負い、席を立って教室から出ていく。
もちろん愛鬼君と一緒に。
二階から一階に下りるために、私たちは階段の前まで移動した。
もちろん帰るためにはこの階段を利用しなければいけないし、私たちは毎日ここを通っている。
すると、愛鬼君が私の横に駆け寄ってきて、手を差し出してきた。
「ほら、転ぶと危ないから、手を貸して」
「え、いや、こんなところで転ぶわけないから。そこまでしなくても大丈夫だよ」
まるでお姫様のような扱いを受けて、私は慌てて拒否する。
嬉しさよりも困惑と申し訳なさ、そして恥ずかしさが勝った。
しかし愛鬼君は強引に私の手を取り、自分の手の平に乗せていく。
「いいからいいから。ほら、下りるよ」
「ふぇあ、あ、うん」
体の奥底が熱くなり、思考がしどろもどろになっているからか変な声が漏れだした。
ちゃんと愛鬼君に伝わっただろうか。
伝わったとしていても、変な奴と思われていないか心配だ。
私は愛鬼君の手を軽く握りながら、というか強制的に握らせられながら、階段を一歩一歩下りていく。
いつも難なくこなしていることを愛鬼君のサポートを受けながら行う。
なんだか不思議な気分だ。
この感覚をもっと味わい続けていたいと何となく感じるけど、同時にほかの生徒にこの現場を見られたら恥ずかしいと思い、少し急ぎ気味で階段を下りていく。
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