第8話 アメリカ―文字通り人生変わった日 後編
意を決して、シューティングレーンへの二重扉の一枚目を押した私。鉄でできたかなり重たい扉だった。
その瞬間、バン!!バン!!!バババババ!!!!!!と外にいた時と比べようのない爆音で銃声が聞こえる。耳栓越しでもかなりの音で思わず、身をこわばらせる。知らぬ間に心拍数も上がっている。
純粋に、怖い、と思った。二十扉の一枚目でこの音ならば、中に入ったらどんなにうるさいことか。そうドキドキ不安になりながら、二重扉の2枚目を押す。
ババババッバババッバババッバババ!!!!!バババッババアババんんん!!!
うるせーーーーーー!!!!!シンプルにうるさい!なんていう爆音!友人のライブを見に、地下ライブハウスに行ったときの音響よりうるさい!
耳栓+イヤーマフでも鼓膜が振動するのが分かる。体中に音はもちろん、弾が壁に当たる振動が伝わってくる。そのせいでぴっぴの声はなにも聞こえない。いつも身振り手振りでコミュニケーションしている私たちだが、いつも以上に身振り手振りで会話する。正直なにを言っているのかわからない。スタッフから指定されたレーンを見つけて、ピストルや弾を置く。ピンクリボンの的をハンガーのようなものにひっかけて、自分の狙いたい位置にセッティング。ツマミのスイッチをカチカチさせて距離を調整するのだが、正直これが一番楽しかったかもしれない。
レーンでシューティングを楽しんでいた先客は、仲睦まじい中南米人っぽい中年夫婦、イキりちらかしている白人大学生グループ、妙に薄着のカッコつけた黒人カップル。本当にいろいろな人たちがレジャーとしてシューティングをしにくるんだとわかった。こんなに気軽に銃が持てるなんて、恐ろしい。
いや、もしかして、急に隣のイキり大学生グループの一人がこちらに銃口を向けてくるかもしれない・・・そんな嫌な想像をしながら、準備を進める。もしものことがあったらどうしよう、そう思うと、手が震えてなかなかうまい具合に手が動かない。
中にももちろんスタッフがいる。しかし、外にいたガチムチ髭モジャのスタッフとは違い、アジア系のいわゆる草食系男子のようなすこし頼りない男の子が一人・・・。なんで彼をここに配置した・・・??一生懸命ちらばった薬莢を箒で集めているが、ちゃんとお客さんのことを監視しているのか・・・?と心配になってしまう。本気出すとヤベェやつなのだろうか、それとも新人はまずこの仕事から始めるのだろうか・・・。
そんなこんなで、ドキドキしながら、準備を終える。まずはぴっぴが先発だ。以前一回やったことがあるとはいえ、緊張しているのがこちらまで伝わってきた。リズムよく弾をマガジンに装填していく。弾はすごく小さいのに、ぴっぴの手の中にあるそれは、異様な雰囲気を持っているように感じられた。ぽっちゃり体系のかわいいぴっぴの手には全く似合わない代物だった。
装填を終え、マガジンをセットしたぴっぴがピストルを構えて撃つ体制に入った。まっすぐと肘を伸ばし、しっかりとピストルをホールドする。
そして、・・・・バン!!!!!
一瞬の出来事だった。しかし、体にはピストルから弾が放たれた振動がじわじわと伝わってきた。ドキドキがバクバクに変わった。マジで口から心臓がでそうだ。もう無理、やめたい、せっかくの機会だが、やりたくないかもしれない!と体が震える。
ぴっぴが数十発撃って、ピストルを置いた。さぁ、とうとう私の番だ。やりたくない気持ち8割、せっかくだからという気持ちが2割。しかしもうここまで来たんだから、日本じゃできないんだからと、自分を鼓舞してレーンの内側にはいる。
目の前にある黒い鉄の塊に手を伸ばす。小さい頃に遊んでいたモデルガンのようなおもちゃみたい。見た感じは実弾が装填できる本物とは思えない。マガジンを取り外し、弾を挿入していく。バネを押し込みながら弾を一つ一つ装填していくのだが、これがなかなか難しい。ぎゅっと力を込めて押し込まないといけない。映画ではあんなに簡単そうにやっているのに、実際はあんな風にできないんだと思った。
マガジンをセットしてあとは、セーフティロックを外し、トリガーを引けば弾が発射されるピストル。20発ほど装填したピストルはずっしりと重い。鉄。鉄の塊。これで人が殺せるんだ、確かにこんなに重かったら殺せそうだ。そう思った。もはや生きている感覚もない。血の気がひいた。今までで一番血の気がひいた。
いろんな意味で死ぬかもしれない、と嫌な想像をいろいろしてしまう。
もし隣の人が急にこちらを振り向いて、銃を撃ってきたら?
今手の中にある拳銃がぶっ壊れて、暴発したら?
私の頭が急におかしくなって、ぴっぴのことを撃ち殺してしまったら?
一回考え始めたらもう止まらない。怖い怖い怖い。もうさっさと全部撃ち切って、早くここからでたい。そう思って、思い切ってトリガーをぐっとひいた。
「バンッ!!!!!!!!!」
手がビーーーーン!となる。今までにない感覚だった。手がワナワナと震えた。本当にやっちゃった・・・撃っちゃたよ私!と罪悪感なのか背徳感なのか興奮なのか・・・ごちゃごちゃした感覚が一気に押し寄せた。しかし、どこかで目の前で起こった非現実的な風景を冷静に眺めている自分もいる。
確かに的を狙って、撃っていくのはおもしろい。フォートナイトに一時ハマっていたこともあるし、あの感じをリアルで試せるのは嬉しかった。しかし一歩間違えれば最悪「死」と思うと、全然その価値はないと私は強く思った。
それから、自分は装填した分を「早くなくなれ~~!!」と念じながら、ひたすら撃って撃って撃ちまくった。その後せっかくだからとAKなんとかっていう有名なライフルを試してみた。ライフルの方が大きいが、肩を支えにできるので、衝撃も少なく、安定していて的を狙いやすかった。だからみんなライフルすきなんだね。
始まる前は不二子ちゃんみたいなリボルバーが撃ちたい!なんてほざいていたけど、やる気は全くなくなった。ピストルであのくらいの衝撃ならば、リボルバーはもう手が吹っ飛んじゃうんじゃないか。
とにかく早く終わらせたい気持ちで、ライフルも撃ち終わって、ロビーに戻ったが、その後のことはあんまり覚えてない。あぁ、ショットガンを渡されて、早く中に入れとガチムチスタッフに強めに言われているのに、ロビーでずっと友人を待っているおじさんを見かけたときも冷や汗をかいたのは覚えている。というか、建物を出て、見えなくなるまでずっと冷や汗をかいていた。あと、私たちが建物から出る時に、すれ違いで日本人の男子大学生グループが楽しそうに中に入っていったが、無事だっただろうか・・・。
初めて「死」をあんなに近くに感じた。
しかも自分から歩み寄った「死」。
死にたくないのに、近寄ってしまった「死」
今まで自転車に乗っているときのヒヤリハットな瞬間や適応障害だった時に「このまま線路に落ちたら楽になれるかも」と思った時もある。
だけど、ここまで「死」をはっきり感じたのはこれが初めてだった。
自分からやりにいったのに、自分ではコントロールできない「死」の感覚。
あれ以来「死んだ方がマシ」なことは絶対にないし、「死にたい」と思う事もなくなった。
「必死にやれ」「死ね」なんて気軽に言っちゃいけない。
死ぬ気でやってもいいが、死んでしまっては元も子もない。
意味は変わってしまうかもしれないが、死ぬ気でやらない方がいい。
死を感じた人だけしかそういうことしかそういうことを言う権利はない。
病気や事故、そういった経験をされた方は分からないけど、私はそういうことは全く言いたくなくなった。
だって、生きていることよりも素晴らしいことはないと思う。
自ら死に近づいちゃいけない。
毎日安全に生きていきたい。
生きてるってサイコー!
もう一生ガンシューティングには行かないし、自殺したいなんて思わないと思う。できれば銃が合法の国にも行きたくない。平和ボケでもいい、銃刀法のある日本で生まれてよかった!戦争反対!軍拡反対!!
銃をはじめ、人を傷つける武器なんて全てなくなったらいいのに、本気でそう思うことができた経験だった。
どうでもいいけど忘れられない旅行記 ろくでなしクリエイティビティ @umpopo
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