もう行きたくない
「
目の前にいるはずなのに遠くなる。
「し、志綾・・・」
荼泉が向かった先は自分の教室。
「・・・」
自分の席に座る。隣は誰も座っていない。
「荼泉さ、ま・・・ゴホン。要君。繋さんはどうしたのかな?」
二人のクラスで授業していた先生であり荼泉の家から来た使いでもある先生が質問する。
「・・・」
「あ、あれ~?要君?」
「・・・」
何も言わない、視線も前を真っ直ぐ見ていて先生を見ていない。
「ねぇ~先生。授業進めましょうよ~」
「秋松君・・・」
チラッと荼泉を見る。使いはバレないように耳を触り小さく「当主様に報告を」と呟いた。
授業が終わり、荼泉は教室を出て行く。使いは気配を消してついて行く。
荼泉が向かったのは屋上だった。普通屋上は立ち入り禁止。使いはそっと覗く。屋上には志綾がいた。ボーっと外を見ている。
「・・・」
「そこにいるのは・・・荼泉様ですね。」
「・・・」
「ねぇ、荼泉様。当主様とお話ししていますか?」
「・・・」
「だんまりですか?・・・荼泉様。今日は天気が良く風が気持ちいいですよ。」
髪が風に揺られている。
「し、
「・・・荼泉様は志綾よりも志飛の方が良いですか?・・・・・・・でも、僕は君の前に現れちゃダメなんだ。」
クルッと回って荼泉を見る。その目は寂しそうで荼泉は下を向く。
「そんな表情も仕草も君は僕に初めて見せる。君は大人ぶっている子供なんだね。良いんだよ。大人ぶらなくても君は君のままで・・・その方が・・僕は好きだよ。」
目の前にいるのに何故か遠い。きっと、手を伸ばしても届かない。
「君は・・・・・荼泉様。戻りましょう。」
いつの間にか志綾が近くに来ていた。
「何を、何を言いかけた?」
「何も言いかけていませんよ。荼泉様の気のせいです。」
志綾は荼泉を通り過ぎて屋上を後にした。
「おい、」
「はい、荼泉様。」
「今、聞いた話をどこかに・・・
「分かっています。」
使いは荼泉の背中を見てから消えた。
荼泉は数分屋上で風を浴びて教室に戻る。教室の扉を開ける前、声を聞いた。
「おい!辞めろよ!」
クラスメイトの
「止めるな、冬真。お前もやるか?」
「やるわけないだろう
秋松と言い合っているような感じだった。
「何があった?」
荼泉が扉を開けて入る。教室の中には先生がいなかった。
「!志綾!何があったんだ?」
周りを見て床に座っている志綾がいた。志綾の周りにはゴミが散乱していた。
「何があった?・・・君は見て分からない?」
口調が志綾じゃない。
「志飛?」
「僕が、僕が、何をした?僕だったらこんなことにはならない。志綾だから?」
「何言っているんだ?」
秋松が志綾を見ながら笑いながら言う。
「僕は・・・僕が一体何をしたと言うんだ。僕は・・・」
「志綾、とりあえずゴミを払え、そして立て。」
手を伸ばして志綾を立ち上がらせようとしたが払われた。
「僕は・・・・・私は、私は大丈夫。大丈夫。大丈夫だから、大丈夫。大丈夫。」
何回も繰り返し言う。だんだんと床に滴が落ちて行く。
「し、志綾・・・チッ、
荼泉は廊下に出て探す。
「
いくら呼んでも出て来ない。
「何をやっているんだ!今、一番、あいつのそばにいてやれるのはお前だけなのに・・・志飛が言ったことをまだ、気にしているのか?知っているはずだ。あいつは嘘つきだ。自分の本心を隠すと。なのになんで、今日、お前は気づかない。」
筒夏が出て来ないことにイラつきながら志綾のところに戻る。
「年髄だっけ?」
「ああ、」
「止められないなら止めようとするな、何も出来ないなら何もするな。・・・志綾。帰るぞ。」
志綾の机からバックを取って無理矢理志綾の腕を引っ張る。
「秋松、片付けとけ。」
「はあ?なんで俺がやらないといけないんだ?」
「お前がやったからだ。」
そう言って扉を閉めて出ていった。
「チッ、冬真。やれ。」
「・・・・・」
「志綾!」
「構わないでください。もう良いです。一人で帰ります。一人にしてください。」
荼泉の腕を払って先に行ってしまった。
越えられない壁で僕らの幸せは・・・ 綾瑪 東暢 @ayame-touno
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